魂が示す先
私が勝利宣言すると、すぐにリリエとルシアが駆け寄ってきた。遅れてアルテラも歩いてやって来る。
3人が私の傍に来てからすぐに『護光』を発動させ、雪と風を防ぐ壁を作り出す。
「今の魔法、私のディバインスラストとそっくりだったな。少し違うけど……しかし威力は私のものと桁違いだった」
「私のは勇者アルディスの技を見て、真似ただけのもの。私から見れば、ルシアの方が強くてキレイだった」
「それを言ったら、私だって父から教わっただけだ!ヒメノさんの方が、凄く強くてカッコよかったと思う!だってあんな強そうな魔物を一撃で倒してしまったんだから!」
ルシアが私の手を両手で握りしめ、目を輝かせながら褒めてくれる。
本場の勇者の娘であるルシアにこの技を褒められると、なんか恥ずかしい。だってこの魔法は、本当に勇者の技をパクっただけだから。
「それにこの武器はなんだ?面白い形をした武器だな。初めて見た」
「破軍滅珠。普段はこうやって遊ぶことが出来る」
そう言って、私はけん玉の左右の小皿と、下方の中皿に連続して乗せ換える技を披露した。
「おおおー!凄いな!面白そう!」
ルシアの目が、更に輝いて見つめて来る。
先程まで凍えて震えていたのが嘘のように、ルシアは元気だ。少し動いて熱を発する事が出来たのだろうか。
そして冷静になって考えると、こんな吹雪の舞う山の中で私はけん玉をしている。凄くシュールな光景だ。
「ヒメノ様がお強いのはさておいて……魔物は倒しましたが、ヒントとやらはどこに?」
「はっ」
私は我に返った。すぐに倒したゼレアの方を見ると、ゼレアのバラバラになった死体から青白い光の塊が出て来て、それが吹雪の中を飛んでいこうとする。
「あの光を追いかける。皆はぐれないように付いて来て」
「りょーかーい!」
先程までフラフラとしていた癖に、一瞬にして元気になったアルテラが先導して光の塊を追いかけて駆け出した。
あれくらいでアルテラがやられる訳ないとは思ったいたけど、本人も隠す気が全くないようだ。
「あ、あれ?アルテラ様、元気じゃないか!?」
アルテラを心配して肩を貸していたルシアが、驚いている。
「それより早く追いかけなくては、見失ってしまいます」
この吹雪の中ではぐれたら、また合流するのは大変だ。リリエに急かされるように、私達は3人でまとまってアルテラを追いかけるために駆け出した。
ゲームでは、遭遇する魔物を倒すたびに出て来る、魔物の魂がカリドの場所へと導いてくれた。魂は方向を示してしばらくすると消えてしまうので、何度か倒してヒントをもらう必要がある。
現実のこの世界でも、同じように魔物から出てきた魂がカリドの場所へと導いてくれるようだ。
しかし魂が消える前に、魔物の魂を見失ってしまった。これがただの暗闇なら目立つんだけど、吹雪いていて視界が悪いのがキツイ。
いや、それは別に良い。ゲームと同じなら、たった一度魔物を倒しただけではカリドの下へと辿り着く事は出来ない。引き離されたら、また魔物が出て来るからまた同じ事を繰り返せばその内カリドの下へと辿り着く。
問題は、魂を追いかけて行ったアルテラとはぐれてしまった事だ。先程も言ったけど、今ここではぐれたらまた合流するのはけっこう大変だ。
「──完全に見失ってしまった」
立ち止まったルシアが、周囲を見渡してそう呟いた。
「アルテラさんもだ!ど、どうする!?こんな所ではぐれてしまうのは危険ではないか!?いや、もうはぐれてしまったから手遅れなんだけど!」
「落ち着いてください。アルテラ様なら一人でもどうとでもなります。それにヒメノ様の言っていたヒントも伝わっているはずですし、カリドの所へ向かえば合流できるはずです」
「そ、そっか。でも光は見失ってしまったぞ?」
「見失ったら、また次の魔物が現れる。倒すのを繰り返せば良い」
「次の魔物って……またあんな感じの化け物が現れるのか……?」
「……」
ルシアのその問いに、私が返す必要はなかった。
地面が一瞬、少しだけ揺れた。収まったと思えば、また揺れる。この揺れの正体は、足音だ。足音は段々とハッキリとして来て、吹雪の向こうに巨大な影を作って足音の主が姿を現した。
そこにいたのは、全身に白く長い毛の生えた毛むくじゃらの巨人だ。背は曲がって猫背気味で、目も毛で隠れているけど毛の中に2つの赤い光が不気味に光ってこちらを見つめている。雪男のさらにでかい版て感じで、身長は5メートル程。太い手足は筋肉質で、とても力がありそう。
名前:ファークリフ
種族:魔物
レベル:42
HP:558110 / 558110
MP:18071 / 18071
これもゲームに出てきた魔物だ。ゲームではもうちょっと小さかった気がするけど、実物はこんな感じなのか。
「ほ、本当にまた出た……!」
『グガアアァァァァ!』
私達の姿を見たファークリフが、こちらに向かって咆哮をあげ、足を速めて突撃して来た。
一歩踏み出すごとに大地が軽く揺れるけど、その歩みは遅い。ゼレアと比べると、レベル的にも格下な魔物だ。今度はあまり気を張る必要もなく倒せそう。
「闇夜・闇風刃」
ファークリフに向かって、私は魔法を放った。私が構えた手から黒い影を纏った風が出て、襲い掛かる。風はファークリフの毛を容赦なく切り裂いた。手で顔や体をガードするような仕草をみせるも、その手を切り裂かれた上で防御されていない足も深く切り裂かれて血が飛び出て雪を赤く染める。
襲い掛かった私の魔法に、ファークリフが足を止めた。
そこにリリエがメイド服を翻しながら駆け寄って、ファークリフの足元に立つと拳を頭上に突き上げた状態でジャンプ。リリエの拳はファークリフの顎に命中し、骨が砕けるような音を響かせてファークリフの巨体は後方に背中から倒れ込んだ。
倒れ込んだ時も、地面が揺れる。
「……リリエさんの戦闘スタイルって、格闘術なのかな?メイドさんなのに」
「……」
私もリリエがまともに戦っている所ってあまり見た事がないので知らなかったけど、どうやらそうらしい。
自分の拳で戦うメイドさん、か。ギャップがあって、カッコイイ。
「……ヒメノ様!」
リリエが私の名を呼びつつ、私の方へと駆け寄ってきた。
その隙にせっかくダウンを奪ったファークリフが、立ち上がろうとしている。
そこで私も異変に気が付いた。揺れている。ファークリフの動きに関係なく、足元から振動を感じる。
「コレは……」
巨大な何かが、轟音をたてながら大地を揺らし、こちらに向かい来る。
『ウガゴォ!』
ファークリフがその場で私達に背を向け、向かい来る何かに備えるかのように腰を下ろして構えた。
「聖鐘・光環」
私は魔法を発動させた。すると私達の上空に光の輪っかが出現。輪っかは大きく広がり、周囲を明るく照らし出した。
ちなみにイメージしたのは、家の蛍光灯である。円形のやつ。
暗闇を明るく照らす事により、この振動の正体が分かった。大地を覆いつく程の大きな雪崩が、こちらに向かって来ている。
ファークリフならこんな雪崩くらいどうという事ないのだろう。ニヤニヤと笑いながらこちらを見ている。
「どどどどうするヒメノさん!?雪がこちらに向かってくるぞ!?」
「雪崩ですか。すみません、私があの魔物をダウンさせたばかりに……」
「リリエのせいじゃない。二人とも、私の傍から離れないで」
私がそう声を掛けると、リリエは私のすぐ横にくっつく勢いで立った。ルシアは私の服の袖を握り、不安げに立つ。
私は迫り来る雪崩に対し、破軍滅珠の先端を向けた。
「──炎獄・烈火噴流」
破軍滅珠を介して魔法を発動させる。すると破軍滅珠の先端を中心として人一人分くらいの大きさの紋章が空中に出現し、そこから炎が飛び出て来た。炎は勢いよく飛び出すと、そのままファークリフに襲い掛かりつつ雪崩とぶつかった。
灼熱の炎が周囲の雪を急速に溶かしつつ、私達を飲み込もうとする雪崩を逆に飲み込み進んでいく。炎は降りかかる雪すらも溶かし、この周囲だけ一時的に吹雪が弱まったように見える。
やっぱり破軍滅珠を介した魔法は強烈だ。カミの武器──聖武具と呼ばれる物だけど、このまま使っていても良いのだろうか。
やがて雪崩が落ち着き、炎も消え去ると、私達の向いている先に雪が溶ける事によって道が出来上がっていた。
「な、なんて威力だ……」
炎に巻き込まれたファークリフは、黒焦げの死体となって出来上がった道に転がっている。
その死体から、魂が出てきた。魂の光が見えやすいよう、先程作り出した『光環』はそこで消し去っておく。
「追いかける」
私は破軍滅珠をストレージの中にしまうと、リリエとルシアの手を握った。2人とはぐれないためである。
そして暗闇の中を飛んでいく魂を追いかけて走り出す。偶然にも、魂は私が放った炎で出来上がった道を進んでいくので、私達も道を走っていく。
道が出来ているので、魂は追いかけやすい。私達はファークリフの魂を見失う事無く追跡する事ができ、気づけば吹雪がやんでいる空間へと辿り着いていた。




