65話
ピピピピ
昨日、セットしたアラームが朝の訪れを告げる。
今日は遂にユニークモンスターと戦う当日だ。ああ、くそ。本当ならここでずっと寝ていたい。
そんなことを考えながら、体を起こす。
いつも通り、布団を整えて朝の支度をする。顔を洗い、寝癖を整えて探索用の服を着る。
なるべく、いつも通りの行動を心がけて精神を落ち着かせていく。
よし、朝ごはんを食べにいこう。
ホテルから少し歩き、食堂に到着する。
食堂の雰囲気が昨日と比べて、ピリピリしている気がする。原因は、殆どの人が黙々と朝ごはんを食べているからだろうか。まあ、無理もない。これからユニークモンスターと戦いに行くのだから。
あまりこの空気の中で食事を続けたくないし、早く食べてしまおう。
ご飯を素早く食べて、食堂を後にする。
一昨日の作戦会議で言われた通りの場所に歩いて向かう。バスで向かう人もいるらしいがホテルから近い探索者は大体歩きだ。
少し歩いて作戦通りの場所に到着した。
昨日も確認したが、市街地と森の境目のような場所だ。ここで、森からモンスターが現れないかの監視をしなければいけない。
よし、今日俺のすべき事後は確認できたし、後はここで作戦開始の信号弾が見えるまで待機だ。
数十分後
空に赤色の信号弾が見えた。
ユニークモンスターが出現した合図だ。
ガサガサッ、という音と共に林から人影が現れる。そいつは、一昔前の狩人がしていそうな格好をしていて、顔を確認しようとも被っているフードが邪魔をして容貌が確認できない。身長は大体2メートルはあるか? そして、手には長い槍を携えている。
警戒しながら、そいつに槍を向ける。
こいつは一体、何者だ? 『危機感知』のスキルに反応はなかった。つまり危険はないか? いや、そもそもモンスターであってるよな? 先手を取るのが正解か? 攻撃しても良いのか?
いや、俺が今考えた所で意味はない。とりあえず、『鑑定』だ。これでコイツが何者かはっきりする。
発動:『鑑定』
《ワイルドハント。群体型ユニークモンスター『ワイルドハント』のうちの一体。身体構造は人間と変わらないが視覚や聴覚などの感覚や腕力や脚力などの身体性能は通常の人間よりも遥かに高い。眷属を召喚し使役する。》
コイツがユニークモンスターかよ!! 前で防衛線をはっている奴らは何をしているんだ!!!
しかし、目の前のユニークモンスターの様子がおかしい。俺に攻撃してくる気配が全くない。それに、『危機感知』のスキルが発動しなかった。コイツに目的はいったい?
というか眷属? 使役してる眷属がいるのに一体だけで行動してるのはおかしくないか?
疑問に思った俺は改めて周りを注意深く観察する。…………………………あれは? 複数の茂みに何かがいるのを発見する。
よし、とりあえず鑑定だ。俺は茂みの中にいる何かに次々と『鑑定』のスキルを使っていく。
発動:『鑑定』
《魔狼。群体型ユニークモンスター『ワイルドハント』の眷属。通常の狼と同じ身体構造をしているが通常の狼よりも数倍、力も速さもある。主人の命が尽きれば、その個体の命も尽きる。》
《魔猪。群体型ユニークモンスター『ワイルドハント』の眷属。通常の猪と同じ身体構造をしているが通常の猪よりも数倍、力も速さもある。主人の命が尽きれば、その個体の命も尽きる。》
クソが!! 伏兵がいるじゃねえか!!!
まずいな。眷属は絶対に茂みにいる2体だけではないだろう。一体何体いる? 狼や猪以外に種類はいるのか?
そんなことを考えているとステータスを確認する時のようにウィンドウが俺の目の前に当然現れる。
《『闇裂く狩人』である貴方に、ユニークモンスター『ワイルドハント』から勧誘を持ちかけられています。ワイルドハントの群れに参列しますか? YES/NO ※ワイルドハント群れに参列すれば貴方は人の身から逸脱します》
は? なんだ、これ? 勧誘? ワイルドハントの群れ? 参列? 人の身から逸脱? どういうことだ? これを承諾すると俺はモンスターになるのか?
クソ!! クソ!!! 一体どういう状況だ!? ユニークモンスターってのはこんなこともできるのか?
落ち着け。冷静になれ。ここからどう行動すれば良いのか考えろ。
まず、目の前のこいつの目的は俺を勧誘することなんだろう。そういうことなら、未だに俺に襲いかからない理由に説明がつく。
次に、勧誘についてだ。勧誘に承諾すれば本当に人ではなくなるのだろう。ウィンドウが出ている時点で本当の可能性が高い。ならば、勧誘を承諾するのは論外だ。モンスターになった時、俺にどういう影響があるのか判断できないのだから承諾はできない。
かといって、承諾しないという意思を見せれば目の前のモンスターはすぐさま俺に襲いかかってくるだろう。茂みの中に自分の眷属を隠しているのが良い証拠だ。
………………逃げるか? いや、逃げ切れる可能性はおそらく低い。背を向けた瞬間何をしてくるかわからないし、眷属の中に俺よりも素早い奴がいる可能性もある。狼や猪がいるんだ。馬とかがいてもおかしくないだろう。
そもそも、ユニークモンスターには逃亡防止の不可視の壁がある。ダンジョンの外であの壁があるのかはわからないが、ある可能性が高い。
それに、逃走するときに『疾走』のスキルを使って逃げ切れなかったら、疲れでまともに戦えないだろう。
助けも期待できない。信号弾は貰っているが増援が来る前に殺されそうだ。それに、こいつが前線を抜けてきたのだとしたら、前線の奴らは余裕がないんじゃないか?
…………………戦うしかない。クソが。考えた中で最も生き残る可能性がある選択が戦うことなんておかしいだろ。
そうと決まれば、目の前のモンスターを戦うための作戦を考えないといけない。
コイツと戦うなら目指すべきは短期戦だ。というか短期戦じゃないと勝ち目がない。長期戦になれば周りにいる眷属どもに、だんだんと嬲り殺しにされるだろう。
周りに控えている眷属たちが動き出す前にワイルドハントを殺し切る必要がある。
なら、すべきは不意打ちだ。相手の虚をついて、素早く殺さないといけない。
作戦は、まず投げナイフで相手を牽制する。ここで、相手が焦ったり態勢を崩すことを狙う。
そして、『疾走』のスキルを使って距離を縮める。
距離を詰めたら『強撃』のスキルを使って攻撃をしていく。狙うなら頭か心臓だ。
大雑把すぎるが作戦はこんなところか。まあ、ワイルドハントが何をしてくるのかも分からないから、臨機応変に立ち回らないといけないが。
俺は自然な動作を心がけてながら投げナイフがある腰に手をかける。
よし、行くぞ。覚悟を決めろ。
俺はウィンドウにある選択肢を選択する振りをして油断を誘い、
発動:『投擲』『疾走』
走ると同時に、アンダースローで投げたナイフが綺麗な軌道を描きワイルドハントに飛んでいく。
よし!! 驚いたのか体勢が少しだけ崩れた。今のうちに少しでも近づきたい。
発動:『危機感知』
近くの茂みに隠れていた狼が飛びかかってくる。
マズイ!! 反応が遅れた!!
「バァウ!!」
「痛っっ!!!」
クソが!! 腕に噛みつけれた!! 痛い痛い痛いいたいいたいイタイ!!!
ダメだ。痛みに怯むな!! 絶対に退くな!! ここで退けば、死ぬ!!! 生きる道は前しかない!!!
発動:『強撃』
スキルを発動して、噛み付いている狼を近くの木に叩きつける。
「キャウン!」
よし! 引き剥がせた!! 早く本体を!!
ワイルドハントの本体に目を向けると既に体勢を整えて俺を迎撃しようとしている。しかし、ここで退くわけにもいかない。
集中しろ。相手の攻撃を察知して反撃するしかない。
ワイルドハントの本体は手に持った槍を構えている。構え方からして、次の攻撃はおそらく突きだ。
観察だ。攻撃のタイミングを見極めて対応する。
俺は警戒しながらワイルドハントの本体に近寄っていく。
まだ。まだ。まだ攻撃を仕掛けてこない。……………来た!!
発動:『プロテクション』
バキ!!
目の前に壁を召喚するが壁に攻撃が当たった瞬間、槍の刃の先が『プロテクション』の壁を貫通する。しかし、流石に威力は落ちているようで俺に届くことはなかった。
危な!! もし、もう少し壁が近ければ普通に当たってたな。
しかし、チャンスだ。相手は攻撃を防がれて隙ができている。勝負をここで決める。
俺は地面を蹴るようにして走り出す。
「あぐっ!!」
バキッ! というような音が俺の体から鳴ると同時に、地面と水平に吹き飛んで行き近くに生えていた木の幹に激突する。
「ぐっ…………ゲホッ……はっ……はっ……」
痛い!! 痛いというか蹴られた部分が熱い!! 絶対に折れてる。クソ、早く回復を。ポーションは少し手間がかかり隙が生まれる。ここはスキルで回復だ。
発動:『回復』
淡い光が俺の体を包み込み先程まであった痛みが消えていく。
「ふう」
よし、怪我は治った。治ったが、状況は悪い。本体と距離が離された。おそらく、まだ眷属がそこら辺に潜んでいるだろう。それらを掻い潜りながら本体を仕留めないといけない。
クソ。こう並べると状況は最悪に近いが、やるしかない。
槍を杖の代わりにして立ち上がり、再び走り出す。
発動:『疾走』
『疾走』のスキルの使用は、これで二度目だ。立ち止まってスキルの効果が切れたら疲労で動きが鈍くなる。これで勝負を決めなければ状況がさらに悪化する。
『疾走』のスキルのおかげで、ワイルドハントとの距離がすぐに縮まっていく。
「バァウ!!」
近くにいた眷属が飛びかかってくるが、馬鹿正直に相手をしている時間はない。
発動『強撃』
「キャウン!!」
スキルを使って走りながら、槍で眷属を吹き飛ばす。よし、この要領で本体に近付いていけば、
「ヒヒーーン!!!」
馬!? 本当にいるのか!? まずい、ものすごい勢いで突進してきている。どうする? 横に避けると『疾走』の効果が切れるかもしれない。なら!
発動:『プロテクション』
目の前に壁を出現させる。
俺はプロテクションの壁に向かって跳躍しそれを足場に更に跳躍し、馬の眷属を飛び越える。
よし!! うまく着地できた!! 『疾走』の効果もまだ続いてる。このまま本体を叩けば!!
ワイルドハントの本体に攻撃を仕掛けれる位置まで近付けた。勝負は速攻で決める。
発動:『強撃』
ワイルドハントの胸に向かって槍を突き出す。
ワイルドハントはその攻撃に対して、後ろに下がる。おそらく、『プロテクション』を警戒して反撃ではなく回避を選んだんだろう。
しかし、回避を選んだのなら好都合だ。
発動:『影操作』
これは今日初めて使うスキルだ。ワイルドハントは警戒なんかできないだろう。
後ろに下がっているワイルドハントの足元に影を出現させて、転倒させる。
よし!! 狙い通りだ!!! なら次は!
発動『プロテクション』
転倒したワイルドハントの枷になるように壁を出現させて、動きを封じる。
おそらく、この拘束は数秒ほどしか持たないだろう。
発動:『強撃』
だが、数秒もあれば充分だ。
俺はワイルドハントの胸に向かって槍を突き刺した。
さて、ここからが正念場だ。これから暴れるであろうワイルドハントと襲いくる眷属たちを対処しながら、槍を突き刺した続けなけらばいけない。
普段なら致命傷を与えた後、逃げに徹して相手の失血死を待つが相手はユニークモンスターだ。致命傷を負った後でも何らかの方法でその傷を治せるかもしれない。
もちろん、治せないかもしれない可能性もあるが、念には念を入れておきたい
パリン!!!
ワイルドハントが暴れてプロテクションが割れる。さっそくだ。
発動:『プロテクション』
よし、問題なくいけそうだな。後はこれを繰り返すだけで、ワイルドハントの本体は抑え込めるだろう。後は眷属たちだ。
「バァウ!!」
狼の眷属が襲いかかってくる。槍は今使えないから、腰にある大きめのナイフを手に取る。このナイフでやるしかない。
「バァウ!!」
狼の眷属は俺に噛み付いてこようとしている。なら、あえてその攻撃を受けてやろう。俺は左腕を狼の前に突き出し噛み付かせる。
「ぐぅ!!」
クッソ痛い!! しかし、痛みの怯んでいる場合ではない。
発動:『強撃』
俺は右手に持ったナイフでできるだけ致命傷になるように狼の腹を突き刺す。
しばらくすると左腕の圧力が消えて、狼は地面に倒れる。よし、まずは一匹。
発動:『回復』
噛み付かれた左腕をスキルで治療する。病気が怖いが、確か『回復』のスキルはある程度の殺菌作用もあるらしい。まあ、後で病院には行こう。
パリン!!!
発動:『プロテクション』
「ヒヒーーン!!」
馬の眷属が俺に向かって突進してくる。
この眷属に対しての対処法は決まっている。
発動:『影操作』
馬の眷属の足元に影を実体化させ、転倒さえる。
ちょうど良い位置に頭が来たのでそのまま攻撃する。
発動:『強撃』
ナイフを馬の眷属の首に向かって突き刺して、致命傷を与える。
しばらくすると、馬の眷属は完全に動かなくなった。これで、二匹目。
パリン!!!
発動:『プロテクション』
猪型の眷属を仕留める。
パリン!!!
発動:『プロテクション』
・・・・・・・・・・・・
眷属たちの相手をしている間にワイルドハントは完全に動かなくなった。しかし、体が光の粒子になるまでは油断はできない。
少しするとワイルドハントの体は光の粒子に変わりドロップアイテムが現れた。
周りを見渡すと、眷属の姿は見つけられない。ワイルドハントの本体が消えて眷属も消えたのだろう。
辺りには木々の葉が揺れる音しか聞こえない。
「はぁ〜〜〜〜」
やっっっっと、終わった。俺はその場に座り込み、カバンに収めていたスタミナポーションを取り出して飲む。
「ごくっ……ごくっ……ごくっ………」
一口飲むたびに、さっきまで体の中にあった疲れが無くなっていく。初めて飲んだが凄い効果だ。
スタミナポーションを飲みながら思考を続ける。
危なかった。普通に死にかけたな。周りを見渡しても眷属の影は見当たらない。本体が消えた事で眷属たちも消えたのだろう。
もし消えてなくて襲いかかってきても『危機感知』があるし今は休んでおこう。
というか、ユニークモンスターってのは何でもアリだな。もし、俺が勧誘を承諾していたらどうなっていたんだろうか?
クソ。政府の依頼なんて二度とごめんだ。まあ、こんな事は二度もないだろ。
そうだ。ドロップアイテムを回収しておこう。
俺はワイルドハントのドロップアイテムを拾い上げる。これは、ネックレスか。見た目は狼をモチーフにしたような感じだ。『鑑定』のスキルを使いたいが、全て終わった後にゆっくり確認しよう。
後は、警戒しながら作戦終了の合図が待つだけだ。
数十分後
緑の信号弾が空に打ち上がり、作戦終了を知らせた。
こうして、政府の依頼から始まったワイルドハントとの戦いが終わった。




