64話
「ごちそうさまでした」
昼ごはんを食べ終わったため、食器を片付けようと席を立ち上がる。黒川さんはまだ食べ終わっていないようだ。まあ、待つ必要もないだろう。
あらかじめ指示されていた通りに食器を片付けて、黒川さんに一言かけようと席に戻る。
「黒川さん。お先に失礼しますね」
まだ、口にものが入ったままの黒川さんは小さく会釈をして返事をする。
さて、これから何をしようか。とりあえず俺に割り当てられた部屋に行ってみるか。そう思った俺は、あらかじめ教えられていたホテルの部屋に向かって歩みを進めた。
ホテルには十分ほど歩き到着した。事前に調べていた通り、結構良いホテルだな。これは部屋にも期待できそうだ。
エレベーターに乗り、目的の部屋がある階に上がる。
「ここか」
割り当てられた部屋の扉の鍵を事前に貰っていたカードキーを使い開ける。
中は普通のホテルの一室になっていた。確か、バスに乗る時に預けた荷物はこの部屋に直接返されているはずだ。
お、あった。玄関に見覚えのあるキャリーケースが置いてある。中身を開いて確認しても俺のだ。
よし、荷物の確認を済ませた後は部屋の確認だな。シャワーや洗面所に温水が出るかや、ちゃんと電気が通っているかなどを確認していく。
うん。問題無く使えそうだな。
部屋の確認を終わり、探索用の服から部屋着に着替える。今日は、もう予定が無いし部屋に居よう。
それからは何事もなく部屋で過ごし、早めに就寝した。
◇
ピピピピ、ピピピピ
昨日セットしていたスマホのアラームの部屋に響き渡る。
目を開けると、いつもとは違う天井が広がっている。
今日は朝ごはんを食べたら、俺が明日の戦いで配置される場所を下見に行き、下見が終わったら明日に疲れが残らない程度に運動する予定だ。
今日の予定を思い浮かべながら朝の支度をする。顔を洗い、髪を整え探索用の服に着替えたら完璧だ。
ガチャリとホテルの扉を開けて、食堂に移動する。
数十分後
「ごちそうさまでした」
食べ終わった食器を片付けて食堂を後にする。
地図を見ながら俺が配置された場所を目指して歩いていく。
「ここか」
少し歩けば、明日俺が配置される予定の場所に到着した。
周りを見渡せば、近くに林がある。ここから撃ち漏らしたモンスターが街に降りて来ないかの監視をすれば良いんだろう。
昨日の作戦を聞いた感じだと、モンスターが打ち漏れることなんてそうそう無いだろう。しかし、警戒は怠らないようにしよう。ユニークモンスターが相手なら何が起きても不思議では無いからな。
周りに何も無いかなどを確認して行く。
よし、下見も終わったし体が鈍らないように運動するか。確か、訓練する場所は各グループごとに軍が場所を指定していたな。確か、俺のグループは学校の運動場だった気がする。昨日の記憶を掘り起こしながら訓練場に足を進めた。
下見に行った時のように少しばかり歩けば学校に到着しグラウンドを覗き込む。普通の高校のグラウンドだが、的などの訓練に必要な物が色々と置いてある。
そして、先客が一人いるようだ。
ん? よく見れば、あの人黒川さんだな。向こうも俺の存在に気がついたようで軽く会釈をしている。
一応、挨拶した方が良いんだろう。そう思い、黒川さんに近づき声をかける。
「おはようございます。黒川さん」
「お、おはようございます。冬野さん。冬野さんもトレーニングですか?」
なんか動揺してるな。どうしたんだ?
「はい。体が鈍らないように運動しようと思いまして」
会話を終わり。トレーニングを始めようと踵を返す。
「すみません。冬野さん。少しだけ私の頼み事を聞いてはいただけませんか? 時間は取らせませんので、どうか」
黒川さんに呼び止められる。一体何だ急に。まあ、別に急いでいるわけではないしな。とりあえず、要件だけ聞いてみるか。
「頼み事ですか?
「はい。実は、冬野さんに見て欲しい物があるんです」
「見て欲しい物ですか?」
「はい。そして、見た後に素直な感想を伝えて欲しいんです」
まあ、別にそれぐらいなら良いか。
「えっと、わかりました」
しかし、俺は一体何を見せられるんだ?
「先日、私がスキルのせいでこのような体になったと言いましたよね。そのスキルの名前が『魔法少女』というんです」
「魔法少女?」
魔法少女? 魔法少女って、あの魔法少女だよな? 変身して魔法を使うやつのことだよな?
「こればっかりは、見せた方が早いので今からお見せしますね」
そう言うと、突如空中に星の衣装が施された可愛いステッキが出現し黒川さんはなんの躊躇いもなく、それを掴み取る。
「マジカルチェンジ!!」
え?
黒川さんが持っていたステッキを掲げながら叫ぶと、黒川さんの体が眩しい光に包まれる。
少しすれば光が晴れ、黒川さんの姿が見えてくる。そこには青を基調としたヒラヒラのフリルをふんだんにあしらわれた魔法少女の衣装を着た黒川さんが現れた。
「魔法少女プリティ・サファイア!! 参上!!」
そんな文言と共に、黒川さんが普段絶対しないようなポーズを笑顔でしている。
………………………俺は、一体何を見せられているんだ?
「っ〜〜〜〜」
黒川さんの顔がどんどん赤くなっている。相当恥ずかしがっている様子だ。
「どう、思いましたか?」
顔を赤くしたまま俺に感想を求めてくる。これ、どう返すのが正解だ?
「その…どう、とは?」
「やはり、恥ずかしいですよね!? こんな歳にもなって魔法少女だのプリティ・サファイアだの言って、こんなヒラヒラの衣装を纏ってポーズを取るなんて!」
無茶苦茶、早口で捲し立ててくる。
「えっと、そんなに恥ずかしいのなら無言で変身すれば良いんじゃないですか?」
「スキルを発動すると体と口が勝手に動いて、さっきみたいになるんです」
マジかよ。やべぇな『魔法少女』のスキル。
「じゃあ、その、使わなければ良いのでは?」
「このスキルこんな見た目でも無茶苦茶強いんですよ。見ててくださいね」
そう言って、練習のために用意された鉄製の的にステッキを向ける。
「スターショット!!」
ステッキの先から星の形をした物体が的に向かって飛んでいく。結構早い速度で飛んでいき、的に当たる。
ドカーン!!!
鉄製の的が爆発し、そして跡形も無く消滅した。…………………………マジかよ。『魔法少女』のスキルつっよ。
「どうですか?」
俺が呆然としていると再び黒川さんに声をかけられる。
「なんというか、すごいですね…」
「そうなんですよ。使うのは恥ずかしいですけど、とても強力なスキルなので困ってるんですよ」
まあ、これだけ強いなら使うべきだろうな。
「えっと、それで、感想でしたよね」
まあ、素直に思ったことを伝えれば良いか。
「はい、素直を感想をお願いします」
「やっぱり、これだけ強いなら積極的に使うべきでないでしょうか」
「そう、ですよね。やはり、恥ずかしいなんて気にしている場合ではないですよね。ありがとうございます。冬野さんが話を聞いてくださったおかげで、悩みが軽くなりました」
別に何も悩みを解決するようなこと、言ってないよな? もしかして、誰かに悩みを聞いて欲しかっただけか? まあ、別に良いか。
「それなら良かったです」
「お時間を取れせてしまって申し訳ありませんでした。冬野さんも何か私に頼みがある時は気軽に何でも言ってくださいね」
「はい、その時はよろしくお願いしますね。それでは失礼します」
俺は黒川さんと別れトレーニングを始めた。
明日はついにユニークモンスターと戦う日だ。死なないために更に気を引き締めていこう。




