63話
「探索者の皆様、本日はお越しくださり誠にありがとうございます。目的地には数時間ほどで到着する予定です。事前に言っていました通り、途中に何度か休憩を取りますのでトイレはその時にお願いします」
そう言って、政府の軍人はバスを出発させた。
「あの、今よろしいですか?」
隣の女性から声をかけられる。一体何の用だ?
「どうしましたか?」
「改めまして、先程はありがとうございました」
「いえ、お気になさらないでください」
「いえ、そういうわけには…………今更になるんですが、お名前を伺ってもよろしいですか? これから、数時間は隣で過ごすことになりますし、お互いの名前ぐらいは知っておいても損はないと思うんです」
自己紹介? まあ、それぐらいなら別に良いか。
「冬野礼司と言います。よろしくお願いします」
「ありがとうございます。私は黒川凛と申します。こう見えて、今年で31歳になりました」
31!? まさかの三十代!? この見た目で!? 若く見えるにも程があるだろ!! いや、もしかして何かの冗談か?
「えっと……………」
「ふふふ。見えないでしょう。スキルの影響でこんな体になったんです。ほらこの通り」
そう言って身分証を見せてきた。うわ、本当に31歳だ。写真も本人のようだし、冗談にしてもこんな手の込んだことしないだろう。
なるほど、『魔女』や『聖女』と同じタイプのスキルか。若返らせることができるなんてどんなスキルなんだ?
「急にこんな話をしてしまい、すみません。よく小学生か中学生に間違われるので最初に行っておこうと思いまいして」
そう言った彼女の顔は何処か哀愁を感じさせる。相当、苦労してそうだな。
「冬野さんは………随分、若く見えますがお年を聞いてもよろしいですか?」
「今年で16歳になります」
「16歳!? まだ高校生ではないですか!!」
まあ、周りを見た限り俺以外に高校生らしき人はいないし驚かれるだろう。本当に何で俺が呼ばれたんだろうな。
そんなことを考えていると、驚いたあまり黒川さんが出した大きな声に周りにいた何人かの視線が集まる。
「黒川さん、もう少し声を……」
「も、申し訳ありません」
そう言って黒川さんは恥ずかしそうに身を縮める。
「その……親御さんは今日来る事に反対なされなかったんですか?」
「両親は大災害の日に……………」
「……そう、なんですね。すみません。無神経な事を聞いてしまって…」
「いえ、気にしないでください」
…………………………………お互いの間に気まずい沈黙が訪れる。親のことは言うべきじゃなかったか? いや、これで同情をして戦場で助けてくれるかも知らないし良いか。
しかし、この空気はなんとかしないとな。話題をそらそう。
何か違う話題を考えていると、黒川さんが薬指に指輪を着けているのが目に入った。結婚してるのか。それについて、聞けば良いか。
「そういう黒川さんは旦那さんに今日来ることを反対されなかったんですか?」
「……………………なんで、私に旦那がいると思ったんですか?」
明らかに黒川さんの雰囲気が変わった。まずいな。何か地雷を踏んだか? でも、聞いてしまったからには話を続けるしか無い。
「えっと、薬指に指輪をなされていたので……」
「ああ、なるほど。…………私に旦那はいません。この指輪は遺品のなんです」
「遺品?」
「はい。私、大災害の日に付き合っていた彼にプロポーズされたんです。でも、彼は突然現れたモンスターから私を庇って、そのまま帰らぬ人に……」
明らかな地雷だ!! クソ。さっきの質問、無かったことにはできないことか。
「その、すみません。無神経なことを言ってしまって」
「ふふ、お気になさらないでください。先程、私も無神経な質問をしてしまったので、おあいこということにしましょう」
数時間後
目的地にバスが到着した。他の探索者たちが各々、バスから降りている。
「目的地に到着したようですね。私たちも降りましょうか」
そう言って、黒川さんが気さくに話し掛けてくる。この数時間で結構、好感度を上げれた気がする。
そんなことを考えながら、バスを降りる。
「3号車の皆様は自分についてきてください!!」
バスの中にいた全員が降りたのを確認した軍人が先導を始め、建物の中に案内される。どうやら此処で作戦が説明されるようだ。
「初めまして。私はこのグループの説明を担当する河野だ。短い間だがよろしく頼む」
それから河野さんは、明後日の戦いの作戦を地図を使って説明していく。
明後日に戦うモンスターは水見紗季に説明された通り、とてつもなく数が多いらしい。
そして、今日新しく説明されたことがある。どうやらそのユニークモンスターに、ゲームでいうところのボスキャラとみたいな個体がいるようだ。その個体が途轍もなく強く、その個体には水見紗季が一人で対応するらしい。
肝心の俺たち探索者はモンスターが出現する地点を囲うように配置され、探索者が現れるモンスターをその円か逃さないように戦っている間に、水見紗季がボスキャラを倒す作戦と説明された。
しかし、明後日戦うユニークモンスターには分からないことが多く何が起きるか分からないので気をつけないといけない。
「そして、君たちにはこのエリアで防衛してもらう。モンスターはこの方向から攻めてくるので、この一方向に集中して戦ってもらう事になる」
そう言いながら、軍の人が地図を指差しながら説明をしていく。
「そして、これからどのパーティーがどういった役割を担うかを発表する。代表の者の名前を呼ぶので返事をして欲しい」
役割か。絶対に最前線は嫌だ!! 頼む!! 後ろの方の安全な役割に当てられててくれ!!!
どんどん名前が呼ばれていく。そろそろ俺の番か?
「冬野礼司」
きた!! 頼むぞ!!
「はい」
「君には、この地点でモンスターの討ち漏らしがいないかの監視と討ち漏らしが起きた場合は、そのモンスターの討伐をしてもらう」
河野さんは戦場の前線よりも後ろの付近を指差しながら説明する。つまり、討ち漏らしの対応が明後日の俺の仕事みたいだ。
………………………よし!!! 少なくとも、前線よりも危険は少ない!! しかも、討ち漏らしが無ければ戦わなくても良いってことだ。
そんなことを考えているうちに全員の役割を説明し終わったようだ。
「以上で明後日の作戦についての説明は終わりだ。これからの予定は事前に説明していた通り、昼食を食べたあとは自由行動になる」
突然、河野さんが頭を下げる。
「最後に、我々の力不足によって君達を巻き込んでしまってすまない。どうか我々に君達の力を貸してくれ」
◇
「いただきます」
食堂に移動して昼ごはんを食べ始める。
「前の席、よろしいですか?」
突然、横から黒川さんからを相席の許可を求められる。何故だ? 周りを見ても他に空いている席はある。
「えっと、他にも席は空いてますけど…?」
「その、周りの方がパーティーで固まっていて一人で食べていると肩身が狭くてですね。一緒に食べてはいただけないでしょうか?」
黒川さんは、はにかんだ笑顔を浮かべながら俺の様子を伺ってくる。
確かに、周りを見るとほとんどの人が複数人で話しながら食べている。この中で一人で食べてたら肩身は狭いだろう。明後日、一緒に戦う人と仲を悪くするのも良くないか。此処は了承しておこう。
「そういう事なら喜んで」
その言葉を聞いた黒川さんは、はにかんだ笑顔から一転、花が咲いたような笑みを浮かべる。
「ありがとうございます! それでは、失礼しますね」
それから、黒川さんと他愛無い会話をしながら食事をした。




