修学旅行:後編 24
時は少し前に戻る。
街を見渡せるビルの屋上で。黒衣を纏った大男が佇んでいた。男が見つめる先。街に居たヴァンガード達が突然、博物館の方に飛んで集まっていく。
「……お前、恐怖しているな。取り繕っているが呼吸でわかる」
黒衣の男、イゴールは振り向かないままそう笑った。屋上に出る扉の前に立つ秋津は、じっとイゴールの背を見据えた。
「あなたが今回の件の首謀者ですね?」
「……そうだと言ったら?」
秋津は足を踏み出し、イゴールに向かって行った。その足音を聞いて、イゴールはガタガタと笑いながら振り向く。
「お前、そんなに、そんなに怖がっているのに、私に向かってくるのか」
「奴らを引き下がらせてください。今すぐに」
「そんなにあの兎が気に入ったのか?」
秋津はイゴールの黒いシャツの胸元を掴みあげたが、体格差がありすぎて、ほとんどぶら下がっているようだった。
「奴らを引き下がらせてください」
「嫌だと言ったら?」
「戦って、言うことを聞かせる他ありません」
「ふん……」
イゴールは穏やかに秋津の手を取って外して、シャツの襟を整えると、街の方を向いた。
「気に入った。だから教えよう。今回の首謀者は確かに私だ。だが、私では奴らを止められない。私は火を放ったにすぎない、マッチは持っていてもポンプは持っていない」
「ポンプはあくまであの少女だと?」
「そうだ……しかしお前、どうやってここまでたどり着いたんだ?」
「あなたの部下のパイロットを殴って吐かせました。怒りますか?」
イゴールはまたガタガタと笑った。
「なるほど、イイダを拷問したのか」
「ええ、デウス・エクス・マキナには作劇者が居るはずですから。あなたはあの子の居場所を特定して、あの飯田という内通者に、あの子の元にわざと殴り飛ばされるよう指示をした」
「その通りだ、ますます気に入った。……いや、イイダのことは別に構わんよ。拷問に屈するような弱い奴には興味が無いからな」
イゴールはそう言って街に背を向けると、秋津が出てきた階段の方に歩き始めた。イゴールが秋津とすれ違うところで、秋津はイゴールを呼び止める。
「……目的は何ですか?」
イゴールは歩みを止めない。
「答える義理はないな……私は2度、お前に気に入ったと言った。だから2つ与えた。私が首謀者であることを明かし、部下を拷問されたことを許した。これ以上私がお前に与えるのは筋違いだ」
秋津は屋上から出ようとするイゴールの前に立ちはだかった。
「どけ、気に入ったと言っただろう。お前がそうして、私から1つ奪おうと言うなら、私もお前から1つ奪わなければならない。そんなことをさせるな」
秋津はイゴールをじっと見据えて、ポケットから財布を取り出した。
「お釣りです。あなたが忘れていたので、届けに来てあげました」
そう言って秋津は、イゴールの大きな手にお釣りを握らせた。イゴールはまたガタガタと笑って、お釣りをポケットにしまうと、屋上の扉を開けて、暗い階段を下って行った。
「……復讐だ」




