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鋼の月と白兎  作者: さかはる


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修学旅行:後編 13

「やめてよ、寧々(ねね)さん。私は行くよ? ほら、自衛隊の人、気絶してるし」


 空気が漏れる音と共に、動かなくなった12式の胸部ハッチが開く。パイロットがコックピット内で意識を失ったときのための安全装置が作動したのだ。


 寧々はエレンから目を離さない。


「ダメです。あの12式は少なくない箇所が確実に故障しています。あなたの体格ではシートベルトもロクに意味をなさない。ついでに、アレにはノイズゲートも搭載されています。ヴァンガードの操縦に際してノイズゲートを必要としないという、あなたの才能も、あの12式では発揮できない。あんなもの、動く棺桶と大差ありません」


「わかってるよ、でも乗りたいの。だって私、天性のパイロットだから。ヴァンガードがあったら乗らずにはいられないの」


 そう言って12式の方へ歩いて行こうとするエレンの前に、寧々は立ちはだかった。


「……ねぇ、寧々さん。……そうだね、寧々さん風に言うなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


「はい。なので、()()()()()()()()()()


「そうだね、でもそれが問題なんだ」


 エレンは遠くに落ちている砂まみれの氷袋を見た。


「今ここでやったら、まず間違いなく私が勝つけど、私もただじゃ済まない。どうせ私がヴァンガードに乗るなら、元気な私と、大怪我してる私、どっちを乗せたい?」


 寧々はじっとエレンを見つめた。


「それに、寧々さんだって、動ければ色々できるでしょ? 動けなくなっちゃうよ?」


「……」


「自衛隊の人も、街の人たちもきっと助かるよ? 私、異形のヴァンガードと戦ったことあるし。中破した12式に乗ったって、並のパイロットには遅れは取らないよ」


「……」


「ね? お願い寧々さん」


 エレンはそう言って、砂まみれになった割烹着を寧々に差し出した。寧々は黙ってエレンを見つめていたが、どっと息を吐き出すと、肩を落とし、割烹着を受け取った。


「はぁ、まったく。……まぁ、一度痛い目を見るのもいいでしょう。私は、あなたが死なずに済むように駆けずり回るとしますよ……」


「ふふ、ありがと」


「ですが、12式の状態をチェックさせて貰いますよ。何が動作して、動作しないのかはっきりさせておかないと、戦闘の最中に大変ですから」


 そう言って寧々が12式に近づこうとしたその瞬間だった。突然、12式のモーターが唸り、ゆっくりと立ち上がったのだ。


「おや、自衛隊のパイロットさん、気づかれたようですね。残念ですが──」


「……違うよ」


「え?」


 エレンの方に振り向く寧々。12式はゆっくりとエレンに歩み寄ると、その大きな手をエレンの足元に差し出した。


「ッ!?」


 寧々が何が起こったのか理解した時にはもう遅かった。


 踵を返し、エレンに飛びかかる寧々。エレンは、12式の手に優雅に腰掛けると、12式は、エレンをコックピットの元へ持ち上げて行った。


「馬鹿な! ありえない!」


「寧々さん、12式の足の裏に張り付いて、街の戦闘が終わるまで、私の攻撃に耐えるつもりだったでしょ。12式は優秀なヴァンガードだからね、足の裏に生体反応があったら、安全装置が作動して足を地面に付けられ無くなる。これなら、私を傷つけずに私を止められる。うん、巧い手だ。寧々さんはやっぱり信頼できる大人だね」


「待て! 待ちなさい!」


 エレンはコックピットから気絶した自衛隊員を運び出すと、12式の手に乗せてそっと地面に降ろした。


「いい子だね。えらいえらい」


 エレンは12式の手に乗ったまま、12式のボロボロの装甲を撫でる。


「ありえない……! ハッチが空いていたとはいえ、コックピットの中の神経共鳴インターフェースに、10m近く先からアクセスし、神経共鳴を成立させるなんて!」


「ふふ、言ったでしょ? 私、天性のパイロットなの」


「ッ!!」


 エレンは12式の中に乗り込むと、ハッチを閉めた。12式のスピーカーからエレンの声が聞こえてくる。


「じゃあまたね、寧々さん。自衛隊の人のこと、よろしく~」


 そう言って手を振ると、エレンを乗せた12式は走り去って行った。後に残された寧々は、歯ぎしりをして割烹着を握りこんだ。


「あの……クソガキ……!」


◆◇◆


 自衛隊の通信記録には全てが残されていた。


「"特定武力攻撃に対する例外対応規則に則り、第3機動士隊及び第8戦車中隊は──"」

「"apfsds弾の有効性を確認。これより、民間人保護を目的とし、戦車を主軸とした──"」


 第3機動士隊所属の12式機動士『ウォーカー05』のコックピット内のモニタリングカメラに映るのは、ポニーテールを揺らす凛々しい女性隊員。東雲飛鳥特佐だ。飛鳥は、飛燕零式の専属パイロットだが、それ以前に自衛隊でも指折りのヴァンガードのパイロットだ。飛燕零式はメンテナンス中だが、身体は空いているのだから、乗れる機体があれば乗るのがエースの務めというもの。


 異形のヴァンガードの触手攻撃を、大太刀で捌きながら飛鳥は声を張る。


「ライフルも誘導弾も使うな! どうせ効かない! 流れ弾で街に被害が出るだけだ!」


 触手を太刀で受け流す度に、火花が零れ落ち、12式の2色迷彩が照らされる。


 ウォーカー06のパイロットはそれを聞いて苦笑いした。しかし飛鳥の言うことは事実だった。12式に搭載されている火器は、ヴァンガードや軽車両、戦車の上部装甲には十分な効果を発揮するが、戦車の正面装甲や異形のヴァンガードのような堅固な標的にはまるで効果を発揮しない。これ以上の攻撃能力は自衛隊の装備品として『過剰』であると、法的な側面から制限を受けているのだ。


 しかも、ここは市街地だ、迂闊なことをすれば守るべき市民に被害が及んでしまう。


「無茶苦茶言いやがって、これだからエリートは……おいお前ら、根性見せろ! 3人掛かりでこれじゃ話にならんぞ!」


「"ウォーカー07、了解"」

「"ウォーカー08、りょ、了解!"」


 飛鳥がたった1人で異形のヴァンガードを抑え込んでいる間、ウォーカー06のパイロット達は、3人掛かりで別の異形のヴァンガード1機に苦戦していた。いや、正確には4人掛かりであった。まだ新人だったウォーカー09のパイロットは、戦闘開始直後に触手攻撃をモロに食らい、遥か彼方まで殴り飛ばされたのだ。


「”飯田の奴、大丈夫っスかね!? さっきから応答無いっスけど!”」


「心配すんな! 触手は貫通していなかった、ぶっ飛ばされた衝撃で伸びてるだけだ! じき戻ってくる! 集中しろ! 戦車が来るまでとにかく耐えるんだ!」


 ウォーカー06の大楯が触手を受け止める度に、コックピットに重い衝撃が走る。足が滑り、アスファルトが砕ける。いつか叩き込んでやろうと構えている右手のハンマーを振るう隙は無く。


 その時だった。


「”先輩見てください! ウォーカー09が動いています! 飯田の奴! 戻ってきました!”」


「飯田! 遅ぇぞ! とっとと戻れ! 隙見て仕掛けるぞ!」


 しかし、ウォーカー09からの返答は無かった。

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