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よくあるお伽噺

「お父様! 見て、どうかしら!」


少女は大きな瞳をふるわせ、からんと鈴を転がしたような愛らしい声で父親を呼んだ。

豪奢な私室の中で、透き通るような黄金の髪がふわりと舞う。彼女は手に持った桃色のドレスを自身に当てがい、器用にその場でくるりと回ってみせた。


「ああ、よく似合っている。クリスティーナ、ここにあるすべてが君へのプレゼントだ」


部屋の重厚な椅子に腰掛けていた父親が、弾かれたように立ち上がる。彼は慈しみに満ちた笑みを湛え、愛娘を壊れ物を扱うようにぎゅっと抱きしめた。


「誕生日おめでとう」


ふかふかの絨毯の上には、大小さまざまな箱が所狭しと並んでいる。掛けられた色とりどりのリボンさえも芸術品のように美しく、その中身がいかに素晴らしいものかを無言で誇示していた。


「まあ、クリスティーナ! なんて美しいのかしら!」


扉が開く音と共に、弾んだ声が響く。

そこには少女と瓜二つの、艶やかな黄金の髪をまとめた母親が立っていた。彼女は胸に抱えていた鮮やかな花束を娘へと差し出す。


「今届いたのよ。テリオス伯爵家のご長男から」

「まあ! ドリーウェル様からね!」


瑞々しい大輪の花々は、太陽のような彼女の笑顔にこれ以上なく馴染んでいた。恋人からの贈り物を愛おしそうに抱きしめる彼女の頬が、幸福に桃色へ染まる。


「そして、これは私からよ」


母親が白い紙袋から取り出したのは、小さな宝飾箱だった。蓋を開ければ、中には眩いばかりの輝きを放つペリドットのネックレス。


「太陽の石」と呼ばれる8月の誕生石。幸福をもたらすとされるその輝きは、愛されるために生まれてきた彼女の胸元で誇らしげに光った。


「本当に嬉しいわ。みんな、大好きよ!」


大きな窓から差し込む午後の光が、白い壁に反射して彼女を優しく包み込む。陽だまりの中に佇む少女は、まるで地上に降り立った天使そのものだった。

暖かく、眩しく、あまりに幸せな光景。


リン、ゴン。


正午を告げる鐘が、遠くで鳴り響く。


「リル、お昼の準備を」


左後ろから、冷ややかな侍女長の声がした。


「はい。ただいまご用意いたします」


私は、こちらに一瞥もくれない侍女長に深々と頭を下げた。この場を辞そうと踵を返した、その時。


「リル! あなたのことも大好きよ!」


鈴の音が私を呼び止める。

胸の奥が、ぎゅっとせり上がるような感覚に襲われた。数秒の空白を置いてから、私は「お嬢様」へと向き直る。

彼女の髪と同じ、黄金色の瞳と視線がぶつかった――ような気がした。

私は口角を上げ、完璧な侍女の微笑みを作る。


「ありがとうございます、お嬢様。これほど愛らしい方にお仕えできて、光栄に存じます。16歳のお誕生日、心よりお祝い申し上げます」


もう一度深く頭を下げると、すぐそばまで歩み寄ってきた彼女の軽やかな声が降ってきた。


「ふふ、これからもよろしくね! 私の侍女さん」


伏せた視線の先には、桃色のリボンがあしらわれた彼女のパンプスが見える。


「はい。よろしくお願いいたします」


私は笑みを貼り付けたまま顔を上げ、昼食の準備が整っていることを告げて、静かに部屋を退室した。


パタン、と後ろ手で扉を閉める。

壁一枚を隔てた廊下は、先ほどまでの楽園が嘘のように薄暗い。

周囲では、私と同じ簡素な黒いワンピースに白いエプロンを纏ったメイドたちが、主役の誕生会のために忙しなく走り回っている。


「リルさん、お食事の用意ができています!」

「……ええ、今運ぶわ」


呆然としていた自分を叱咤し、同僚の声に応える。私はワンピースの裾を掴み、厨房へと駆け出した。

波打つ茶色の前髪が視界で揺れる。さらりと髪が当たった左の目元がわずかに引き攣った。



これは、よくある話だ。


お伽噺のお姫様のように美しい娘と、彼女を溺愛する両親。そして、家柄も容姿も申し分ない婚約者。

すべてが美しく、少女を中心に回っていくこの物語に、私の出る幕などどこにもない。


たとえ、その主役の少女と私が、同じ日に、同じ両親から生まれた双子であったとしても。

これは、どこにでもある、ありふれた幸福の裏側の話。

少なくとも、私はそう思い込むことに決めている。

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