彼女は去る
「なんならしとく? 今生の別れになるかもしれないし」
などとカーラはグレスに誘いかける。
「やめとくよ。お前さんとあまり仲良くし過ぎると、ケイに睨まれそうだから」
「そうね。ケイだって気が多い割に一途で嫉妬深いから困ったもんだわ」
「そこがケイの魅力だろ」
「そうね」
カーラとグレスは、キョウの理解の及ばない会話をしていた。
「本音を言えば、レンが惚れた男の唇奪いたかったけど、ロボで我慢しとく」
更にキョウは困ってしまった。
困ってしまったキョウは、カーラの言葉通り気にしないことにした。
「じゃあ、私、そろそろ行くね」
「なんだ、もう行くのか」
「うん。リゾにも会えたし、あなたにも会えたし、行くわ。リゾをお願いね」
「俺にお願いなんかしなくても、リゾは俺なんかより強いししっかりしてるさ」
「そう? リゾってなんか危なっかしいのよ」
その言葉にキョウは頷く。
キョウが頷いたので安堵したように、カーラはにこりと微笑んだ。
そうして、彼女はこのルウの地を去って行った――
* * *
それから十日ほど経った。
環境維持ロボのキョウは、グレスに手を引かれ、泉の中に入っていた。
まだ水は怖かったが、誰かと一緒なら入れた。
――やれば出来んじゃん。
鈍色の水晶のロボはそんなことを言いながら、キョウの肩をガンガン叩く。
その言葉を聞きながら、キョウは水の中で意思の疎通ができるなんて便利だと思った。
キョウはだんだん水を克服しつつあった。
* * *
それから、一回、アンドロイドがルウの地に近づいてきた。
ルウの民は騒然とはなったが、一番隊が追い払い事なきを得た。
平和に時間が過ぎて行った。
*
クスナは泉の祈祷をしていた。
砂漠の中に住むルウの民にとって水は貴重だ。
その水源を枯らさないように、毎日、泉の祈祷をするのだ。
祈祷の最中に、どさっと音がした。
クスナが振り返ると、護衛のダーリャ・レファイが倒れていた。
クスナが慌ててそばへ駆け寄る。名前を呼んでみるが返事がなかった。




