酷い話
* * *
そこは砂漠だった。
井戸とぼろぼろの家があった。
ケイはクスナを離した。
クスナは辺りを見回す。
「ここは?」
「ここは僕の家だよ。こんなボロ家でびっくりした?」
「いえ……」
実際、クスナはびっくりしていた。最高位がこんなボロ家に住んでるなんて。
「僕の怪我が見たいんだろう? 見せてあげるよ」
ケイはあっさり上着を脱いで、後ろを向く。
ケイの腰に包帯が巻かれていた。包帯には血がにじんでいる。止血してるはずなのに血が止まらないようだ。
「それは?」
「最愛の男に刺されたんだよ」
ケイは自虐的に笑う。
クスナはぎょっとした。
「僕のこと殺したくなるほど僕のことで頭がいっぱいなんだと思ったら、彼は僕に何の興味もないんだよ。酷い話だよね」
クスナはなんと言っていいかわからなかった。
「今は怪我を治しましょう」
クスナがケイの腰に手を伸ばそうとすると、ケイは振り返りクスナの体を抱きしめる。
「この怪我は治らないよ。だからきみと楽しいことがしたくて、ねぇ?」
ケイはクスナの耳を舐めた。
「……!?」
予想外すぎる行動に、クスナは思わずケイを突き飛ばす。
「初めて見る神殿に感動してたようだね」
ケイがクスナに近づいてくる。
「本当はあそこでするのもいいかと思ったんだけどね、さすがに女神ルウへの冒涜になるだろう?」
クスナは思わず後ずさりするが、そうするとケイの怪我は治せない。どうしてもケイに近づく必要がある。
ケイはクスナの手をつかんで、自分の胸元に引き寄せる。
ケイは死期が近いと思ってるからなのか見境がない。
「この際、合意を得るつもりなんてないから」
「落ち着いて」
ケイはクスナの話を聞いていない。
キスをしようとしてきた。
クスナは逃げようか、治そうか、一瞬悩んだ。
ここで逃げ出せばケイは確実に死ぬ。
治せば、一線を越えることになるだろう……
――なんだよ、その二択。
「……わかった。しよう」
クスナは腹をくくった。




