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フレアは潮風に吹かれながら、海上を滑るように走るガレー船の上にいた。
船体が大きい上に、波も穏やかではあるものの、常に足下が一定では無い感覚は、フレアにとっては初めての体験だった。
生暖かい風が肌にまとわりつき、潮の香りが鼻をかすめていく。
遠くに見える大地を見つめながら、ラディッシュの事を考えていた。
ラディッシュは、3代前の国王の第2王女だったが、生まれた時より強い魔力を持っていた。
幼い頃は普通だったが、十代中頃で体の成長が止まった。
宮廷魔術師によると、段々と短くなっては来ていたが、普通の人間に比べても、国王の血筋は長命なので、国王の祖先にエルフがいて、先祖帰りしたのではないかと言っていたそうだ。
自分兄弟の息子達よりも長い年月を生きてもなお、老いもせぬ自分が疎ましくなり、『勇者の洞窟』に隠居していた時、勇者から魔王を倒すための道具を託された賢者達と出会い、賢者達が世を去る時に道具を託されたそうだ。
その後もつらい思いをして、ラディッシュとフレアは出会う事になった。




