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オーパーツは眠らない  作者: 兎和乃 ヲワン
第5章.死の森編
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42.  赤き鎧

すみません。サブタイトル変更しました。

「壊す? RaRaRa」


 コロナは両手で顔を覆い笑い尽くした。


「調子に乗るな! 死に損ないが!」


 牙を剥き怒号を挙げるコロナ。真紅の瞳孔は開き切っていた。


「吠えるな。壊れかけが」


 機械巨人はコロナの怒りに挑発で返した。

 コロナの瞳孔が開き、歪な右腕を振り上げた。

 リゾーにはまだ間合いには入っていないのに振り上げられた右腕の意味が分からなかった。

 リゾーの目の前で地面が弾けた。続いて金属音。

 機械巨人だ。機械巨人の頭から音がした。


「ッ! 鎖が!?」


 コロナの右腕に握られた白い鎖が機械巨人の首に引っ掛けられていた。

 コロナが腕尽くで機械巨人の首を引き寄せる。機械巨人はその場で踏ん張ろとするが、マズイことにあれだけボロボロの状態でもコロナの方が引っ張る力が強い様だ。


「さあ、こっちに、来なさい!」


 機械巨人の足が地面に溝を作っていく。

 リゾーはコロナが握っている白い鎖を睨み付け、彫刻刀を抜いた。

 その時、引き摺られつつある機械巨人の兜が後ろを振り返った。兜のカエルの口のような穴からリゾーは強烈な視線を感じた。

 その視線が何かを訴えている。手を出すな、という事か。

 しかし、このままではコロナの餌食だ。

 リゾーの左手が小刻みに震えている。彫刻刀の刃がリゾーの顔を映していた。顔が強張り、瞳が揺れている。

 リゾーは頭を掻いた。何だこの表情は。さっきまで怒鳴り散らした癖に、今度は焦ってるのか? いや、これは違う。元々この機械巨人がエモでない事を認めてくれたなら一緒に戦って貰うつもりだったんだ。ここで壊れたりしたら僕が困るってだけの事だ。僕は絶対に心配なんかしていない。

 リゾーは彫刻刀を腰に挿し直した。

 手を出すな、というのなら見せてもらおうか。君の闘いを!

 機械巨人の足が地面を離れた。コロナの元に引き寄せられ、強烈な蹴りを腹に入れられた。機械巨人はくの字に曲がって呻き声を漏らす。直後、舞っていた砂埃を吹き飛ばしながら木の葉の様に飛ばされる。


「もう一度!」


 コロナが鎖を引き機械巨人は頭からコロナの左足目掛けて落ちていく。首の捻りだけで兜を飛ばしたが、コロナは片手でそれを弾いた。

 コロナの左足が機械巨人の顔面に入った。

 髪の毛が逆立つ様な感覚を覚えながら、リゾーは瞬き一つしなかった。だから、コロナの左足を機械巨人が噛み止める瞬間も見逃さなかった。

 機械巨人の落下はコロナの左足の上で逆立ちする様にして止まった。濁った灰色の瞳がコロナを舐めつけている。


「離せ! この!」


 顔を青くしたコロナが左足を振り回した。しかし、足に噛み付いた害獣は中々引き下がらない。両手で殴っても効かないので業を煮やしたコロナが頭突きを機械巨人の脳天に食らわせた。

 それを頬で受け止めた機械巨人は苦しむでもなく、笑うでもなくコロナを見ていた。その濁った灰色の瞳から何かを受け取ったのか。急にコロナの目の色が変わった。人間が害獣を見る様なそれがまるで獣が自分より大きな肉食獣を前にした様なそれになった。

 その感情が只でさえ偏っていた身体のバランスを崩したのか。コロナは左手の先から前のめりに倒れた。

 先に立ったのは機械巨人の方だった。

 身体に巻き付いた白い鎖を振り解くと目の前に倒れたコロナを無言で見下ろした。


「何よ。何なの何なの何なの何なの何なの何なのその目は!! 何で私がッ!?」


 コロナが挙げようとした頭に黒い右足の踵が振り下ろされた。コロナは悶絶して倒れている。

 機械巨人は即座に足を引っ込めて一歩下がった。


「貴様が簡単に壊れなくて良かった」


 目を細めて、コロナの周りを重々しく歩いて後ろへ周わる。コロナが足を掴める射程に入らないようにしているのだ。


「リゾーが不満そうだからな。まだまだこれから見せてやらなくちゃならない」


 口を動かしている間、瞬き一つせずにコロナを睨んでいた。例え指一本の曲げだろうと機械巨人は見逃さないだろう。


「私が勝つ所を、な」


 さっき落ちた兜を蹴って機械巨人がフ、と笑った。

 リゾーは何故か泣いていた。頬に触れてみると綻んでいる。つまり、悲しみの涙ではない。では何の涙だ?


「何いい気になってるの? ちょっと攻撃を通したくらいでベラベラベラベラ……。余裕の無さが滲み出てるのね!」


 コロナが顔に砂を付けたまま妖しく笑う。そして、機械巨人に蹴られないくらい低く顔を見せた。


「御託はいいから入って来なよ。そんな遠くに居ないでさ。それとも、まさか……ビビってる?」


 凍り付くような眼差し。不気味に割れた顔がその場の空気を重くした。リゾーは息苦しくなって胸元を抑えた。

 機械巨人の短い髪が逆立った。強靭な犬歯を見せて目を見開き、コロナの間合いへと踏み込んだ。


「取った!」


 地を這う虫が餌を捉える様にコロナは機械巨人の左足を両手で掴んだ。


「掴んだ! もう離さない。このまま引き寄せて転ばせて縛り上げて、締め殺してあげる!」


 コロナが機械巨人の足を抱き寄せて立ち上がった。逆に足を掬われた機械巨人は地面に背を打つ。

 機械巨人も残った右足で抵抗していたが、あっさり掴まれて両足共コロナに縛られてしまった。


「これで私が上で、貴方が下!」


 地面に亀裂が入った。機械巨人が腰を捻って地面に両手の指を深く刺したのだ。ありったけ息を吸って目を見開いた。

 機械巨人は咆哮を上げながら両手を軸に腰を回転させてコロナの腕を引き剥がした。

 足を曲げての後ろ蹴りがコロナの胸を強打した。


「よし、これでエモが!」


 思わず口から出た名前に気付くより先にそれは起こった。コロナが自分の胸を蹴った足を今度は太ももからもう一度掴み直していたのだ。さらに、コロナは掴み上げた足を機械巨人の背に乗せる様にのし掛かった。


「ぐッ」

「甘いね。これで勝つつもりだったの? ほんと嗤っちゃう。リゾー君は自分一人でこの私を負かしたのにねぇ……負かされてこんな身体にされちゃった。RaRa、貴方を殺した後、勿論リゾー君も殺して彫刻刀のオリジナルも貰うわ」


 コロナの身体から垂れ下がっていた白い鎖が機械巨人とコロナの周りを何周もして二人をガッチリと縛り上げた。両足両腕を封じられてしまった。地面を舐める機械巨人のすぐ側にさっき蹴り飛ばした兜があった。

 優位を取ったコロナは顔に貼り付けた笑顔を引っ込めた。驚いた様な表情をして匂いを嗅ぎ始めたかと思うと、露出した機械巨人の首筋を舐めた。


「……さっき絞め殺すって言ったけど撤回する。考えてみればアルギラの塊じゃない貴方。貴方を食べればこの傷も癒える。まさかあんな子供に壊されるなんて思ってなかったから怒りでどうかしてた」


 早口で言い終えるとコロナは辛抱ならないといった様子で機械巨人の首筋に噛み付いた。噛み付かれて尚機械巨人は仏頂面だった。何を悠長にしている。このままじゃやられるんだぞ!

 リゾーは立ち上がった。もういい! 何でもいい。君が何だったとしてもいい。このまま見てる事なんてできない。だが、リゾーは威圧された。圧倒的重圧をもたらす視線に。その眼光に。

 機械巨人の濁った灰色の瞳と視線があった。ただ仏頂面でリゾーを睨んでいた。その目が黙って見ていろと言っていた。

 そんなに視線だけで啖呵を切ったところで機械巨人は身動きできない筈だ。やられるだけだ。

 否、まだ残っていた。機械巨人には、これまでいくつもの鋼鉄と岩とアルマを噛み砕いてきた強靭な犬歯が残っていた。

 機械巨人は大口を開けて地面に噛み付いた。そして、何と首の力だけで背に乗ったコロナを持ち上げた。

 思わず口を離すコロナ。叫ぶリゾー。

 機械巨人は首を捻りコロナを真横にして地面へと叩き付ける。コロナが叩きつけられる先には機械巨人の兜があった。兜の中にコロナの頭がスッポリと収まった。


「な、何なの!?」

「私の鎧をくれてやった。有り難く思え」

「は?」


 間の抜けた声を挙げたコロナの口を赤い鎖が封じた。リゾーにも一瞬理解できなかった。

 機械巨人の身体から飛び出た赤い鎖がコロナの身体を縛っていき、逆に機械巨人の身体を覆っていた赤い鎧が減っていく。何が起きているのか。

 コロナを縛る鎖が鎖同士を繋ぐ様に編み込まれていった。白い鎖がそれに巻き込まれて千切れる。その度にコロナの呻き声が聞こえた。やがて機械巨人を覆っていたそれと全く同じ鎧がコロナの全身を覆った。

 鎖が千切れて解放された機械巨人がゆっくりと立ち上がった。リゾーはその様を見て髪が逆立つ様な感覚を覚え、走り寄った。


「エモ! 後ろだ。また掴まれるぞ! 距離をとれ!」


 だがコロナは硬直していた。腰が抜けたのか立ち上がれないでいる。

 リゾーは怪訝に思い、足を止めた。


「何で、なんで貴方、生きていられるの!?」


 コロナが震える指で機械巨人を指差した。


「鎖、鎖が……!?」


 リゾーは目を凝らした。機械巨人の身体が確かにおかしかった。鎧を脱いだ事で機械巨人の素肌が晒されている。前を向く大きな胸、すらりとした肢体。その身体を這うものは何もない。そう何もない。鎖模様が無い。あの赤い鎖が全く無い。


「その鎖については貴様の方が詳しいんじゃないのか? ルール1:ジャンヌの無念を晴らせ。ルール2:自己の保存。ルール3:製作者を保護せよ。[貴様]は今この三つのルールを守らなければならない。リゾーと私が一緒にヴィクトリエに行く為にな」


 機械巨人は仏頂面でコロナを指差しながら無感動に説明した。しかし、リゾーは汗を掻くばかりだ。


「お、おい。今[貴様]って言ったのか? どういう事だよ。今のはエモのルールだろ。コイツのルールは1自己の保存で、2が製作者の保護。3が僕の彫刻刀、オリジナルを手に入れる事の筈だ」


 機械巨人はリゾーの方を仏頂面で見た。


「待ってよ。ちょっと意味わかんないんだけど。貴方、何? 何で何で何で何で何で何で」


 破れかぶれになったコロナが咆哮しながら機械巨人に飛び掛かるが、


「何でよおおお!」


 その手は空を切った。コロナは機械巨人と空の両手を交互に見て手を何度も開いたり閉じたりした。そしてもう一度飛び掛った。今度も同じだった。リゾーは目を瞬かせた。その直後、コロナが仰け反った。苦悶の声を挙げている。機械巨人が着せた赤い鎧が、その鎖がコロナを縛り上げているのだ。よく見ると光っている。


「普段私が守らなければならないルールを貴様に押し付けた。その鎧を着ている間、貴様のルールは上書きされる」


「ルールの上書き!?」


 リゾーは思わず叫んだ。丸裸の機械巨人がコロナを見下ろしている。

 鎧を形作る鎖がコロナの両腕を頭の上に上げさせて、手首の所で固定した。

 違う岩をいくつも固めて作られた歪な身体は赤い鎧に強力に縛られて凸凹を押し潰され、奇しくも元の少女らしい身体に戻っていた。

 コロナがもがく度に鎖が熱を発し、さらに強く身体を締め付ける。衝撃で兜がコロナの頭から落ちた。鎖が露わになった顔まで覆ってコロナの悲鳴を嗚咽に変えた。



 43.  新たなる敵、新たなる仲間

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