女王の系譜
五千万年…木崎 ユリアが女王となってからの年月。
獣人国の城内の庭先にて、のんびりとティーカップを傾ける。
側でおかわりを注いでくれるのは、麗しの騎士団団長スイキだ。
リーアは笑みを交わすと、ふと思考に耽った。
子ども達は元気かしら。
リーアの直接生んだ子は6人、養子は十数人ほど。
本人は分け隔て無く接しているが、子ども同士は勝手に序列を作っているらしい。
一位は四人の夫の子。
二位はそれ以外の子。
三位に養子。
それを知った時多少驚いたが、周りに公言している訳でもないので止めるのも憚られた。
まあ、私の前では皆良い子だし。
忘れ掛けた我が子達の顔を思い浮かべながら、カップを傾ける。
うん、美味しい。
スイキににこりと微笑むと、優しく笑みを返される。
その表情を見れば、氷の騎士と呼ばれる理由も分からないだろう。
…自分で言うのもあれだけど、スイキって私には甘いからな~。
スイキに手招きし櫛を手渡すと、自然にリーアの髪をとかされる。
まるで宝物に触れる様な指先に思わず苦笑を溢す。
「 どう?五千万歳の髪は…衰えてしまったかしら?」
まさか、とスイキはゆるゆる頭を振る。
「我が君の御髪は、天上の女神の纏う絹より勝る物でしょう。出会った時より、何一つ変わりません。」
夫を得て、子を産んでも変わらず慕い愛を捧げてくれる相手に頬を緩めた。
やはり…
「ねえ、まだ駄目?私の妾で一番の寵を期待しても良いわ。」
軽い口調だが、内心は真剣に定期的に問う言葉を口にする。
しかし、毎回結果は変わらないのだが。
「この前申し上げた様に、私は数多いる我が君の妾と同列に思われたら…今よりきっと苦しくなるでしょう。」
ですから…と切なげに瞳を揺らす。
「どうか、今のままで…。」
「…スイ。」
静かな口調の騎士団団長に、視線を返し息を吐く。
「仕方ないわね。」
苦笑を込めて頷いた時、何処からか感じる視線に気付いた。
ん?
誰かしら?
ふと顔を向けると、嬉しそうにピョコピョコ動く黄色い耳。
「シュイ?」
「…っ母……リーア様!」
黄色い髪を高い所で揺らし、文官衣をパリッと身に付けた獣人の青年は、外見だけなら生真面目そうに伺える。
「ご健勝そうで何よりです。リーア様は10日ほどいらっしゃるとお聞きしましたが?」
敬意の籠る口上にクスリと笑みを溢す。
「あら?もう母とは呼んでくれないのかしら…寂しいわ。」
リーアの言葉にシュイの耳は世話しなく動き、チラリとスイキを視界に捉える。
…あ~、スイが居るからって事。
良い年して他人の前では恥ずかしいのね。
アイコンタクトでスイキに場を外す様命じれば、直ぐに然り気無く立ち去って行った。
「さてと…貴方は元気だった?左大臣シュイ。」
スイキの姿が無くなり、シュイの頬が緩みリーアの傍に膝を着く。
「はい、筒がなく。母上様のお姿を拝見出来真に嬉しく思います。」
リーアが産んでは居ないシュイだが、生まれたばかりの彼を拾い養子としたのは、子を産む前の事だった。
その上、乳母もつけず手ずから育てたシュイには、特別に思い入れがあり可愛く思っている。
「…此方に。」
「はい。」
尖った耳ごと頭を撫でると、気持ち良さそうに眼を細める。
猫可愛い~…。
我が子に癒され一日終わったのだった。
.