美しき隻眼
ガレイシアと共寝をした翌日、リーアはまた別の国にいた。
リーアは女王になってから、法力、魔力…常人には扱えない力を最高の能力で手に入れている。
現在も、魔力の転移魔術で移動したのだ。
…さてと、何処に行こうかな?
機嫌良く大勢の人で賑わう大通りを歩く。
この場合、人と言っても老若男女問わず頭から見えるふさふさとした耳、下衣から生える尻尾がある者を指しているが。
うん。
いつ見ても可愛いわ~。
内心にやけつつ足を進める。
世界の女王の存在は知られているが、誰もそんな人物が街を彷徨いているなど思わないだろう。
一通り街の散策を終えると、転移魔術を使う。
辿り着いたのは獣人の頂点に立つ獣人王の暮らす城。
勝手知ったる場所で軽やかな歩調で向かったのは、王の部屋では無く訓練所だった。
リーアが訓練所に現れると、若い兵は怪訝そうに視線を向けて来るが、古参の兵は慌てて膝を着いて頭を深々と下げて来る。
そんな様子に小さく微笑し、更に奥へと進む。
騎士団と扉に書かれた部屋に入れば、幾人かの視線に気付く。
その一人は直ぐにリーアの傍に膝まづき、手を取り指先へ口付けた。
「…ご機嫌麗しく存じます、我が君。この度のご滞在はいつまで?」
居住を定めないリーアへの問いに、少し思案する。
うーん…世界高等会議までにしよっかなあ?
「では、10日ほど。…イシュヴァルトにも伝えて頂戴?」
獣人王である夫の名を出せば、恭しく恭順した。
「御意、仰せのままに。」
そう言って部下に何やら指示する相手を見つめる。
自然と用意された椅子に腰掛け、小さく欠伸を洩らす。
…相変わらず真面目ね。
まあ、そこが良い所かしら。
騎士団団長スイキ、短い灰色の髪に同色の尖った耳。しなやかで長身の体躯。
狼の獣人である彼は、誰よりも忠誠心が高く、私がこの世界に来てしばらくは護衛をしてくれていた。
ある出来事により、その役目も下ろしたのだが。
意味深な雰囲気を察して下がった部下達を見送ったスイキは、リーアへの距離を縮める。
リーアは知らずクスリと微笑む。
「もう目は大丈夫なの?スイ…。」
彼の身に付けた眼帯を静かになぞれば、それに重ねられる彼の手。
「…はい、その心遣い嬉しく思います、我が君。」
スイキの男らしい笑みと、自分に向けられる熱の籠る視線に僅かに顔の温度が上がる。
これだから、顔の良い男は苦手だわ…。
「今は、私しか居ないわよ。」
そっと相手の頬に手を添えると、触れるだけの唇を落とされる。
「そうですね…リーア様…。」
形だけ様、と足された呼称に仕方なく受け入れる。
自分が決めた事とは言え、僅かに罪悪感が込み上げてしまう。
正式な夫は四人、側室も作らない…他の男は妾であり、愛人なのだ。
私に真っ直ぐな愛をひたすら捧げ、全力で守った彼を最後に離れたのは自分だ。
世界を整える為、獣人王の愛を受け入れたのは自分なのだ。
獣人王を夫にしてからも、スイキの態度は変わらず私に尽くしてくれた。
それが辛くて離れたのは自分だし、愛人という立場をスイキが拒んだ事への仕返しでもある。
スイキは今でも妻を取らない、子を作らない…。
一度私と交わった為、不老不死となったのに。
他の愛人、妾には命じて妻を取る様にさせたが、スイキだけは断固拒否をしたのだ。
もしも、と考える。
もしも彼が獣人王なら、間違い無く夫にし、愛を与えていただろう。
「命令よ、今だけあの時の様に抱きなさい。」
そう言って口を閉じて、俯く。
…馬鹿だな、私。
スイキは静かに立ち上がり、リーアをその腕に抱き込めた。
リーアにも伝わる痛いくらいの鼓動、高まる熱に息を吐く。
「…ユリア、愛している…私の姫。」
命令を受けただけとは思えない真剣な声音に、リーアはただ頷くだけだったのだ。
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