法国へ
獣国で、世界高等会議までのんびりと過ごす日々を送っていた。
会議まであと3日か…。
人間の国も来るんだよね。面倒…。
二階のバルコニーから、兵達の訓練をぼんやりと眺める。スイキは全体の監督をしている様で、時折指揮官を指導している。
うん、格好いいな。
ふと目が合い軽く手を振ると、爽やかな笑みを返された。
そんな昼下がり、侍女の前触れによりお客人を迎え入れると、会議に来ていくドレスを頼んだ職人であった。
何だろう?申し訳なそうな顔してるし、間に合わないとか?
首を傾げて椅子に勧めるリーアに、職人は深々と頭を下げる。
「本日はお日柄も良く…………」と、お決まりの前口上が終わり、やっと本題へと移った。
「実はですね…ドレスは仕上がったのですが、ドレスに合わせるネックレスに難航しておりまして。」
「あら?一体どうしたの?」
「此度のドレスの造りには、法国で精製される石が最もドレスと合うのですが、彫り師が少々気合いを入れました所…どうしてもデザインを代えて女王陛下へお渡ししたいと。」
別に構わないのに。態々来たのは変更を伝えに来ただけじゃないでしょうね。
額に珠のような汗を浮かべる相手を見つめ、ある考えに至る。
「…いくつ足りないのかしら?」
「申し訳ございません。5つばかり…。」
ひたすらに頭を下げる職人。法国で精製される石は法石と呼ばれ、法国の人間しか作れず高値で売買される。
勿論一度に買える量も限られており、続けて手に入れる事も出来ない。
取引相手も、女王の雇った職人だと知らなかったのだろう。
仕方ないわね。
少々面倒に思うも最後は一つ溜め息を吐いて、安心させる様に微笑む。
「分かったわ。5つ貰ってくるから、帰って待っていて頂戴。」
「あ、ありがとうございます、女王陛下!」
見るからに安堵して立ち去った相手の後ろ姿を見送り、側に控える侍女へ手招きした。
「そうね、シュイを呼んでくれる?」
畏まりました、と恭しく礼をとった侍女が素早く部屋を出て行く。
ほんの数分も経たず、文官衣の獣人が駆けて来る。
「母上様、お呼びですか?」
「あら…早かったわね?」
笑みを交わし、椅子から立ち上がり軽くワンピースの裾を直す。
「ええ、今から法国に行こうかと思うのだけど、一緒にどうかしら?」
リーアに誘われて母との久しぶりの時間に内心喜ぶが、他兄弟に申し訳なるシュイである。
「…嬉しいのですが。私一人で良いのですか?」
「勿論よ。」
当たり前なのだ。
法国にシュイを連れて行きたい理由はままあるのだ。
まず、シュイは幼い頃様々な場所に連れて行ったので、顔が広く立ち回りが上手い。だからこそ、リーアの子どもでの纏め役なのだが。
そしてもう一つが重要な事。
「きっと、ニナも待っているわ。」
「…ニナ殿が。」
ピョコリとシュイの右耳が動く。この様子から察すると、戸惑いと喜びだろうか。
ニナは、リーアと法王ニースティとの実の娘である。唯一リーアに似通った容姿を持ち、他国の王にも大事にされている。
まあ、性格はあれだけど…いや、私のせいじゃないわ絶対に!
「じゃあ、行きましょうか。」
「…はい。」
コクリと頷くシュイの手を取り、転移魔術を発動させる。
そういえば、誰かに行って置かないと。
ふと、「げ」と呟くサヴェルと目があった。…合ってしまった。
やな予感とでも言いそうだけど。
「…その通りよ。少し法国に行ってくるからお願いね~。」
「すまない、サヴェル!」
微笑み手を振る女王と、申し訳なさそうなシュイが消えると、サヴェルはただ遠くを見つめた。
「…つまり、嫌がらせか。」
二人が着いたのは、法国の町中。シュイは外套で耳と尻尾を隠していた。
精霊国がそうである様に、法国も法力を扱う者以外に排他的な所があるのだ。
「…サヴェルに悪い事をしましたね。」
「え?大丈夫よ。あの子何だかんだ出来る子だもの。」
(そういう問題なのか?)
何か言いたそうなシュイを放り、さっさと歩き出す。
さてと、買い物買い物~。法国も久しぶりだな。
街一番の市場では、多くの店で溢れとても賑やかである。特に人々を惹き付けるのは、やはり法石だろう。
他国に売る精製された石や、法力の弱い人用の生活に必要な一般の法石まで様々だ。
さあ、何を買おうかな?目的の法石はニナに貰うとして…。
その時、後方からの蹄と馬の嘶きに合わさり、二人に近付く声が聞こえた。
「っお母様!シュイ様!」
誰もが振り返る美しさを持つ少女と、多少疲れた様子の青年が後ろに続いていた。
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