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「なんつーか、綺麗に残ってはいるけど、めぼしいものはないね」


 隠し部屋の中は普通のデスクだった。壁にできたドアサイズの穴を通ると中側には普通にドアがあって窓もある。面白いな。

 でも肝心の部屋は机と本棚のある勉強部屋みたいな感じ。適当に本をとってみるけど、小難しいことが書いてあってわからん。


「シュリ、これ何の本かわかる?」

「ううん。読めないし」

「あ、そうなんだ」


 召喚された私は言葉も文字も自動翻訳されるけど、シュリの知らない言語だったのか。


「ふーむ、これは古代オブルブ語だな。魔法具じゃねーが、貴重な資料になる。運べ」

「へぇ、やったね。シュリ、机の中はなにかある?」

「うーん、わかんない。あっくん」

「はいはい。よっ、と。おい、だっこ」

「うん」


 私の腕から抜け出したあっくんはシュリの足元にお座りしてだっこを強要。立ち上がって尻尾ふりながらおねだりしてるのくっそ可愛い。

 シュリも嬉しそうにだっこしてるし。


「これとか?」

「おー、ちょいと匂うな。よし、全部持ってけ。あとあのドアもな」

「マジで?」

「マジだ」

「がんばろ、ユカナ」


 仕方ない。シュリに任せきりもあれだし、頑張るか。









 いくら力を強くできても、運べる量には限界がある。えっちらおっちら荷物を運び、外の馬車まで運ぶと終わる頃には夕方になっていた。


「おーい、君たちもい……えっ、ど、どうしたんだその量は?」

「え? 普通に見つかったものですけど。あっくんが指示するもの全部一応持ってきたんですが、まずかったですか?」

「あっくん?」

「あ、犬です」

「ああ…。えっと、これは本? おお……おおっ! す、すごいぞ! これはかなり貴重な資料になる! ありがとう!」

「いえいえ」


 お金くれればいいっすよ。


 とにかく片付けてその日は夕食になる。行きである程度馴染んだといいたいけど、もう一人雇われてるうん、なんとかって男は全く話さないし、先生は基本的に本を読んでいるのでシュリしか話し相手はいない。


「前から気になってたけど、シュリって料理とか全然苦ではないタイプなの?」

「うん、誰かに食べさせるのは楽しいよ」

「ふーん、まあまあ美味しいよ」

「ありがとう」

「チビは料理しねーのか?」

「食べる専門だよ」

「だっせー、女のくせに料理もできねーのかよ」

「うるさい。私は偉いからいいんだよ」


 雑談をしながら食事を終えて、暇になったのでとってきた本を手に取る。


「あれ、もしかしてユカナ読めるの?」

「もちろん。ほら私あれだし」


 召喚のことを濁して答えながら、ぺらぺらとめくる。


「ふーん、これは日記みたいな感じかな」

「読んでみて」

「えー、仕方ないなぁ。えっと、神様が作られたこの塔を授かった。本日より本格的に研究を始めるので、その軌跡をここに示す」

「きっ、君!」

「えっ、な、なんすか? そんな恐い顔して」

「君、読めるのか!? しかもそんなすらすらと!?」

「え、は、はい」

「戻ったら訳してくれないか?」

「はぁ? 嫌ですけど。一冊100万円くらい貰えたらしますけど」

「……さ、30万でどうだ?」

「もう一声」

「ぐっ……よ…、いや、50万っ! 先に言っておくが数が多いから本当にこれ以上は無理だ!」

「仕方ないなぁ」


 むしろなんでそんな高いの?

 説明を聞くと、めっちゃ難しい古代の言葉で、一応訳せるけど特に専門用語では半分以上の単語の意味が未だに判明してないらしい。あっくん読める風だったけど、そんなことはなかった。

 ちっ、もっとふっかけられたか。まぁ書くのは魔法でできるし、読むだけだ。30冊以上あるから相当嫌だけど、読むだけで50万は美味しいか。


「よかったね、ユカナ」

「うん、さんきゅ。シュリのおかげだよ」


 シュリはきょとんとしているが、いやいや、君の移動魔法なかったら簡単に見つかってないし。壁の向こうにあるのがわかっても、壊すとどうなるかはわからないし。

 んー、なんてか、純粋っ子かよ。年上の癖に可愛いとかずるくね?


「?」


 頭を撫でてやるとちょこっと小首を傾げてる。くそ、可愛いじゃねーか。むかつく。優姉が猫可愛がりするのもわかる。


「いや、別に私にもしろって意味じゃないから」


 なに撫で返してくれてんの。私の頭は優姉専用なんだからねっ、みたいな。今は許してやるけど。


「ねぇ、今更だけど、シュリのこともっと聞いていい?」

「え、う、うん。でも私、そんな面白いことなんにもないよ」

「面白いかどうかは私が決める。ていうか、シュリのこと知りたいだけで、別に面白くなくてもいいし」

「……うん、私も、私のこと知ってほしいな」


 シュリははにかむように笑う。普段そんなに笑わないシュリのどことなくぎこちないその笑みは、子供みたいで素直に可愛いと思った。









 ユカナはなんだかすごい難しい昔の言葉も読めるらしい。聞いたら、あれだから読めるとか言われたけど、天才ですから、みたいな感じなのかな?

 ユウコも勉強頑張って覚えてたけど、あんまり解明されてない文字まで勉強してるなんて凄いなぁ。

 

「シュリのおかげだよ」


 なのに翻訳の仕事が決まっても全然偉ぶらないし、普段は冗談で偉そうにしてるけど、肝心なところでは謙虚だなぁ。

 と思ってたら頭を撫でられた。なんだかわからないけど、お礼に撫で返す。


「いや、別に私にもしろって意味じゃないから」


 あれ、違った? ユカナ寂しがりやだからスキンシップがしたいのかと。


「ねぇ、今更だけど、シュリのこともっと聞いていい?」


 ちょっと伺うように上目遣いでユカナが聞いてくる。可愛らしいおねだりだし、隠すこともないので全然構わないけど、私はユカナと違って面白い話とかできない。

 ユウコはいつも私に一緒にいるだけでいいとか言ってくれたけど、ユカナはユウコのために無理してないか、ちょっと心配だ。


「でも私、そんな面白いことなんにもないよ」

「面白いかどうかは私が決める。ていうか、シュリのこと知りたいだけで、別に面白くなくてもいいし」


 にかっと笑って答えるユカナにどきっとした。そういう回答がくるとは思わなかった。嬉しくて胸がぽかぽかする。

 ユカナとは今でも険悪ではないけど、今よりもっと仲良くなれたらいい。

 仲良くできそうな気がして、思わずにやけてしまう。


「うん、私も、私のこと知ってほしいな」


 そしたら次は、ユカナの口からユカナのこと、もっと教えてほしいな。










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