76 ユウコへの告白
ユニパル国の王都にようやくついた頃には、魔王退治の浮かれた空気もずいぶん和らいでいた。これなら結花奈の正体ばれたりしないでしょ。
「じゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃい。気をつけるのよ」
「わかってるって」
夜になって結花奈は宿屋を出た。
滅多なこともないだろうけど、見つかったりしないかな。
「心配?」
「そうね…いえ、杞憂だわ。駄目ね、魔王退治の方がよっぽど危険にきまってるのに」
我慢していた分、最近はますます心配性になった気がする。これじゃあいけないとはわかっている。過剰な心配は束縛に繋がる。
私は結花奈やシューちゃんが好きだけど、束縛したり思い通りにしたいわけじゃない。むしろ自由に生きて欲しい。ほどほどにしなければ。
「ユウコ、ユカナは大丈夫だよ」
「そうよね、ええ。ごめんね、ありがと」
「ううん、いいよ」
ユカナはきっと積もる話もあるだろう。朝まで帰らない可能性がたかい。夜も遅いし、寝て待つとしよう。寝支度を整える。
「ユウコ」
「ん? なぁに? 着替え、それじゃないのが着たいの?」
「そ、そうじゃなくて……着替えたら、話がしたい」
「もちろんいいけど、改まってなぁに?」
「ちょっと待って」
シューちゃんは魔法で手早く体を綺麗にすると、慌てたように着替えて頭をつっかえた。
「ほらほら、落ち着いて。時間はたっぷりあるんだから」
手伝ってあげる。小さい子みたいで微笑ましい。シューちゃんはちょっと恥ずかしそうにはにかむ。可愛い。
「あのね…その、実は……」
着替えて落ち着かせてから、ベッドに並んで座ってシューちゃんが口火をきる。だけどもじもじして全然言えてない。
そんなに言いにくいことってなんだろう? あ、もしかしてプリンのリクエストかな?
「その……私、ユウコのこと、その……うー…」
頬をそめて、両手の指先を合わせていじいじしながらシューちゃんは顎を引いて上目遣いで見つめてくる。とても可愛いけど、うん、なにかな?
○
「私、ユウコのこと」
好き。好き。すごく好き。大好き。愛してる。恋人になってほしい。特別にしてほしい。世界で一番じゃなくていい。二番目でもいいから、恋人にしてほしい。
一番は妹の結花奈でもいいから、ただ一人の恋人にしてほしい。
ユニパル国について、ユカナが出かけて、これはもう千載一遇のチャンスだから告白しようと思った。普段二人きりになれることは少ないし、なれても確実に時間があるわけじゃない。
チャンスだ。今しかない。
「その……、うー」
好き、なんていつも言ってるのに、いざ告白となると恥ずかしくて、体温の上昇が抑えられない。舌がもつれて、うまく動かない。
「え、と………その、あ…う」
いぶかしげに、ユウコが私の顔をのぞき込んでくる。近づくユウコに、早足になりかけていた心臓が急激にスピードをあげて、全力疾走になる。
「シューちゃん? そんなに言いにくいの?」
「そ、その………あの、わ、わた、私……」
「顔赤いわよ? 大丈夫?」
「う……」
これ以上ユウコの顔を見ていると駄目だ。私は思い切ってユウコを抱きしめる。その暖かさにももちろんドキドキするけど、ユウコの顔を直視しないですむから、口も動くようになった。
「好き、ユウコのこと、大好きなの」
「? 私もシューちゃんのこと好きよ」
「そ、そうじゃなくて、その」
否定するのに思わず体を離すからまたユウコの顔が視界にはいる。う、でももう言ったんだ。言おう。言うんだ。私の気持ちは、恥ずかしいからって言えなくなるくらい弱いものなんかじゃない!
「隊長さんと同じというか、結婚したいというか……その、ユウコの、恋人にしてほしい」
「え」
目に見えてユウコは動揺した。ユウコの反応が怖くて、私はユウコの両肩に手をおいて、さらに言葉を重ねる。
「ユウコが好き。愛してる。妹とか姉とか家族とか、そういう風にももちろん好きだし大切だけど、それだけじゃない。ユウコのことが好きだし、キスもしたいし、抱きしめたい。私が男なら結婚したいし、私の子供を産んでほしい。それくらい大好きなの」
「う、あ…」
顔を赤くして口をあけて、だけど言葉にならなくてぱくぱくと開け閉めするユウコ。
動揺して、赤くなって、意識してるみたいなその反応にうれしくなる。隊長さんの時も思ったけど、私でもちゃんと赤くなってくれる。それが嬉しくて、それだけでドキドキする。
「ほ、本気? 私たち、女同士だし、それに、帰らなきゃ、いけない、し」
「わかってる。わかってるけど、好きなんだもん。結婚できないのも、ずっと一緒にいられないのも、わかってる。ユカナの次で、二番目にしかなれないのもわかってる。でも、それでも好きなの」
「……」
「帰るまででいいの。お願い。私のこと好きじゃなくても、嫌じゃいなら、恋人になってほしい。私のこと、特別にしてほしい。妹としては二番目でも、恋人として一番になりたいの」
「しゅ、シューちゃん……その、ちょっと、考えさせて」
そっと視線をそらすユウコは耳まで赤いのが見えて、とても可愛くて、思わずうんと言いたくなるくらいで、でも
「駄目」
「えっ」
驚くユウコ。可愛いけど駄目。手加減なんてしない。私がユウコといられるのは限られた時間しかないんだ。絶対恋人になりたい。ならもう、卑怯でもなんでもいい。押しに弱いユウコを、押して押して押して、無理やり頷かせる!
「考えないで。遊びでも冗談でも暇つぶしでもいいから、恋人になって。今決めて。五秒以内に返事して」
「えっ、ご、五秒!?」
「ご、よん」
「ちょっ、ちょっと待っ」
「さん、にい、いち」
「ちょっ」
「ぜろ。はい、イエスかノーで答えて」
「あ、えっと、い、イエスで」
「ユウコ大好き!!」
ずるくてもなんでもいい! ユウコがイエスとさ言ってくれた! 嬉しい!
ユウコを抱きしめて、私は耳元で囁くようにもう一度気持ちを伝える。
「ユウコ、大好き。愛してる」
「……私も、好きよ」
ドキドキして、ユウコの囁き返しにぞくぞくする。
あれ、おかしいな、涙がでてきた。こんなに嬉しいのに。ああ、でも、もうなんでもいい。好き、大好き。愛してる。形だけでもいい。ユウコの特別になったんだ。
頑張るから。ユウコのためなら、元の世界に戻る方法探しも全力で頑張るから。だからこの世界にいる時だけでいい。私のこと、特別に愛して。
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