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74 お姫様

「よっ、と」


 バルコニーの柵を飛び越えて、着地する。魔法で結界は無力化させていて、殆ど使い手のいない飛行魔法を使ってるとはいえ、普通に王城に侵入できちゃっていいのかねぇ。

 ま、侵入者が考えることじゃないか。


 そっと室内へのドアを開ける。


 ベッドの上に膨らみがあるのを確認してから、ドアを閉めて、防音の魔法をかける。


「んん、あ、アリアベル? 寝てる?」

「ん……っ!? だ、誰ですの!?」


 隣に言って、ちょっと緊張してるのを誤魔化しつつ声をかけるとぱちりと目を開けたアリアベルは勢いよく起き上がり、私と反対側へ逃げる。


「私だ。勇者様だよ。久しぶり」

「ゆ…ユカナ? 本当にユカナですの!?」

「おいおい、私みたいな美少女がそうそう2人もいるわけないっしょ」

「その不遜な物言いはユカナ! ああっ、生きていたのですね!」


 私の呼びかけに、アリアベルは私の胸に飛び込んできた。その小さな体を抱きしめてやる。


「い、生きて、生きていたのですね……」

「ごめんね。魔王を倒したから、元の世界に戻る方法を探したいんだ。優姉にも会えたし。だから死んだことにしてもらったんだ」

「馬鹿……私にくらい、ちゃんと説明してくださいよ。どれだけ、心配したと思ってるんですか」

「ごめんて。ちゃんと説明しにきたじゃん」

「遅いんですよ」


 まぁ確かに。早馬でさっさと帰ったあの2人に比べたら遅いわな。でもタイミングをずらしたいからわざとだ。ちゃんと死んだって情報が定着してからじゃないと、王都に入って気づかれたら意味がないからね。

 でもそれはそれとして、アリアベルに心配をかけてしまったのは素直に申し訳ないと思ってるから、許してほしい。


「ううっ、ユカナ……よくぞ、生きて戻りました」

「当然。約束したでしょ」

「はい…はいっ、ユカナ、私の勇者様、ありがとうございます。世界を救ってくれて、本当にありがとうございます」


 全く、仕方ないお姫様だ。泣き虫だなぁ。全く、私まで、釣られそうじゃないか。


「アリアベル、心配してくれて、ありがとね。召喚されて最悪だったけど、アリアベルのおかげで、それなりに助かったよ」

「うわぁーん!」


 泣き叫ぶアリアベル。私を遠慮なく抱きしめてくるアリアベルに、私は苦笑しながら頭を撫でてやった。泣きやむまで、ずっと。









 しばらくして泣き止んだアリアベルとは並んでベッドに座り、私大活躍の勇者譚を話してやった。


「まぁ、そんなことが。やはり勇者様本人から聞きますと、ずいぶん印象が違いますわね」

「え、ちょっとあの二人からどんな話だったか聞いていい?」


 先に帰ってた二人から聞かされた冒険譚を聞いた。うーん、まぁ、かなりアマノが目立ってるけど、許容範囲内だな。


「ユカナ……勇者をやめたいのはわかります。私としても、これ以上ユカナに強制したくありません。ですが……こうして会うことも、もうできませんか? あなたのお姉様ともお会いしたいですわ」

「うーん、ちょっと、厳しいかな。もちろん、帰る方法が見つかったら、帰る前には会いにくるよ」

「……そう、ですか。そうですよね。私のところまで会いにきてもらうことも大変ですし、私から会いに行くことはできません。ユカナにだけ、負担を強いることはできませんものね。我が儘を言ってごめんなさい」

「……ごめんね」


 申し訳ないとは思う。アリアベルにとって私は唯一の友人なのだ。私にとっても、まぁ、友人と言えなくは……素直になろう。うん、友達だと思ってる。

 思ってるけど、生きていると悟られるわけにはいかない。今日でお別れだ。最後の最後には会いに来るから、許してほしい。


 頭を叩くように撫でて慰める。アリアベルは泣きはらした目のままくすりと笑う。


「もう、ユカナには、かないません」

「かなわないついでにさ、1つお願いしてもいい?」

「なんですか? いいですよ。魔王退治のご褒美を、父の代わりに差し上げますわ。もちろん、私にできる範囲になりますけど」

「私を召喚した魔法陣を調べたいんだけど……駄目?」


 目を輝かせていたアリアベルは目に見えて落ち込んだ。また泣きそうに潤んできた。


「ああっ、泣くなよ。無理なら仕方ないって」

「ご、ごめんなさい。前にも言いましたけどあの魔法陣は本当に特別で、あの塔は使用時以外は絶対に誰も立ち入れないんです」

「言ってたね。でもさ、こう、ヒントというか。魔法陣の形とか覚えてない?」

「え、形でよろしいのですか?」

「うん? うん、覚えてない?」

「あら、それなら簡単ですわ」

「え?」


 途端に笑顔になったアリアベルは、机から紙とペンをとって、魔法で魔法陣を書き上げた。


「どうぞ」

「え、え? え、魔法陣って、見ただじゃコピーできないように、コピー防止がついてるんじゃないの? それか王族だから?」

「王族と言っても、お兄様がいますし、私は普通の貴族教育しか受けていませんわ」

「じゃあなんで?」

「普通の魔法陣はコピー防止がついてますけど、召喚魔法陣は特別ですから、コピー防止がついてないんです。というか正確にはつけられないのです」

「どういうこと?」

「あの魔法陣は、あそこにかかれた魔法陣しか使えないんです。別のところに書いても全く反応しません。何故塔の魔法陣が発動するのか、実はよくわかっていないのです。だから迂闊にコピー防止の魔法陣を追加できないんです」

「えぇ? 理屈のわからない魔法陣をつかってるってこと?」


 なんじゃそれ、そんな魔法陣で私は呼ばれたのか。ええ、もしかしてその不具合で体の成長止まってるんじゃないだろうな。


「はい。あ、でもでも、言い伝えでは神様からいただいた魔法陣ですから、安全はもちろん安全ですよ、ええ。百年前も問題ありませんでしたし」


 私の疑いのまなざしに、アリアベルは慌てたように手を振りながら否定する。


「神様ぁ?」

「はい、神様です」


 余計胡散臭いけど、まぁ、とりあえず別にアリアベルが悪いわけではないので許すけど。


「まぁいいか。他になんか手がかりとかない?」











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