5話 『いつの間にやら崩れるルーティン』
原因もはっきりしなかったし、あっさり解決して何が何だかわかったもんじゃないが、とりあえずパープは先輩が言葉通りどうにかしてしまった。
それと、ルマにスマホの方で、結局いつまでとかあるのかと聞くと、「いつでもおk」と帰ってきた。しばらくは考えてよさそうだ。「まあどうせすぐ決断することになるよ」と意味深なことは言われたのだがどういう意味だろう。
ふう、と息を吐く。
「おい八木。ちゃんと話聞いてんのか?」
「はいはーい」
「はいは一回だ常識だろ?」
いちいち言いたいことはしっかり言いやがる教師だ。イマドキAI教育とかしないのかといわれても、いや教師ぐらいいるがな。こういうのは、人間が教えるからモチベーションが上がるらしい。なんかそういう学術的な理論かなんかがあったらしい。
ちなみにこの教師は羽鳥泉生、二十四歳独身。丸眼鏡のたれ目。時々目の下にクマがある。副業が忙しいとか何とか。意味もないのに常にスーツを着込んでいる。
「んー。今日はここまでだ。来週は語彙テストだから勉強しておくように」
因みに担当は国語。いつの間にか授業が終わったらしい。終わりを告げるチャイムが鳴り響いていた。
昼休み。
「はあ……」
「おや同志。何か悩み事でも?」
「おー、山岸」
コイツが例のオタク、山岸哲。一般的なオタク像とは外見はかけ離れているがオタクはオタクなのだ。例えイケメンオールバックだろうが。最近はもうコイツの情報に対する信頼が爆上がりだ。よくあるフラグやら何やらに詳しい。マジ助かる。
「何か悩み事でも?」
気になるなら気になるって言えい。
「あーいや」
そして昼休み最近恒例になってきた、騒音が廊下の向こうからやってきた。
「せんぱーーい」
「げっ」
「げっとは失礼じゃないですか。こんなかわいい後輩が来てあげてるというのに」
かわいいのはまあうん。仕方ない。認めるほかないが、最近急に距離を詰めてきた。何かした覚えはない。本人も特に理由はないと言っていた。意味わからん。
「純恋って暇なの?」
「いや、先輩のためにわざわざ暇を作ってるだけですけど」
「嘘つけ」
そういえば、まあいくらかの人は疑問に思ったのでは? 高一になんで一つ下の後輩がいるのかって。その理由とは、ここ天地高校は中高一貫だからだ。中等部と校舎は繋がっているうえ、出入りに制限はない。よく来る。
「嘘じゃないでーす。今だって実は課題が山積みなんですよ? 嘘ですけど」
「嘘じゃねえか」
「俺もいるんだがな。イチャイチャしないでいただきたい」
睨まれている。ものすごく。
「そういえばお前顔いいのに彼女いないよな」
「話を逸らすな」
失敗。左隣の純恋からなぜか見つめられ、右隣の山岸から睨まれているこの状況は肩身が狭い。
「あっちょセンパイ……」
「おい俺とこの子置いてくとはどういう……」
無言で離脱! 悪いな二人とも。普通に居心地悪い。
◆┃◆┃◆┃◆
屋上にて。
最近、突然ふとしたきっかけで、今までの普通の、少し下らないけど少しだけ楽しかった日常が、ほんの少しだけより楽しくなった気がする。物理実験室が爆発したあの日から。
「なーんか。思えば全部あそこからじゃないか。今が少し楽しくなったのって」
何もかも、あの日に帰着する。多分これからもそうなんだろう。マヒルレンゴウも、非科学研も。
「天気もいいし、寝るか」
記憶の整理もできるだろうし、何より快晴で、ポカポカしている今日この日は、日向ぼっこにはもってこい。眠い。瞼を閉じる。
◆┃◆┃◆┃◆
ヴーヴーとスマホが鳴った音で目を覚ます。てかスマホ? ルマか。
「もしもしー」
『もしもーし、んー聞こえるみたいだね』
「なんすか」
また嫌な予感。
『コーラかサイダー、どっちが好きー?』
どうしよう。死ぬほどどうでもよかった。いちいちそんなこと聞いてくんな。わざわざ電話で。
『んー聞こえてる?』
「サイダー」
ぶちっ。
……因みに今電話を切ったのは俺じゃない。なんか理不尽だと思う。自分勝手だなホントあの人。何。結局何の質問だったんだ。
ふと時計をみる。きっかり一時。
「え」
ヤバい。授業開始時刻はもう過ぎていた。さてはアイツそこまで分かってて連絡したのか。いやさすがにそれはないか。
ともかく。
「まずいっ!」
◆┃◆┃◆┃◆
「欠席2、遅刻1ねー」
はい、無事遅刻ー。ふざけんなー。
…まあ寝過ごしたのは自分なのだが。なんだかやり場のないイライラって困る。
「同志は遅刻、と…」
「うっせ」
正論ですらない煽り。よくない。
「本日のばけばけは前回に引き続き結合やりまあす。今回は金属結合です!」
『はーい』
相変わらずこの教師の授業ゆるいな。化学を「ばけばけ」っていうの多分この人ぐらい。
「金属結合とはですね。まあ名前の通り金属同士の結合が主なんですが……」
ウーウーウーウ―!
最近聞いたがしばらくは落ち着いていた校内サイレンが突如鳴り出した。前回は授業中ではなかったので、あまり興味もなかったが、教室は意外と動揺に包まれた。騒がしい。
それとやけに落ち着いている自分が変な目で見られた。だって危機感感じないんだもん。
「おや? こないだ鳴ったばかりなんですが、研究室は爆破されないでほしいですねー」
また爆破騒動とは限らないだろ。先生方の避難誘導に従う中、ふと脳裏によぎった一言。
『まあどうせすぐ決断することになるよ』
どういう意味だ……?
◆┃◆┃◆┃◆
流石に、地下シェルターにもう入ってしまったのだからどうこうされることはないだろう。一応管理は厳重だ。部外者が入ることはない。
「自分から出ることさえなければ、だけど」
「どうしたよ同志。妙に落ち着いてるかと思えば今度は瞑想か?」
そういうお前も落ち着いてるじゃねえか。てかいつの間に背後に。
「ん? あーいや。俺は慣れてるからな。というかこういうので俺みたいな脇役が死ぬことなんてないしヘーキだよ」
「オタク脳め」
「褒め言葉だが?」
うぜえ。まあなんだかんだ悪い奴じゃないんだよなあ。
「そういえばお前に伝えておこうと思って。さっきちょろっと中等部の先公の話が聞こえてきてな?」
「んだよ」
「中西純恋がいないってよ」
「は?」




