魂の歌…のはずが!?~ノエラのびっくり☆リサイタル~
その日の昼下がり。
シー・チキン号の甲板に、突如として響き渡った声があった。
「ノエラ様、本日はリハーサルでしょうか?」
「ううん。“本能のライブ”よ!」
「本能!?せめてスケジュールに入れてぇぇ!!」
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ノエラ・フェロー、船の歌姫にして、精神状態に謎の揺らぎをもたらす伝説のボーカル。
彼女が歌うと、感情が可視化され、税金が払いたくなり、プリンの消費が3割増しになるとまで言われている(※ノートン調べ)。
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そして、リサイタルは始まった。
> 「第一曲!
> 『タンスの角に小指ぶつけた夜に』!」
「来た――!!地味に痛い情景シリーズ第3弾んんん!!」
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♪タンスの角に やられた夜は~
♪愛も夢も しばらく停止~
♪問いかけるのさ “なぜ角はそこにあったのか”……
「哲学的アプローチきたああああ!!」
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トランフォード、耳を塞ぎながら絶叫。
「だ、だめだ……この歌、感情が脳に直接響く……!!」
「“共感性羞恥”がピークです!!」
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ノートン、静かに記録。
> 『ノエラ氏の歌唱開始。船員の精神状態:ゆらぎ中
> 歌詞内容:“事故→感情→哲学”への強引な三段構成
> 結果:マジシー、涙目。ダリオ、感動してペンを濡らす(海水で)』
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続いて第2曲。
> 「“納税行進曲・オペラVer.”いきまーす!」
「また税金の歌かよぉぉぉおお!!なんでそんなに好きなのぉぉ!!」
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♪収めろぉぉぉ!!
♪今こそぉぉぉぉッ!!
♪未来を守るんだぁぁぁッ!!
♪それが!それが!消費税っ!!!
「いや、それタイトルにすんな!!」
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このとき、遠くで帆の陰に隠れていたソーラがぽつり。
「ねぇ、ノエラの歌って……なんか、“変な覚悟”生まれない?」
「それだ!!“覚悟系ポップ”!!それが彼女のジャンル!!」
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ダリオは、感動しすぎて言葉にならず、絵を描いていた。
「見える……歌声がビスケットになって、空に舞い、税務署に消えていく……」
「それ完全に幻想です!!」
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その頃、マジシーは歌に感化されて新作を生み出していた。
「歌に反応する“感情共鳴型・即席スピーカー付プリン検出機”……これで完璧だ……!」
「使い方が特化しすぎ!!何を検出するの!?っていうかプリンに搭載しないで!!」
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そして、ついにノエラの声が、船長の思考に影響を与え始めた。
「ん……この旋律……“情報圧縮された情動のカタマリ”……!?」
「なにその、AI用語みたいな感想!!」
「一度聞いたら“二度寝しながら思い出すメロディ”だな……これは……脳に良い」
「脳にダメージだからああああ!!」
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トランフォード、倒れかけながら、ふらつきながらつぶやく。
「ノエラ殿の歌は……歌は……!?」
「……胃に悪いッ!!」
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だが、歌が終わった後。
全員が、なぜか少しだけ、姿勢を正していた。
沈黙の中、ノエラが微笑む。
「ね?ちょっと、スッキリしたでしょ?」
船長、静かに頷く。
「問いが……整理された気がする」
「え、うそ!?本当に!?」
「うむ。“なぜ小指は、角にぶつかるのか”……この問いは、すでに歌によって語られた。つまり、次へ進むべきだ」
「うそぉぉぉぉ!歌、問いの先導しちゃったぁぁ!!」
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シー・チキン号。
今日は音の船だった。
ビスケットが舞い、プリンが震え、歌が“問い”を超えた。
――たとえ、音痴なハミングでも。
問いがそこに生まれるなら、それもまた、航路。




