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これがゲームの世界ですか?  作者: 詩穂
アルビオン
78/115

They

シュー・アルバート(12) 前世は20代女性の少年。現代に置き換えると中高生レベル

エリオットJr.・アルバート(18)シューの兄。老けているように見えるが、現代に置き換えると実は新卒採用のような年ごろ。

オズワルド・アルバート(16)シューの兄。現代に置き換えると大学1年生のパリピ。


カーティス(14)シューの側仕え。現代に置き換えると中卒で働いてる。


社交界デビューはあと3年あるから、夜会がある時のシューは特に暇だった。家の者は殆ど夜会の準備に勤しんでおり、護衛が不足するからと街に出かけることも不可能だった。

 家族の共有の書斎で、母特選の猿でもわかる経済書を読んでいたが飽き始めた。ブランブランと足を動かして、何かないか考え始める。いつもならこういう時こそ魔導書でも読むのだが、フアナが消えた後どうしても身につかなかった。

 こないだ買ってもらった魔道具の照明を殺菌灯に変えることも上手くいっていない。灯がつくという事象は光魔法と同じなのだが、組み込まれた魔法の回路が光と縁遠い火魔法だったからだ。じゃあ、どうするのかとヒントを得ようと魔導書を開くがやる気が起きない、の繰り返しだ。

 カーティスとフィリップもつまらなそうにしているお坊ちゃんをどうにかしたいと思いつつも、いい策は見つからなかった。

「よし、スパイごっこだな。」

 暇すぎてどうやら実年齢よりももっと思考レベルが落ちたらしい。

「何をするんですか。」

「スパイっていうからには、目的となる情報を見つける、っていうのが大事だよね。そうだなぁ、今夜の招待客リストを探そう。スパイごっこ中は2人は休憩してていいよ。」

「いやいやいや、シュー。今日は外部の出入りもあります。自宅と言えども1人で行動しないでください。僕たちが処罰されます。」

「じゃあ、カーティスは撹乱して、フィルがまたウサギになって付いてきてくれればいいよ。」

 カーティスとフィリップはアイコンタクトを交わす。こうなったら幼い雇主の息子にとことん付き合おう。招待客リストは重要書類ではあるが、夜会の担当する使用人たちならば閲覧できるレベルのものだ。優秀な彼だったらすぐ終わる。

「よし、キッチンに行くよ!」

 真っ先にキッチンを選んだので、2人はすぐこのゲームが終わるのを理解した。

 今回のものは特例中の特例。夜会に正餐会がつくものだ。そして、出席者などの好みを把握して料理を出すので、簡単に誰が参加するのが分かり、準備する人間も多いため分かりやすいところにあるものだ。

「何がしたいんだ。」

「多分何かがしたいんだ。」

 心が読めるフィリップでもどうしても疑問を言ってしまった。カーティスの肯定にフィリップも感情の落とし所を見つけ、部屋を出ていくシューにフィリップは慌ててついて行った。


 すぐに終わると思われたスパイごっこだったが、何故かエリオットJr.に鷲掴みされて書斎に戻された。

「なんでですか。」

「前よりもお前の動きが分かるようになってな。」

 地下にあるキッチンに行くところで発見された。きっと警戒は続けられるだろうとふてくされていると、エリオットJr.に紙を渡された。

「で、何か気になることがあるのか?」

渡されたのはシューのスパイごっこの目的だ。それさえも看破されており、こちらの完全敗北だ。

「…いえ、特に。」

と、リストの文字を雑に送っていると社交界に興味の一切ないシューにも知っている名前があった。

“アレクサンドラ・リース”

肩書きはリース伯爵家令嬢だ。男性の敬称が付いているわけでもない。

「…トーレン。」

 ゲームでは元精霊のトーレンと仲が良かったキャラクターで、今回彼は関わってない人物。彼が関わってないせいでアレックスは女性として生きているのかもしれない。

「それが本当なら絶対に『悪化』した未来だ…。」

「レディ・アリッサ・リースが気になるのか?」

 エリオットJr.が彼女の名前で呼ばない。女性として接しているのが確定だ。

「僕の知っている未来だと、彼は『男性』として生きていたんです。…私的な問題なので僕が彼のことを話していいのか分かりませんが。」

「そうか、とにかく彼女(she)ーーーここは(They)とするかーーー、(They)がどう歴史に関わるか分からない以上、何もできないだろう。」

「そ、うなんですけど。」

(They)についてはオズワルドに探らせておくから気にするな。女性に聞き込みするにはオズワルドが一番慣れている。」

「確かに。僕が下手に口を滑らせるよりはいいか。」

 シューに再びスパイごっこをさせない為、エリオットJr.付きの従者が監視についた。仕方がないから買った魔導式ランプをいじくり回す。気力は変わりないから良いアイデアも閃くことはなかった。

「あーー!もう、お母様の庇護下じゃあ何もできないじゃん!」

 今のシューが母親のディアナを出し抜くには、悪魔と闇の精霊の力が必要だ。エリオットJr.やオズワルドが協力したところで最終的にはディアナには逆らえない。

「急いてはことを仕損じる、だろう。王女殿下はシューの力を必要としているだろうし、聖女のマリアンもシューに会いたがっている。ディアナはシューを保護したがっているが、エリオットJr.はアルビオンの為になるならお前を自由にするはずだ。」

 フィリップの言う通りである。然らばシューのやるべきことは自身の魔法強化くらいしかない。シューの為にアルバート家が購入した光の魔導書を見る。

「この解読っていうか、やっぱりトーレンか。」

「でも、あの人は語らないですよね。」

「どこまで語れないんだと思う?」

「…全て語れないかもな。そういえば一つ気になったことをうかがってもいいか?」

「なに?」

「魔導士ミカに尋ねるのがよいのでは?」

「そういや、会ってないなぁ、最近。」

 元々シューをはじめアルバート家の魔法指導をしていた高名な魔法使い、もとい魔導士である。ミカは携帯小説の作家でもなく、日本人女性の名前でもなく、普通の年配の男である。

「そういえば、僕に病気耐性つけていたのは彼だったのが判明したよね。」

 ほかのことの方が気になってしまっていてミカの名前が出ていたのに放置していた。彼を慕っているとはいえ、父親のお気に入りの魔導士であるから頼ってはいけない人であると考えてもいた。

「ああ、そうだね。貴族の家出身の魔導士の癖に気さくだから、彼と話すのはいいんだけど、いかんせん人望がある人だから捕まりづらいんだよね。今日の夜会にもとりあえず招待状は出しているようだけれども、欠席になっている。」

「魔導士ミカは基本的にアルビオンにいるのか?」

「いいや、本人は根無し草がよいとどこにも属してないはず。どこにいるかは、エル兄さまに聞けばわかるとおもうけど。」

「そんな人間がいるのか?」

「ううん、強いて言うなら二重国籍みたいな状態?どちらにもいて、どちらでもない。」

「シューも彼を目指せばいいのでは。」

 シューもなれるものならなりたいが、それはシューには無理だ。

「難しいよ、あの人も休みなしで働いているんだ。根無し草が許されているのもワーカホリックでずっと仕事しているからだよ。そういうのは、僕は勘弁かな。」

誰よりも自由に見えるから皆憧れる。しかし、誰よりも自由のために働いているから、結局は忙しい。

「なら、会うには約束を取り付けなければということだな。」

「そう。ちょっと前までは魔法指導で定期的にあっていたんだけどね。」

 半年以上会っていない。父親とつながりの深い魔導士なんて録に情報を渡すとは思えないが、久しぶりに会うのもよいだろうと、近場に兄の侍従がいたことを思い出し、兄に話しておくように頼んだ。


 正餐会の前にオズワルドはエリオットJr.に呼び出され、「アレクサンドラ・リース」について調べてくるよう頼まれた。

「レディ・アリッサ・リース?まあ、穏やかな伯爵のお嬢さんだったと思うけどなあ。兄さまが直々に頼むなんて珍しい。」

「…不自然ではない程度に。危険を冒す理由は無い。」

「ふうん、まあ、食事中の席次は遠くて話せないだろうから、ダンスのカードに名前を書いてもらってくるけど、最近はリース伯爵と距離置いているし、変に勘繰られない?」

「アルビオン領地内の正餐会とは言っても、オルレアンの目はどこにでもあるが、リース家程度なら何とでもなる。王女殿下の理解なら得られるだろうし。」

 ダンスのプログラムが書かれたカードはアルビオンの正餐会で配られているものだ。綺麗な装飾をされたカードだが、曲名の隣には空欄が空いている。ここにレディは踊るパートナー名前を書くためのものだ。色々駆け引きに使われるカードは不要だと配らない正餐会もあるが、ディアナは今のところあった方が誰と踊る、踊らないを考えることができるため双方楽だろうと取り入れている。

「正餐会なのにお父様が来ないのは正直どうなんだろうね。未亡人ならまだしも…。」

「お母さまとお父様以外がやったら、顰蹙を買って仲間外れにされるだろうな。」

 エリオットJr.だってわざわざオルレアンから婚約者のコゼットを呼んでいるのに、主催者のアルバート夫妻が揃わないなんてマナー違反にも程があるが、規格外の夫婦は「ああ、あの夫婦だから仕方ないよね」というのが許されてしまっている。

 オズワルドはため息をつきながら、ゲストを迎えるために笑顔を浮かべてホールへと向かう。今日最初に踊る女性は決まっている。家令マーリン・チェンバレンの孫娘で、オズワルドと同い年のずっとアルビオンで育ってきた可愛らしい女性だ。

「…オズワルド様、疲れていらっしゃいますね。」

「レディ…。ええ、今日はホストだから朝から準備していたからね。」

 オズワルドが彼女にアレクサンドラのことを聞くのは申し訳ない気がしたが、本人に聞くよりも周囲から聞き出したくて、彼女に尋ねた。少しだけ彼女は驚いて悲しそうな目をしたが、知っていることを教えてくれた。

「幼少のころ、お会いしたことがありました。その頃は男装していたのが印象的でした。」

「俺も会ったこと少なくて記憶が定かじゃないけど、やっぱり男装していた子かぁ。うーん、あんまり笑っているところもないけど、レディはどう?」

「わ、私もそうだったと記憶しております。」

「リース伯爵は彼女しかお嬢様は居なかったよね。」

「そうですね。お子様は弟様がお二人いらっしゃったと思います。」

 それから、彼女は少し眉を顰めて、言いづらそうに、

「…ただの噂でしかなく、信憑性もないのをオズワルド様に申し上げるのもよくないかとは思いますが、近ごろアレクサンドラ様に悪い噂をお伺いすることが多いのです。」

と、告げた。悪い噂は淑女の集まりには参加せず、紳士クラブばかりに参加して男漁りをしているだの、下級使用人に現を抜かしているだの、しまいには悪い連中とつるんでいるだの聞いていて気持ちのいい噂ではなかった。

「なぜ、そんな噂が。」

「真実なのか、誰かが貶めようと意図的に流したか私には分かりません。真実を調べようとも思いませんが、しかし、14歳の子ですし…。」

「デビュタントが早いとは思ってはいたけど、リース伯爵がとっとと嫁がせようとしているのかもしれないな。レディ、ありがとう。全てが真実ではないと思うけど、リース伯爵が彼女を危惧しているのも確かだね。あとは本人にも接触してみるよ。」

「あの、オズワルド様。どうして彼女を?」

 父や兄のようにはなるまいと心掛けているオズワルドは不安そうな彼女に微笑んだ。

「公爵家の次男には長男にはできない仕事があってね。本当は姉妹がいればリオ兄様もそちらに頼ったとは思うのだけど。」

 公爵家の「仕事」で、本来女性の方がよいということを話すと、聡明な彼女も理解してくれたようで、安堵していた。

「できればなんだけれど、レディも手伝ってくれるかい?」

「ええ、私でよければ。私はオズワルド様のお力になりたいです。」



 オズワルドがマーリンの孫娘と話しているところ、シューは久しぶりに一人夕ご飯を食べていた。給仕はカーティスでそれ以外の使用人がいなかったから、シューは食事中だろうとかまわず話しかけた。

「僕が魔族に手を貸したのは、孤独と承認欲求からだった。それにダンが唆したから。そのダンが今アルビオンにいた。アレックスが――――認められなかった(He)が、あの悪魔の手を取る可能性があると思う。」

「もしそうなってしまったら。」

「僕はトーレンからぶん殴る。それに、アレックスの悩みは今なら僕も少しは分かるよ。」

 全て、とは言えない。でも、今シューが女性に対して興奮するかと言われればしないし、同性の男性の裸を見るのも躊躇いもある。そして、逆があるのかといわれるとない。男性に対して興奮しないし、女性の裸を見るのも躊躇いはある。

「難しい、問題ですね。」

「そう。ただそういった感性が未発達だというのもあるから…。」

「美代子さんはどうだったのです。」

「えー、レディにそれは聞いちゃだめだよ。少しばかりの人格だったとしてもね!」

「…失礼いたしました。」

「アンヌみたいに同性に転生していたら楽だったのに。」

ブレッドを丁寧にちぎってもぐもぐと食べる。

「まあ、僕はどうだっていいんだけどね。お母様やお兄様たちが結婚しろというのならするし、どうだっていいというのなら、その時の自分の感性に従うわけで。でも、アレックスは『今』苦しんでいるかもしれないし…、それすらも僕はゲームの知識の推測でしかないし…。」

「どうだったらいいと思っていますか。」

「その1、本当にただのご令嬢。2、普段は男として過ごすのが許されていて、令嬢としてどうしてもしかたない時だけ令嬢として生きている。とにかく僕の思い過ごしでしかないっていうのが願望。」

「本当に(They)が苦しみや悲しみを抱いていたらどうする気なのでしょう。」

 ゲームのアレックスは攻略こそ一筋縄ではいかなかいが、いい人であるのは確かだった。いつも学院の修練場にいて、実践の特訓をしてくれるキャラクターで、HPこそ低いがスピードと物理力、自己バフ能力が魅力的だった。

「どうするんだろう、僕に何ができるんだろう。トーレンは、どうしたんだろう。」

 でも、きっとトーレンにも分からない。そして、正解なんてあるはずがない。


男女関係なく表す日本の代名詞は『彼』なので、わざわざTheyとルビ振る必要はないのですが、彼と書いて男女関係ない代名詞だと分かりにくいかと思いTheyとルビを振りました。

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