21.香山桜子
「そもそもこれって、唯の身内の殺し合いだから。」
電話口で愛梨は話し始めた。
「Pluto加害者生徒を、丸尾先輩がいじめて転校させたて白石先輩が主張して始まった戦いだけど。それは建前で参加する魔法少女に二人はこう言ってるの。」
「恨みがあるんでしょう?いい機会だから晴らしたら?戦いの中じゃ誰も見てないからばれないわ」
愛梨の話の途中に、尚美が静かに誘い文句をマネして見せた。
「魔法少女になる理由に、嫌いな奴を殺したいて結構あるのよねぇ。で、力を手に入れて消した後も、自分はもう力を持ってるんだから、気にくわない奴は消せばいいて考えに至るわけ。」
愛梨はそう説明してくれた。
私はその時のことを思い出していたが、私の横に明日奈と尚美が守るように並んだことで思考を現実に戻す。
「戦う気はありませんよ。あなたたちは、愚かではないみたいですし。」
魔法少女衣装からもわかる抜群のプロポーション、ダンス部の丸尾先輩だ。
「愚かじゃないから分かりますよね?これは必要な戦いだって。学校内で勝手に消しあいされるより、場所を設けたほうが普段の急襲やカプセル強奪の危険性が下がりますから。現に、あなたたちも快適な学校生活を送れているでしょう?」
丸尾先輩は、平然とそう話した。私に攻撃されるか警戒しているのだろうか。
分かりますよ先輩方。と理解と従順を示す態度を取ると、白石先輩は喜んだようだ。
「ね!だから言ったでしょう?理解して不可侵を受け入れてくれるって、いやー、私良い後輩持ったわ!!」
私は曖昧な笑顔を先輩方に送る。横の二人から緊張感は消えない。
下の喧騒が収まったようで、音が聞こえなくなった。
「そろそろじゃん?悠里どう?」
白石先輩が丸尾先輩に聞く。
「今回きちんと、復讐とカプセル回収を両方できたのは2人だけのようです。」
「でも二つあるだけいいじゃん。日数にもよるけど。」
「そうですね。行きましょうか。」
丸尾先輩と白石先輩は交互に会話して、
「それじゃ私達下行くわー。何なら解散でもいいよ。負傷したことにしとくし。」
と白石先輩が私たちにそう言って、二人は学校に降りていった。
「本当に追いかけるんですか?」
明日奈が心配そうに私に問いかける。私だって行きたくないけれど、愛梨の計画通りにやらないといけない。万全を期しているとは本人の言葉だけれど、愛梨は私より場数を踏んでいない。こんな時起きることはきっと私のほうが知っているだろう。知ってても、止められないわけだけど。最低だね、私。
私たちが学校に降りると、中庭に3人の魔法少女がいた、両先輩と、戦いを終えた様子の魔法少女だ。
その魔法少女は、今まさにコンパクトから出てきたハムスターにカプセルを貰おうとしている。
すると、高速で飛んできた白石先輩が、コンパクトを持つ腕ごと吹き飛ばした。武器はないので、先ほどの壁抜けといい、空間操作の魔法少女なのかもしれない。
「やった取った!!!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
白石先輩は、吹き飛ばした腕をまた掴んでカプセルを手に入れていた、しかし、先輩のお腹には深々と銃剣が刺さっている。
片腕を吹き飛ばされた魔法少女が、もう片方の腕で白石先輩のお腹に突き刺して、そのまま体ごと壁に打ち付けて刀身を深く刺し込んだ。
今になって痛みを知覚したのか、唸り声をあげる先輩、魔法少女は、私達3人に気が付いて、
「降りてこないで!!」
と叫んだ。
次の瞬間、中庭に面した全ての窓から、一斉に銃弾が、2人を目掛けて降り注いだ。
射撃時間は長くなかったはずだが、二人はもう原型をとどめていない。中庭は赤黒い血だまりとなった。
明日奈と尚美は、
「すみません。肩貸してください。」
と私の肩に顔を埋めた。初見ではないが、こういった光景は慣れていないのだろう。
銃撃音が止み、二人だった物は綺麗に消滅した。血だまりもどんどん消えていく。二人の存在は、この世界になかったことになった。
その時校舎から、素早い動きの箒に乗った魔法少女が、悲鳴を上げながら飛び出て来た。
丸尾先輩のようだ、
「どうして!?どうして!!??」
と繰り返し叫んでいる。
丸尾先輩は、片足がちぎれているので、腕で箒に縋り付きながら飛んでいる。その後ろを、何人かの魔法少女が追いかけている。
丸尾先輩はそれでもなんとか飛び続けたが、出血が多すぎて体力が尽きたのか、校庭で箒から転がり落ちた。
落ちるとき打ち付けたところが痛むようで、人語とは思えないうめき声を上げながら這い進む先輩、しかしすぐ他の魔法少女に囲まれた。
一人の魔法少女が、コンパクトを持って丸尾先輩の前に立った。先ほど落下したときに先輩のポケットから落ちた物のようだ。
先輩の目の色が変わる。何をされるか察したのか、
「やめてそれだけは、お願い、嫌だ、あんなものになりたくない、このまま殺して!!」
魔法少女は、何も言わずに、自分の持つ銃で数回コンパクトを打ち抜いた。
コンパクトから耳障りなアラーム音。
「エラー、エラー、ヤッコウキゲンゼロ・・・プロテクトショウメツ・・・」
鳴り響くアラームと丸尾先輩の薬効期限が切れたことを示す文言。
先輩は人が出せないような悲鳴を上げる。
だんだん先輩の体が膨れてきた、いつも見るオオサンショウウオのようにぱんぱんに膨張していったが、限界を迎えたのか破裂する。
びちゃびちゃと周りに飛び散る濁った紫の液体。先輩の体のあった場所には、紫色のオオサンショウウオが鎮座して、周りの液体を吸いながら膨らんでいった。
一斉に魔法少女のコンパクトから害獣出現アラームが鳴り響く、戦闘態勢を取る魔法少女達。
様々な武器で攻撃していくがびくともしない。
私達3人も上空から駆け付けるが、害獣の膨らむスピードが速すぎる上に、口から大きな舌を出し、魔法少女を飲み込むと、咀嚼だけして原型を留めなくして、また吐き出す。恨みを晴らしているのだろうか。
害獣はあらかたの魔法少女をかみ砕くと、他の獲物を探して学校の外に歩き出した。
「尚美!」
と明日奈が叫ぶと、尚美はすぐにぴたりと害獣に張り付いて追跡を始めた。
私と明日奈は状況を確認した。
戦闘に参加した魔法少女はほぼ皆原型を無くしていたが、先ほど丸尾先輩のコンパクトを打ち抜いた魔法少女がサッカーゴールに寄り掛かっているのを見つけた。今日来る途中に会った蛍光ピンクの魔法少女だ。
近寄る私たちに気づいた彼女は、怪我も出血も酷いのに微笑みかけてきた。
「成功してよかったです。真名守さんにもお礼を言っておいてください。」
そう言って目を閉じ、そのまま彼女の肉体は砕けるように消えて行った。
起きると分かっていたことだ、でも予想通りの展開に、膝をつき、耐えられない表情の明日奈。私も、こんなこと協力したくなかった。
魔法少女はコンパクトが破壊されると、薬効期限がリセットされ、いままでの効果が消滅する。
すると、自分自身が害獣となる。
だから皆、自分の体を失うよりも、コンパクトの破壊の方を恐れている。
白石・丸尾両先輩は、相手のコンパクト破壊と、害獣化した相手のトウバツを、同時に行うことで薬効期限と復讐の両方が出来ると、甘い提案で魔法少女たちを誘った。
そして、2つを成功させた子からカプセルを奪い、当人を消す。
この学校が急激な少子化で共学になったのも、両先輩のこの作戦があったからだ。
知った当時は逆らえなかった愛梨達だったけれど、この作戦で消滅した魔法少女を愛していた魔法少女も沢山いたわけで、復讐の機会を狙っていた。
コンパクト破壊による害獣化を止めなかった私達にも責任がある、だから、何としてもトウバツしなければいけない。
私は消滅した彼女のいた場所に背を向けて箒を呼び出した。
「害獣は渋谷方面に向かってます!」
尚美の位置情報を追う明日奈の声。彼女ももう行くべき覚悟を持ったのだろう。本当に頼りになる仲間だ。
学校から渋谷方面だと、私の住むマンションがある方向だ、家までは行かせない、その前に片をつける。
箒に跨り、2人、夜の空に飛び出した。




