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君と歩くビフレスト  作者: 三池ゆず
1.死神少女
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6話:黄色い光

 昨日エリサに連れられ病院に行った。死んだ日から三日間経っていたらしい。

 急所を外したとは言え、かなりの深手だったらしく、無理な運動は控えるようにと言われ、薬と包帯を貰った。


 その後学校へ行って、休学届を出してきた。理由は姉からの連絡が途絶えたから、探しに行くためだとシャルロ教官に言ったら、姉さんが見つかるといいねと言われた。

 表情を見る限り、シャルロ教官が何かを知っているようには見えなかった。どうやら、おれが殺されるようなちゃんとした理由を知っているのは、一部の人間だけなのかもしれない。

 教官のことだ。もし知っていたら留めようとするか、一生懸命逃がそうとするかどちらかであろうから。


 最後に、旅の為に食料を買った。服やら何かは姉のものがあるから、エリサは困らないだろうし、おれも一応士官学生だったということもあり、旅用品には特に困らない。


 姉さんが帽子を集めているのは助かった。帽子はエリサの猫耳を隠すのにちょうどいい。

 エリサは窮屈だと喚いいたが、変な耳がついているせいで目立ってしまうなど、最悪だ。その隣が、おれだと軍人が分かってしまったらどうなる。どう考えたって浄化だかなんだかされてしまう。


 それで、晩御飯を食べてすぐに寝て、暁色に染まりだす今の時間に至る。隣にはエリサ。四方には大平原。


「誰もいないから、帽子をとらせなさいよ!」

「やめとけよ。旧街道っていったって、意外と人が通る」

「そう言ったって誰もいないじゃない!」


 確かに、この道を通る人はいるが、新街道ができてからはそれほどではない。

 新街道の整備された道を通れば、マノ湖を渡る船に乗らなければならないが、2日でレザリアまで行けるからだ。庶民であるおれたちも、普段ならば乗合馬車と小さな渡し船に乗ってそこを通る。

 しかし、軍人に殺されかけたということは、おれが犯罪者という言葉によって狙われる可能性が高い。だから、この道を選んだ。単にお金を節約したいというのもあるが。


「こっちを通る旅人もいるし、二十テールぐらいでレザリアとノルンの間にある、トルティエに連れて行ってくれる乗合馬車も通るんだ。その人たちに耳が見えたら大変な騒ぎになるだろうが」

「ふうん」


 露骨に嫌そうな顔をするエリサ。耳が塞がれる感覚がそこまで嫌なのだろうか。まあ、嫌でもなんでも猫耳生やした女など目立つから被らせるが。


「でさ」

「なんだ?」

「二十テールって安いの?」

「二十テールはおれ的にはなかなかの額だよ。ただ、新街道通るルートに比べれば破格だけど。向こう通ったら二人で百六十テールだからなあ」


 この先、歩いてトルティエだから四日ぐらいの距離だ。馬車だと一日半ぐらいなのだが、いかんせんノルンから乗らなければならないのだ。今の状況からして、あまりにも怖すぎる。

それに、ここを歩かなかったら、レザリアまで二人で八十テールだ。時間はかかるが、金は大切だ。



 歩きだして二日目。野宿をしたせいでエリサは背中が痛いとずっと言っている。

 おれは腹が痛い。もちろん、怪我したあたりだ。なぜかまだ傷口が熱を持っているみたいだが、薬はきちんと塗っているから気のせいだと信じたい。


 昼。生暖かい風のせいで随分暑く感じる。護身用にと思って持ってきた剣とか荷物の入ったリュックとかは、体とくっついている面に汗をかくから最悪だ。

 横には高級馬車がいる。白くて無駄に豪華そうな馬車だ。よく見ると家紋が掘られている。

 苛立つ。本当に。この家紋を見ると。フェルセン家。金と称号があるだけで威張り散らす貴族の代表格。本当、隣にいると考えると最悪だ。


 そして、それ以上に困った存在が 目 の前にいる。何か大きい生物。最悪だ。

 まあ、高級馬車が大砲みたいな武器を搭載していて、それが無駄に大きくて獰猛な白い犬みたいな生物に向けられているからいいのだが。


「ねえ、リク。あれは何?」


 エリサが言ったあれは、馬車についた武器のことだろう。


「大砲だと思う。炎の玉とか空気弾とかが飛んでいくんだ」

「へえ。あんなちっさいのからねえ。仕組みは?」

「あの型の奴は知らない」

「あんた、勉強だけはできるのに知らないわけ?」

「武器理論の教官が知らない代物なんだ。おれが知るわけないだろ。そうじゃなかったら、威力は皆無だよ。あんなコンパクトな大砲じゃあ、あの大きな犬みたいなやつにはかなわない」

「へえ」


 思った通り、新型の武器だった。大砲というよりは火炎放射器と言ったら正しいか。線状になった炎が大きな犬に向かって飛んでいく。それを受けた犬が暴れて地面が揺れる。


「逆効果、なんてことないわよね」

「まさか」

「じゃあ、なんでこんな地響きするのよ」

「知るかよ。ただ、あの犬がやられるまでは時間かかりそうだよなあ」

「はあ、なんで?」

「急所は狙えていないし、きっと生命に関わるほどの火傷を負わせるには、あの図体の大きさではかなりの時間焼かないと無理。まあ、剣を使って無謀な戦いを挑むよりはいいと思うけど」


 待っているとは暇だ。それに、ノルンからさほど離れていない場所で足止めくらうのも困ったものだ。追っ手がいるかどうかなど分からないが、用心に越したことはない。

 迂回路でもあればまた別だが、このだだっ広い平原にそのようなものを求めてはいけない。

 考えるな。どうせここから動けないのだ。馬車が巨大犬を燃やしてくれるまで待つしかない。


「ねえ」

「何」

「これから私の言う通りにして」


 エリサは何か閃いたのか。どうやらおれが動かなければならないらしい。おれ、学校でも下位の運動能力しか持たないのだが。


「はいはい」

「剣を抜いて、落雷をイメージしながらその場で横に薙いで」

「え? なんだそれ」


 おとぎ話に出てくるような魔法でも使えと言うのか。確かルエ族は使えるらしいが、まさかおれが使えるはずがない。


「いいから。あ、急所を狙うイメージで。とにかくやって!」

「あいつの急所って?」

「あんたの方が詳しいでしょ!」

「ええ」


 暴れる犬を凝視する。とりあえず、あの生物の心臓を狙えばいいか。まさかな。何も起こりようがない、ただの見ていて恥ずかしいやつだろう。

 でも、おれが死人でエリサが死神という訳の分からない状況だ。やってみる価値はあるかもしれない。

 愛用してきたロングソードという名の安物の剣を握る。そして、一気に横に薙ぎながら雷をイメージする。

 突然、剣から黄色く目がチカチカする物体が出てきた。それは、大きな犬へと飛んでいく。そして、ばちばちっと音が鳴った。火炎放射器が止まり、どん、という音とともに犬が倒れた。


 どういうことなのか、理解しろと言われても困った。これに理論が存在するかどうかさえ分からない。

 これは、おれができることなのか。それとも、死神のエリサがいたからこそできた芸当であるのか。


 馬車の中にいたと思われる人がこっちへ向かってくる。革製品に身を包んだ兵士、だろうか。おれが持っているロングソードよりずっと高価そうな剣を身につけている。

 エリサはおれに絶対に話すなと言うと、着ているベストのポケットに何かを入れた。


「ありがとうございます」

「いえ。こちらもあの大きな生物に困って倒したものですから」

「そうですか。いやあ、それでも本当に助けられました。お礼ならなんなりとお申し付けください」

「そういうものは、結構ですので」

「そんな、謙遜なさらないで。そうだ、旅人様方はどこへ行かれますか?」

「レザリアですが」

「そうですか。もしよかったら、トルティエまで乗っていきませんか。今、馬車にいるお嬢様もきっと喜ばれるでしょう」


 全部エリサが対応してくれていたから、どうするかエリサが決めてくれると思ったが、これは違ったらしい。

 エリサがこっちを見ている。余計な口をきくなと言われたから、小声で彼女にどうするか伝えなければならないだろう。


「名家のお嬢様と私兵だろうから、乗ったところで問題にならないと思う」

「ふうん。乗っていいのね」


 乗りたくない。フェルセン家の馬車に。と言いたいが、背に腹は変えられない。学校があるうちのあれがここにいるわけでもない。


「おそらく。国軍は特に機密情報じゃなさそうなものも機密の時も多いから、おれが殺されかけたことは伝わっていないと思う」

「長い。はいとかうんとかだけでいいでしょ!」

「はい」


 馬車の中に通されると、幼い少女と、おれより年齢が上だと思われる女の人がいた。その横には付き人であろう女がいる。

 乗合馬車ぐらいしか乗った事のないおれにとっては、無駄に座り心地がよかったり華美だったりしたことにも驚いた。しかし、それよりも付き人は置いといて、乗っていた二人が美女だったことに驚いた。

 あそこまで透明感のあるサファイア色の瞳はなかなかいないと思う。フェルセン家というだけで嫌悪感を覚えなくてもいいらしい。


「本当にありがとうございました」

「身に余る光栄です」

「ねーねー、おにいちゃん。ビューンってひかってるのとんでったね! どうやったの?」


 エリサがこっちを見ておれのポケットからさっき入れられた何かを取り出した。ちらりと見ると、ネックレスらしい。赤い小さな石があしらわれているものだ。

 なぜおれにわざわざ持たせたのだと思った次の瞬間、ぐって足を踏まれた。痛い。余計な口出しするなよ、ということだろうか。


「それは、」

「あら、紅石のことをご存じなのですか?」

「え、ええ。あの火炎放射機にもついておりますから。ただ、ずいぶん希少みたいで、私も屋敷では三つほどしか」

「そうですか」


 紅石。噂で聞いたことはあるが、実際に見たことはなかった。願えば不思議な力が使えるという石。

 どういう経緯で取れるのか知っている人は、少なくともおれの周りにはいなかった。もちろん、お世話になっていた教官も例外ではなく、だ。

 ただ、とにかく希少で、人の傷を癒すことから、炎や水、風や雷などを使って他者に攻撃を与えることまで何でもできることは知っていた。


 紅石を使っておれにあれを倒させたのか。

 いや、待てよ。おれはエリサに指示を出された時に何も持っていなかった。

 それをここでつっこむなよ、ということか。どうやらおれに信頼はないらしい。口は堅い方だから言わないと思うのだが。


「ねえねえ、あのおにいちゃん、なんでしゃべらないの?」

「しゃべらないんじゃなくて、綺麗な二人を目の前にして緊張しちゃってしゃべれないのよ、お嬢ちゃん」

「へー。とおってもはずかしがりやさんなんだー」

「そうそう。とおってもはずかしがりやさんなのよ」


 エリサもなかなか可愛いと思うが、この二人はおれが出会ったなかでは、類を見ないぐらい綺麗だと感じる。

 そのせいだろうか、変に緊張している気がする。だから、言葉を発せない状況の方がありがたいのかもしれない。


「鼻の下、のばしてんじゃないわよ」


 エリサに小声でそう言われたかと思うと、エリサにかかとでおれの足をぐりぐりされた。可愛い娘が二人いるからなんとか持ちこたえられると思ったが、視界がゆがんだ。

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