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無能王子、東の塔で神霊を得る  作者: 伊佐波瑞樹


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202/251

第202話「外の色を一つだけ、無能王子は“空を知らないわたし”に青を渡す」


 朝は、薄い沈黙の中にあった。


 神殿の奥。


 石壁に囲まれた保護陣は、静かに淡い光を放っている。


 余白核は、まだ眠っていた。


 そのそばに、余白箱。


 少し離れて、保留箱。


 そして、アリシアの箱。


 三つの箱は、夜を越えても消えていない。


 名簿束は、第五領域の水路の上で淡く浮かんでいる。


 水路は細く、昨日よりもさらに穏やかだった。


 昨日、中心は“光の時間”を決めた。


 朝の光を、昨日より少し長く見た。


 光の中に、埃が舞っていた。


 小さいものも、光があれば見える。


 自分も、誰かの光で見えてきたのかもしれない。


 その言葉は、余白記録に静かに残っている。


 ひかり、すきかも。


 それは、まだ小さな好きだった。


 確定ではない。


 強く言い切れるものでもない。


 けれど、中心の中から生まれた、自分自身の“かも”だった。


 レオンは、保護陣の縁で目を閉じていた。


 眠ってはいない。


 黒蒼雷の細い線を、床に沿わせている。


 今日は昨日よりもさらに細い。


 中心が光の時間を自分で止められたからだ。


 支えは必要だ。


 けれど、支えすぎない。


 外へ近づくには、押さえつける守りではなく、戻れる道を残す守りがいる。


 リリアーナは、余白核の近くに座っていた。


 彼女の手元には、今日は小さな布が一枚ある。


 白い布。


 昨日、光の中で埃が見えた時、中心は“小さいものもある”と知った。


 今日はもし中心が望むなら、光を直接床に落とすだけではなく、この白い布に受けて見せる準備をしている。


 光は床でも光だ。


 でも、受けるものが変わると見え方も変わる。


 それもまた、外を知るための小さな一歩になるかもしれない。


 エリシアは術式盤を開き、採光孔の調整値を確認している。


 セラフィアは、光を柔らかくする祈りを整えていた。


 アルベルトは壁際で腕を組み、今日は少しだけ落ち着いている。


 大きな声を消すのではなく、選ぶ。


 その練習は続いていた。


 クラウスは入口側に立ち、ラウルは採光孔の石蓋を開ける役目を確認している。


 ミリオは、外の声を拾わないよう精神線を内側に丸めていた。


 アリシアは、自分の箱の前に座っている。


 赤い眼の残光は、まだ薄く残っている。


 けれど、昨日見た光の記憶があるからか、彼女の表情は少しだけ柔らかかった。


 余白核が、小さく震えた。


『……』


 朝の揺れ。


 リリアーナは、静かに待った。


 保護陣の光が、一度。


 二度。


 ゆっくり明滅する。


 やがて。


『……おはよう』


 中心の声が響いた。


 リリアーナは微笑む。


「おはようございます」


『……りり、おはよう』


「はい」


『……れおん』


 レオンが目を開ける。


「おはよう」


『……しずかなあさ』


「ああ」


「静かな朝だ」


 中心は、少しだけ余白記録へ意識を向けた。


『……ひかりの時間』


「昨日の記録ですね」


『……のこってる』


「残っています」


『……ほこり、みえた』


「はい」


『……ちいさいものも、ある』


「はい」


『……ひかり、すきかも』


「はい」


 中心は、淡く揺れる。


『……すきかも、きえない』


「消えていません」


『……よかった』


 その声は、昨日より少しだけ落ち着いていた。


 “好きかも”が、朝を越えても残っている。


 それだけで、中心には安心があった。


 レオンが静かに問う。


「今日のわたしは、どうする」


 中心が揺れる。


『……きょうの、わたし』


 一拍。


『……ひかり、みたい』


 リリアーナは頷く。


「光の時間ですね」


『……うん』


「昨日と同じですか?」


 中心は、すぐには答えなかった。


 保護陣の光がゆっくり揺れる。


『……おなじ、でも』


「はい」


『……すこし、ちがう』


「何を変えたいですか?」


『……わからない』


「はい」


『……でも、ひかり』


 一拍。


『……ほか、ある?』


 リリアーナは少し考える。


「光の見え方、ですか?」


『……みえかた』


「昨日は床に落ちる光を見ました」


『……ゆか』


「今日は、白い布に受けることもできます」


『……しろい、ぬの』


 中心が興味を示すように揺れた。


『……りりの、はな?』


 リリアーナが微笑む。


「白い花とは少し違いますが、白いものです」


『……しろ』


「はい」


『……ひかり、しろに、のる?』


「そんな感じです」


 エリシアが術式盤を見ながら補足する。


「白い布に反射させれば、光の刺激をさらに柔らかくできます」


 アルベルトが小声で言う。


「簡単に言うと?」


 エリシアは少しだけ息を吐く。


「眩しすぎないようにできます」


『……まぶしすぎない』


 中心は安心したように揺れる。


『……しろいぬの、みたい』


 レオンが言う。


「光だけだ」


『……うん』


「声は入れない」


『……こえ、なし』


「人の気配も入れない」


『……ひと、なし』


「景色もまだ見ない」


『……けしき、なし』


「白い布に落ちる光を見る」


『……ひとつ』


「そうだ」


 中心は、ゆっくり光った。


『……ひとつで、いい』


 リリアーナが微笑む。


「はい」


「今日も、一つでいいです」


 ◇


 朝の挨拶は穏やかだった。


 中心は、今日は全員に声を届けられた。


『……あるべると、おはよう』


「おう、おはよう」


『……こえ、えらぶ』


「選ぶ」


『……けさない』


「消さない」


『……えりしあ、おはよう』


「おはようございます」


『……こころのはこ』


「あります」


『……ひかり、しっかり』


「しっかり調整します」


『……しっかり、でも、やすむ』


 エリシアは少しだけ笑った。


「はい」


「休みも入れます」


『……せら、おはよう』


「おはよう」


『……ひかり、やわらかく』


「任せて」


『……くらうす』


「おはようございます」


『……けしき、まだ、なし』


「はい」


「今日は光だけです」


『……らうる』


「おはよう」


『……いしぶた、ゆっくり』


「ああ」


「ゆっくり開ける」


『……みりお』


「おはようございます」


『……こえ、ひろわない』


「今日は拾いません」


『……ありしあ』


「はい」


『……おはよう』


「おはようございます」


『……ひかり、みる?』


「はい」


「今日も、壁に映る光を少しだけ」


『……あかいめ、ひかり、みえる』


 アリシアは、静かに頷いた。


「はい」


「見えます」


『……よかった』


 アリシアの目元が柔らかくなる。


「はい」


「よかったです」


 小さな朝のやり取り。


 それだけで、保護陣の空気が少し温かくなる。


 派手な進展ではない。


 だが、中心が一人ひとりを確認する時間は、確かに日常になり始めていた。


 ◇


 光の時間の準備が始まった。


 今日は、昨日とは少し違う。


 床に直接光を落とすのではなく、リリアーナが持つ白い布へ光を受ける。


 リリアーナは、布を両手で広げた。


 何でもない布だ。


 けれど、今の中心にとっては、外の光を受け止める最初の白だった。


 エリシアが術式盤を調整する。


「照射角度、昨日より浅く」


「光量は同程度」


「反射面を通して中心へ伝達」


「外部情報遮断、維持」


 セラフィアが祈りを重ねる。


「強い光にならないように」


「色が濁らないように」


 中心が反応する。


『……いろ』


 リリアーナが微笑む。


「色、気になりますか?」


『……いろ、なに?』


 そうだった。


 中心は、色を知らない。


 光を見た。


 白を聞いた。


 リリアーナの髪を白い花のようだと言った。


 だが、本当の意味で色を経験したわけではない。


 リリアーナは、少しだけ言葉を探した。


「色は……」


 一拍。


「ものの見え方の違いです」


『……みえかた』


「はい」


「白」


「黒」


「赤」


「青」


「黄色」


「いろいろあります」


『……たくさん』


「はい」


 中心が少し不安そうに揺れる。


『……たくさん、こわい』


「今日は、一つでいいです」


 レオンが即座に言った。


 中心がレオンへ反応を向ける。


『……ひとつ』


「ああ」


「色も、一つでいい」


『……きょう、いろ、ひとつ?』


 リリアーナは、ゆっくり頷いた。


「見るなら、一つだけ」


『……なに?』


 その問いに、少しだけ場が静まる。


 色を一つだけ。


 何を最初に渡すか。


 赤は、アリシアの眼を連想させるかもしれない。


 黒は、深部と結びつくかもしれない。


 白は、すでに布や光に近い。


 黄色は花の話がある。


 青は――。


 セラフィアが静かに言った。


「空の色は、青と呼ばれることが多いわ」


 中心が揺れる。


『……そら』


 リリアーナが説明する。


「外の高いところに広がっているものです」


『……たかい』


「はい」


『……そら、あお』


「晴れた日は、青く見えます」


『……あお』


 中心は、その音を繰り返す。


『……あお』


 余白核の光が、小さく揺れた。


『……こわい?』


 アリシアが、静かに答えた。


「私は、青い空を見ると……少し遠く感じます」


 中心がアリシアへ向く。


『……とおい』


「はい」


「手が届かないくらい遠い」


「でも、見上げると、少し呼吸がしやすくなる時があります」


『……いき』


「はい」


『……あお、いき?』


 アリシアは少し笑った。


「そうかもしれません」


 レオンが短く言う。


「青でいい」


 リリアーナが頷く。


「はい」


「今日は、青を一つだけ知りましょう」


『……あお、ひとつ』


「はい」


 エリシアが術式を調整する。


「採光に青色濾過を重ねます」


「実際の空ではありませんが、青の感覚を弱く提示できます」


 中心が少し不安そうに揺れる。


『……そら、ほんもの、じゃない』


 リリアーナが優しく答える。


「まだ本物ではありません」


『……でも、あお』


「はい」


「青を少しだけ」


 中心は、長く沈黙した。


『……あお、みたい』


「はい」


 ◇


 ラウルが石蓋へ手をかける。


 クラウスが横で支える。


 昨日と同じように、ゆっくり開ける。


 石が擦れる音。


 中心が少し震える。


『……おと』


 レオンが言う。


「石の音だ」


『……まだ、だいじょうぶ』


「分かった」


 石蓋が開く。


 朝の光が落ちる。


 昨日と同じ細い光。


 だが今日は、セラフィアの祈りとエリシアの術式を通り、さらに柔らかく変えられていた。


 リリアーナが白い布を広げる。


 光が布へ落ちる。


 白い布の上に、淡い青が滲んだ。


 強い青ではない。


 空そのものの青でもない。


 ただ、白い布へ薄く溶けた、優しい青。


 水よりも軽く。


 影よりも明るく。


 黒でも白でもないもの。


 余白核が、大きく震えた。


『……これ』


 リリアーナが息を整えて答える。


「青です」


『……あお』


「はい」


『……そら?』


「空の色に近い青です」


『……ほんもの、じゃない』


「はい」


『……でも、あお』


「そうです」


 中心は、長く沈黙した。


 青を見ている。


 外の色を一つだけ、見ている。


『……あお』


 一拍。


『……しずか』


 セラフィアが微笑む。


「静かに見えますか」


『……うん』


『……ひかりより、すこし、とおい』


 アリシアが目を見開いた。


「……遠い」


『……でも、こわくない、すこし』


 リリアーナの目に涙が浮かぶ。


「はい」


『……あお、いき?』


 アリシアが小さく頷く。


「呼吸しやすい色かもしれません」


『……いき、できる、いろ』


 中心が、その言葉を気に入ったように揺れる。


『……あお』


『……いき、できる、いろ』


 エリシアが術式盤を確認する。


「余白核、安定」


「青への恐怖反応は低いです」


「むしろ、安定方向」


 アルベルトが小さく呟く。


「よかったな」


 中心が反応する。


『……あるべると』


「おう」


『……あお、にく?』


 神殿の空気が一瞬止まった。


 アルベルトが目を瞬かせる。


「青い肉は……あんまり食いたくねぇな」


 エリシアが吹き出しそうになり、咳払いする。


 リリアーナは思わず笑ってしまった。


 中心が驚いたように揺れる。


『……わらう』


 リリアーナが涙目で笑う。


「すみません」


「怖くない笑いです」


『……こわくない』


 アルベルトが肩をすくめる。


「肉は焼けた色がいい」


『……にく、あお、だめ』


「だめだな」


『……あお、にくじゃない』


「そうだ」


 中心が、少し楽しそうに揺れた。


 青を見ながら、怖くない笑いが起きた。


 それもまた、中心にとって大切な記録だった。


 ◇


 青を見る時間は、短かった。


 光の時間と同じく、長くはしない。


 中心は、まだ見ていたそうだった。


 だが、自分で言った。


『……つかれた』


 その一言で、皆が動いた。


 リリアーナが布を下ろし、エリシアが術式を閉じ、セラフィアが祈りをゆっくり戻す。


 ラウルとクラウスが石蓋を閉める。


 青は、白い布から消えた。


 神殿の奥は、また薄暗くなる。


 中心が、小さく揺れる。


『……あお、きえた?』


 リリアーナは答える。


「今は見えなくなりました」


『……そとに、ある?』


「はい」


「空にあります」


『……そら、あお』


「晴れた日は」


『……また、いつか』


「はい」


「また、いつか」


 中心は、穏やかに光った。


『……あお、すきかも』


 リリアーナの胸が温かくなる。


「好きかも、ですね」


『……ひかり、すきかも』


「はい」


『……あお、すきかも』


「はい」


『……ふたつ』


「二つになりましたね」


 中心は、少し不安そうに揺れる。


『……ふえて、いい?』


 レオンが答える。


「自分で選んだならな」


『……じぶんで』


「ああ」


「押しつけられた呼び方じゃない」


「見て、感じて、お前が“好きかも”と思ったものだ」


『……わたしの、すきかも』


「そうだ」


 中心は、深く安心したように光った。


『……わたしの、すきかも』


 ◇


 午後。


 子供たちには、中心が今日は“青”を一つだけ知ったことが伝えられた。


 声の接続はしない。


 紙も読まない。


 ただ、報告だけ。


 それも救護役を通じて、負担にならないように。


 子供たちは、少しざわめいたらしい。


 “青、見たの?”


 “空の色?”


 “おはようの人、空知らなかったの?”


 “じゃあ、青は呼吸の色?”


 “青い肉はだめって本当?”


 最後の報告をミリオが少し笑いながら伝えると、アルベルトが頭を抱えた。


「そこ広がるのかよ」


 エリシアが肩を震わせている。


「良かったですね。あなたの発言が子供たちに残りましたよ」


「やめろ」


 中心は少し楽しそうに揺れた。


『……あおいにく、だめ』


 アルベルトは観念したように頷く。


「だめだ」


『……こども、わらう?』


 ミリオが頷く。


「笑ってます」


『……こわくない?』


「怖くないです」


『……よかった』


 リリアーナが微笑む。


「青の記録に、怖くない笑いも入りましたね」


『……あお、わらう』


 中心が大切そうに繰り返す。


『……あお、いき』


『……あお、わらう』


 ◇


 夕方。


 保留箱には、大人たちからの紙がまた数通入った。


 今日はその中に、“青い空を見せたい”という札があった。


 グレイヴが、それだけを報告する。


 中心が少し揺れる。


『……あおいそら、みせたい』


 リリアーナが慎重に言う。


「大人たちも、あなたが青を知ったことを聞いたのかもしれません」


『……みせたい、きもち』


「はい」


『……でも、いま、みない』


「はい」


 レオンが言う。


「本物の空は、まだ早い」


『……うん』


『……でも、けさない』


「保留箱に置く」


『……まだよまないはこ』


「そうだ」


 中心は落ち着いた。


『……あおいそら、いつか』


「はい」


「いつか、です」


 アリシアが、静かに言った。


「私も……本物の空を、いつか一緒に見たいです」


 中心がアリシアへ向く。


『……ありしあも』


「はい」


『……あかいめで?』


 アリシアは、少しだけ笑った。


「はい」


「赤い眼で」


『……あお、みえる』


「見えます」


『……よかった』


「はい」


「本当に」


 レオンは、二人のやり取りを見ていた。


 赤と青。


 怖さと呼吸。


 まだ交わらないが、同じ場所に置けるようになってきた。


 それもまた、外へ近づくための準備だった。


 ◇


 夜。


 神殿の奥は、静かな疲れに包まれていた。


 今日は、光の時間で青を知った。


 外の景色は見ていない。


 空そのものも見ていない。


 ただ、白い布に落ちた淡い青。


 それだけ。


 でも、中心には十分だった。


 青は静か。


 少し遠い。


 でも、怖くない。


 呼吸できる色。


 青い肉はだめ。


 怖くない笑い。


 それらが、今日の記録になった。


 リリアーナは、余白核のそばで静かに問いかける。


「今日は、どんな日でしたか?」


 中心は、長く考える。


『……あお、ひとつ、しった日』


「はい」


『……そら、まだ、みない日』


「はい」


『……あお、いきできる、いろ、の日』


「はい」


『……あおいにく、だめ、の日』


 アルベルトが顔を覆う。


 エリシアが笑いを堪える。


 リリアーナも少し笑ってしまった。


「はい」


「それも今日の日ですね」


『……こわくない、わらう日』


「はい」


『……あお、すきかも、の日』


「はい」


 リーネの光が、名簿束のそばで揺れる。


『余白記録へ残します』


『青を一つ知った日』


『青は息ができる色の日』


『青い肉はだめの日』


『青、好きかも、の日』


 中心が、嬉しそうに光った。


『……のこった』


「残りました」


 レオンが静かに言う。


「色も一つずつだ」


『……うん』


『……いろ、たくさん、こわい』


「そうだな」


『……でも、あお、ひとつ』


「今日の一つだ」


『……ひとつで、いい』


「それでいい」


 中心は、穏やかに眠りへ向かう。


『……りり、おやすみ』


「おやすみなさい」


『……れおん、おやすみ』


「おやすみ」


『……みんな、おやすみ』


 皆が返す。


「おやすみ」


「また明日」


 アリシアも、小さく言った。


「いつか、本物の青を」


 中心が柔らかく揺れる。


『……また、あした』


『……あしたのわたしに、きく』


『……あお、すきかも』


 余白核は、静かに眠りへ入っていった。


 神殿の奥に、夜が降りる。


 今日、中心は外へ出なかった。


 空を見たわけでもない。


 ただ、青という色を一つだけ知った。


 外の世界は、まだ遠い。


 けれど、遠いものにも色がある。


 怖くない色がある。


 呼吸しやすい色がある。


 名もない“わたし”は、今日。


 外の世界の一部を、ほんの少しだけ自分の“好きかも”へ入れた。

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