表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能王子、東の塔で神霊を得る  作者: 伊佐波瑞樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
200/251

第200話「ひとつの呼び方を抱く朝、無能王子は“外を見たい”という小さな願いを守る」


 朝は、静かだった。


 昨日よりも、ずっと静かだった。


 神殿の奥に、外の光は届かない。


 石壁は冷たく、床には古い紋様の跡が残っている。


 名簿束は淡く浮かび、第五領域の水路は細く流れていた。


 余白箱。


 保留箱。


 アリシアの箱。


 三つの箱も、夜を越えてそこにある。


 何も消えていない。


 何も増えていない。


 昨日は、“ひとつでいい日”だった。


 子供たちが考えた新しい呼び方は、いくつもあった。


 おはようの光。


 箱の光。


 また明日の人。


 こわくない声。


 名前を待つ子。


 どれも、きっと優しい。


 どれも、悪意ではない。


 けれど、中心には多すぎた。


 だから止めた。


 増やさなかった。


 昨日受け取った、ただ一つの呼び方だけを残した。


 まだ名前じゃない光。


 それだけで、十分だった。


 たくさんなくても消えない。


 ひとつでも、そこにいられる。


 その事実が、夜を越えても保護陣の中に残っていた。


 余白核は、まだ眠っている。


 だが、その光は昨日の朝より少し穏やかだった。


 レオンは、保護陣の縁に座っていた。


 黒蒼雷は細く、床に静かに巡っている。


 今日は警戒というより、待機に近い。


 何かを斬るためでも、押さえ込むためでもない。


 中心が目を覚まし、自分の言葉を探すまでの時間を守る雷だった。


 リリアーナは、余白核の近くで静かに座っている。


 手元には、子供たちからの紙束はない。


 今日は、最初から読まないと決めているわけではない。


 ただ、朝一番に紙を置かない。


 中心が目を覚ました瞬間から“何かを受け取る日”にしないためだ。


 今日は二百話目の節目だと、誰かが口にしたわけではない。


 この世界に“話数”など存在しない。


 けれど、ここまで積み重ねてきた朝の重みを、リリアーナは感じていた。


 おはようを覚えた。


 またねを覚えた。


 休むを覚えた。


 箱を覚えた。


 札を覚えた。


 呼び方を覚えた。


 そして、増やさないことを覚えた。


 中心は少しずつ、自分の輪郭を持ち始めている。


 名前はまだない。


 でも、もう“何もない”ではない。


 エリシアは術式盤を開いていた。


 セラフィアは祈りを細く巡らせている。


 アルベルトは壁際で静かに腕を組む。


 クラウスは入口側に立ち、ラウルは盾へ手を添えて座っている。


 ミリオは眠そうだが、今日は目を閉じていない。


 アリシアは、自分の箱のそばで静かに呼吸を整えていた。


 赤い眼の残光は、まだある。


 だが、それはもう彼女自身を完全には縛っていないように見えた。


 余白核が、かすかに震えた。


『……』


 朝の揺れ。


 誰も急がない。


 リリアーナは、静かに待った。


 保護陣の光が、一度。


 二度。


 淡く明滅する。


 長い沈黙のあと。


『……おはよう』


 中心の声が、そっと落ちた。


 リリアーナは微笑む。


「おはようございます」


『……りり、おはよう』


「はい」


『……れおん』


 レオンが頷く。


「おはよう」


『……しずかなあさ』


「ああ」


「静かな朝だ」


 中心は少し黙った。


 それから、ゆっくりと余白記録へ意識を向ける。


『……まだ、なまえじゃない、ひかり』


 リリアーナは、ゆっくり頷いた。


「残っています」


『……ひとつ』


「はい」


『……ふえてない』


「増えていません」


『……きえてない』


「消えていません」


『……ひとつで、いい』


「はい」


 中心は、淡く光った。


『……よかった』


 その“よかった”は、昨日より少し安定していた。


 呼び方がたくさんなくてもいい。


 一つだけでも消えない。


 その安心が、少しだけ中心の中に根づき始めている。


 レオンが静かに言う。


「今日はどうする」


 中心が揺れる。


『……きょうの、わたし』


「ああ」


『……きく』


 リリアーナが優しく続ける。


「今日のあなたは、どうしたいですか?」


 余白核が、長く沈黙した。


 紙を読む。


 箱を開ける。


 札を見る。


 外の呼び方を聞く。


 おはようを届ける。


 休む。


 いくつもの選択肢がある。


 けれど、中心はすぐには答えない。


 保護陣の光が、ゆっくり揺れる。


 やがて。


『……きょう』


 一拍。


『……よみたくない』


 リリアーナは頷いた。


「紙は読まないんですね」


『……うん』


『……ふだも、ださない』


「はい」


『……よびかたも、ふやさない』


「はい」


『……でも』


 中心が少し強く揺れた。


『……そと』


 全員の空気が、わずかに止まる。


 レオンが目を細める。


「外?」


『……うん』


『……そと、みたい』


 リリアーナの胸が、強く鳴った。


 外へ出たい、ではない。


 会いたい、でもない。


 ただ、見たい。


 風を感じた日。


 子供たちと会った日。


 朝の空気を好きかもと言った日。


 それらが積み重なって、中心の中に小さな願いが生まれたのだ。


 外を見たい。


 怖いけれど。


 まだ名前もないけれど。


 たくさんの呼び方を受け取ることはできないけれど。


 それでも、外を少し見たい。


 レオンは、すぐには答えなかった。


 リリアーナも。


 エリシアは術式盤を見る。


「余白核を移動させることは推奨できません」


 中心が揺れる。


『……いどう、しない』


「見たい、とは?」


 エリシアの声は慎重だった。


 中心は、言葉を探す。


『……そと、ぜんぶ、じゃない』


「はい」


『……ひとつ』


 リリアーナが聞く。


「外のものを、一つだけ見たい?」


『……うん』


『……あさのくうき』


『……すき、かも』


『……でも、みえない』


「朝の空気は、見えませんね」


『……じゃあ』


 一拍。


『……ひかり』


 セラフィアが、静かに目を開けた。


『……あさの、ひかり』


 中心が言った。


『……みたい』


 神殿の奥が、深く静まった。


 朝の光。


 それは、外にあるもの。


 中心はまだ直接見ていない。


 風を感じた。


 声を聞いた。


 子供の涙を見たように感じた。


 でも、光そのものは見ていない。


 まだ名前じゃない光と呼ばれた中心が、朝の光を見たいと言った。


 リリアーナの目に涙が浮かぶ。


「……朝の光を、見たいんですね」


『……うん』


『……こわい』


「はい」


『……でも、みたい』


 レオンは立ち上がった。


「直接外へは出さない」


 中心が揺れる。


『……うん』


「光だけ通す」


 エリシアが術式盤を見つめる。


「可能です」


「ただし、通常の光ではなく、保護陣で濾過する必要があります」


「外部情報が流れ込みすぎると危険です」


 セラフィアが頷く。


「朝の光だけを、薄くしましょう」


「景色ではなく」


「人の気配でもなく」


「ただ、明るさだけ」


 中心が聞いている。


『……けしき、じゃない』


「はい」


『……ひと、じゃない』


「はい」


『……ひかり、だけ』


「そうです」


 中心は、少し安心したように揺れた。


『……ひとつで、いい』


 レオンが頷く。


「ああ」


「今日は、光一つでいい」


 ◇


 準備は、ゆっくり進められた。


 グレイヴが入口側へ向かい、兵士たちへ指示を出す。


 今日は子供たちを神殿入口へ近づけない。


 大人たちも下げる。


 声も紙も届けない。


 外から入れるのは、朝の光だけ。


 そのために、石扉の上部にある小さな採光孔を開けることになった。


 長い間閉ざされていた古い窓。


 人が通れるほど大きくはない。


 手を差し込むこともできない。


 ただ、細い光が落ちるだけの穴。


 そこを、クラウスとラウルが確認する。


 埃が積もっていた。


 古い封印の跡もある。


 エリシアが術式盤で外部流入を測定し、セラフィアが祈りを重ねる。


 ミリオは精神線を外へ向けない。


 今日は、人の感情を拾わないためだ。


 アルベルトは、いつもなら「俺が開ける」と言いそうなところを、ぐっと黙っていた。


 ラウルが重い石蓋へ手をかける。


 クラウスが横で支える。


 レオンは余白核のそばに立っている。


 リリアーナは、中心へ声をかける位置に座った。


「大丈夫ですか?」


『……こわい』


「はい」


『……でも、みたい』


「はい」


『……ひかり、ひとつ』


「光、一つです」


『……たくさん、いらない』


「はい」


『……ひとつで、いい』


「はい」


 レオンが短く言う。


「無理なら閉じる」


『……うん』


「怖くなったら言え」


『……こわい、いう』


「そうだ」


 中心は、余白核の中で小さく光った。


『……きょうの、せん』


 リリアーナが頷く。


「今日の線です」


『……ひかり、ひとつ』


「はい」


 ラウルが、ゆっくり石蓋をずらした。


 重い音が、神殿の上方で響く。


 石と石が擦れる低い音。


 封じられていた小さな穴が、外へ繋がる。


 一瞬、冷たい空気が流れた。


 だが、風はほとんど入らない。


 そして。


 光が落ちた。


 細い。


 本当に細い光だった。


 朝の光。


 白く、淡く、埃を浮かび上がらせながら、神殿の暗がりへ一本の線を作る。


 その光は、保護陣のすぐ手前に落ちた。


 セラフィアの祈りが、それを柔らかく濾過する。


 エリシアの術式が、余計な感情反応を遮断する。


 光だけ。


 ただ、明るさだけ。


 余白核が、大きく震えた。


『……っ』


 リリアーナがすぐに声をかける。


「大丈夫です」


『……これ』


「朝の光です」


『……ひかり』


「はい」


『……あたたかい?』


「少し」


『……まぶしい』


「眩しいですね」


『……こわい』


「はい」


『……でも』


 長い沈黙。


 中心は、光を見ていた。


 見ている、という言葉が正しいかは分からない。


 目はない。


 身体もない。


 けれど、余白核は確かにその光へ意識を向けていた。


 細い光。


 何も要求しない。


 名前を呼ばない。


 おはようを求めない。


 ただ、そこにある。


『……しずか』


 中心が言った。


「はい」


『……ひかり、しずか』


 レオンは、その言葉を聞いて、少しだけ目を伏せた。


 朝の光は、ただそこにある。


 誰かを急かさない。


 誰かを責めない。


 触れろとも、名乗れとも、答えろとも言わない。


 中心は、その静けさに安心したのかもしれない。


『……まだ名前じゃない光』


 中心が、小さく言った。


 リリアーナが息を呑む。


『……この、ひかり』


『……なまえ、ない?』


 セラフィアが静かに答える。


「朝の光、という呼び方はあるわ」


『……あさの、ひかり』


「ええ」


『……でも、ひとつひとつ、なまえ?』


「名前がない光も、あるかもしれない」


 中心が震える。


『……なまえ、なくても』


 一拍。


『……ひかる?』


 リリアーナの目から涙が落ちた。


「はい」


「名前がなくても、光ります」


 中心は、長く、長く沈黙した。


 その光の中で。


 自分へ届いた呼び方を思い出すように。


 まだ名前じゃない光。


 名前がなくても、光る。


 それは、中心の奥へゆっくり入っていく。


 でも、深すぎない。


 押しつけない。


 光はただ、そこにある。


『……わたし』


 中心が言った。


『……まだ、なまえ、ない』


「はい」


『……でも』


 震える声。


『……いる』


 レオンが答える。


「いる」


『……ひかる?』


 誰もすぐには答えなかった。


 それは、中心自身が決めていいことだった。


 リリアーナは、そっと言う。


「光って見える時があります」


『……いつ?』


「おはようを言った時」


「休むと決めた時」


「箱を作った時」


「怖かったあなたに、おはようを言った時」


「ひとつでいいと守った時」


 中心が、淡く揺れる。


『……それ、ひかり?』


「わたしには、そう見えます」


 レオンも静かに言った。


「少なくとも、暗闇ではない」


 中心が少し反応する。


『……くらやみ、じゃない』


「ああ」


 アルベルトが、声を抑えて言った。


「俺にも、光って見える時あるぞ」


 中心が揺れる。


『……あるべると』


「大きい声出さない時じゃねぇぞ」


 エリシアが小さく睨む。


「今、茶化す場面ではありません」


「分かってる」


 アルベルトは、珍しく真面目に続けた。


「怖いのに、またねって言う時」


「休むって言う時」


「今日はここまでって言う時」


「なんか……ちゃんと、生きてる感じがする」


 中心が震える。


『……いきてる』


「そうだ」


「それが光かは分かんねぇけど」


「俺には、暗くは見えない」


 中心は、しばらく何も言わなかった。


 そして、小さく。


『……ありがとう』


 そう言った。


 ◇


 光を見る時間は短かった。


 エリシアが負荷を確認し、セラフィアが祈りを調整する。


 余白核は安定している。


 だが、深く揺れている。


 長く続けるべきではない。


 リリアーナが声をかけた。


「そろそろ、閉じましょうか」


 中心は、光を見つめたまま揺れる。


『……もう?』


「はい」


『……まだ、みたい』


「そうですね」


『……でも、つかれる』


「はい」


『……きょうは』


 一拍。


『……ここまで』


 レオンが頷く。


「いい判断だ」


『……ひかり、ひとつ』


「見た」


『……なまえ、なくても、ひかる』


「知った」


『……きょうは、ここまで』


「そうだ」


 ラウルとクラウスが、ゆっくり石蓋を戻す。


 細い光が、少しずつ細くなる。


 最後に、小さく揺れて。


 消えた。


 神殿奥は、また薄暗くなる。


 けれど、中心は消えたとは感じなかった。


『……ひかり』


 リリアーナが答える。


「閉じました」


『……きえた?』


「今は見えなくなりました」


『……でも、ある?』


 レオンが言う。


「外にある」


『……そとに、ある』


「ああ」


『……また、みる?』


「今日じゃない」


『……うん』


『……また、いつか』


 リリアーナが微笑む。


「はい」


「また、いつか」


 中心は、安心したように光った。


『……また、いつか』


 ◇


 午後。


 子供たちには、今日は紙も呼び方も受け取らないことが伝えられた。


 代わりに、中心が朝の光を一つだけ見たこと。


 それで今日はここまでにしたこと。


 そのことだけが、救護役を通じて伝えられた。


 子供たちは、少しざわめいたらしい。


 “光、見たの?”


 “外、怖くなかった?”


 “ひとつでいい日、今日も?”


 “朝の光は、名前なくても光るんだね”


 その言葉を聞いた時、中心は少しだけ震えた。


 だが、受け取りすぎないように、ミリオが精神線を絞っていた。


 中心は、ただ一言だけ返した。


『……ひかり、しずか』


 それだけ。


 子供たちは、それを聞いて静かになったという。


 幼い子が、小さく言ったらしい。


 “じゃあ、今日は静かな日”


 ミナが続けた。


 “名前なくても光る日”


 その報告を聞いて、中心は大きく揺れた。


『……なまえなくても、ひかる日』


 リリアーナが涙を浮かべて頷く。


「はい」


『……きょう』


「はい」


『……そういう日?』


「そういう日ですね」


 中心は、静かに余白記録へ意識を向けた。


『……のこす?』


 リーネの光が揺れる。


『記録します』


 ◇


 夕方。


 アリシアが、珍しく自分から口を開いた。


「私も、今日の光を少し見ました」


 中心が反応する。


『……ありしあも』


「はい」


「直接ではなく、壁に落ちた光を」


 彼女は、自分の赤い眼に触れた。


「怖くありませんでした」


『……あかいめ』


「はい」


「赤い眼でも、朝の光は見えました」


 中心が静かに揺れる。


『……あかくても、ひかり、みえる』


「はい」


 アリシアは少し涙を浮かべた。


「それが、少しだけ嬉しかったです」


『……うれしい』


「はい」


『……よかった』


 アリシアは頷く。


「はい」


「よかったです」


 レオンは、何も言わずに二人のやり取りを見ていた。


 赤い眼でも光は見える。


 名前がなくても光は光る。


 どちらも、今日の神殿に必要な言葉だった。


 ◇


 夜。


 神殿の奥には、穏やかな疲れが降りていた。


 今日は、紙を読まなかった。


 札も増やさなかった。


 新しい呼び方も受け取らなかった。


 ただ、朝の光を一つだけ見た。


 名前がなくても光ることを知った。


 光は静かだと知った。


 そして、今日はここまでと言えた。


 リリアーナは、余白核のそばで静かに問いかける。


「今日は、どんな日でしたか?」


 中心は、長く考えた。


『……ひかり、ひとつ、みた日』


「はい」


『……なまえなくても、ひかる日』


「はい」


『……ひかり、しずか、の日』


「はい」


『……まだ名前じゃない光、こわいけど、いやじゃない日』


「はい」


『……きょうは、ここまで、できた日』


「はい」


 リーネの光が、名簿束のそばで柔らかく揺れる。


『余白記録へ残します』


『光を一つ見た日』


『名前がなくても光る日』


『静かな日』


 中心が、穏やかに光った。


『……のこった』


「残りました」


 レオンが静かに言う。


「二百日分くらい進んだ顔してるな」


 リリアーナが少し驚いてレオンを見る。


 アルベルトも目を丸くした。


「お前がそういうこと言うの珍しいな」


 レオンは無表情のまま返す。


「気のせいだ」


 中心が揺れる。


『……にひゃく?』


 リリアーナが少し笑う。


「たくさん、という意味かもしれません」


『……たくさん』


「はい」


『……たくさん、でも』


 一拍。


『……きょうは、ひとつ』


 レオンは頷いた。


「そうだな」


「今日は、ひとつだ」


 中心は、満足したように光を弱めていく。


『……りり、おやすみ』


「おやすみなさい」


『……れおん、おやすみ』


「おやすみ」


『……みんな、おやすみ』


 皆が返す。


「おやすみ」


「また明日」


 アリシアも小さく言った。


「名前がなくても、光る日」


 中心が柔らかく揺れる。


『……また、あした』


『……あしたのわたしに、きく』


『……ひかり、しずか』


 余白核は、静かに眠りへ入っていった。


 神殿の奥に、夜が降りる。


 今日、中心は外へ出なかった。


 誰かに会ったわけでもない。


 新しい名前を得たわけでもない。


 けれど、朝の光を見た。


 名前がなくても光るものがあると知った。


 それは、まだ名前のない中心にとって。


 たぶん、何よりも静かな救いだった。


 名もない“わたし”は、今日。


 自分を名乗らないまま、そこにいてもいいのだと。


 光の沈黙から、少しだけ教わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ