第180話「名前を探したい朝、無能王子は“最初の候補”を急がず受け止める」
神殿の奥に、三度目の朝が来た。
窓はない。
太陽も見えない。
外の鳥の声も届かない。
けれど、ここにいる者たちは、もうそれを朝と呼べるようになっていた。
おやすみ。
また。
おはよう。
たったそれだけの言葉が、閉ざされた石の奥に時間を作った。
深部の夜とは違う。
終わりのない暗闇ではない。
休んで、また目を覚ます。
消えるのではなく、戻ってくる。
その繰り返しが、余白核の中に少しずつ染み込んでいた。
保護陣の中央で、淡い光の繭が小さく震える。
『……おはよう』
昨日より、ほんの少しだけ早い反応だった。
リリアーナが、すぐに顔を上げる。
喉はまだ完全ではない。
けれど、最初の日よりは声が戻っていた。
無理に叫ばなければ、短い言葉なら出せる。
「おはようございます」
『……りり、おはよう』
「はい」
「リリです」
『……れおん、おはよう』
レオンは、余白核のそばに座ったまま頷いた。
「おはよう」
『……ぴりぴり、おはよう』
「レオンだ」
『……れおん、ぴりぴり』
リリアーナが小さく笑う。
その笑いを、余白核はすぐに拾った。
『……りり、わらう』
「はい」
「笑っています」
『……こわくない』
「怖くない笑うです」
中心は、安心したように淡く光る。
それから、少し離れた場所へ反応を向けた。
『……せら、おはよう』
セラフィアが金色の祈りを細く保ちながら微笑んだ。
「おはよう」
『……きらきら、おはよう』
「ふふ。ええ」
「きらきらも、おはよう」
アルベルトが壁際で肩を震わせる。
昨日よりは少し回復しているが、まだ顔には疲労が濃い。
『……あるべると、おおきい、おはよう』
「おう。おはよう」
『……きょう、すこし、ちいさい?』
アルベルトが固まった。
「俺の声?」
『……うん』
エリシアが、術式盤を見たまま静かに言う。
「少しは気を遣うことを覚えたようです」
「いや、俺も成長してるんだよ」
「そうですね」
「なんだその言い方」
『……えりしあ、しっかり、おはよう』
エリシアは、余白核へ丁寧に頭を下げた。
「おはようございます」
『……しっかり、でも、つかれた』
「……よく見ていますね」
リリアーナが柔らかく笑う。
「本当に」
中心は、周囲の“揺れ”を拾うのが上手くなっていた。
ただ名前を覚えているのではない。
相手の印象を、自分なりの言葉でつかんでいる。
レオンは、余白核を見つめながら思った。
怖いだけだった中心が、他者を見ている。
リリアーナは怖くない。
レオンは怖いけれど守る。
セラフィアはきらきら。
アルベルトは大きいけれど温かい。
エリシアはしっかりしているけれど疲れている。
クラウスは静かで鋭い。
グレイヴは気をつけて戻る人。
ラウルは盾でありがとうの人。
ミリオは眠いけれど繋ぐ人。
そうやって




