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無能王子、東の塔で神霊を得る  作者: 伊佐波瑞樹


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180/251

第180話「名前を探したい朝、無能王子は“最初の候補”を急がず受け止める」


 神殿の奥に、三度目の朝が来た。


 窓はない。


 太陽も見えない。


 外の鳥の声も届かない。


 けれど、ここにいる者たちは、もうそれを朝と呼べるようになっていた。


 おやすみ。


 また。


 おはよう。


 たったそれだけの言葉が、閉ざされた石の奥に時間を作った。


 深部の夜とは違う。


 終わりのない暗闇ではない。


 休んで、また目を覚ます。


 消えるのではなく、戻ってくる。


 その繰り返しが、余白核の中に少しずつ染み込んでいた。


 保護陣の中央で、淡い光の繭が小さく震える。


『……おはよう』


 昨日より、ほんの少しだけ早い反応だった。


 リリアーナが、すぐに顔を上げる。


 喉はまだ完全ではない。


 けれど、最初の日よりは声が戻っていた。


 無理に叫ばなければ、短い言葉なら出せる。


「おはようございます」


『……りり、おはよう』


「はい」


「リリです」


『……れおん、おはよう』


 レオンは、余白核のそばに座ったまま頷いた。


「おはよう」


『……ぴりぴり、おはよう』


「レオンだ」


『……れおん、ぴりぴり』


 リリアーナが小さく笑う。


 その笑いを、余白核はすぐに拾った。


『……りり、わらう』


「はい」


「笑っています」


『……こわくない』


「怖くない笑うです」


 中心は、安心したように淡く光る。


 それから、少し離れた場所へ反応を向けた。


『……せら、おはよう』


 セラフィアが金色の祈りを細く保ちながら微笑んだ。


「おはよう」


『……きらきら、おはよう』


「ふふ。ええ」


「きらきらも、おはよう」


 アルベルトが壁際で肩を震わせる。


 昨日よりは少し回復しているが、まだ顔には疲労が濃い。


『……あるべると、おおきい、おはよう』


「おう。おはよう」


『……きょう、すこし、ちいさい?』


 アルベルトが固まった。


「俺の声?」


『……うん』


 エリシアが、術式盤を見たまま静かに言う。


「少しは気を遣うことを覚えたようです」


「いや、俺も成長してるんだよ」


「そうですね」


「なんだその言い方」


『……えりしあ、しっかり、おはよう』


 エリシアは、余白核へ丁寧に頭を下げた。


「おはようございます」


『……しっかり、でも、つかれた』


「……よく見ていますね」


 リリアーナが柔らかく笑う。


「本当に」


 中心は、周囲の“揺れ”を拾うのが上手くなっていた。


 ただ名前を覚えているのではない。


 相手の印象を、自分なりの言葉でつかんでいる。


 レオンは、余白核を見つめながら思った。


 怖いだけだった中心が、他者を見ている。


 リリアーナは怖くない。


 レオンは怖いけれど守る。


 セラフィアはきらきら。


 アルベルトは大きいけれど温かい。


 エリシアはしっかりしているけれど疲れている。


 クラウスは静かで鋭い。


 グレイヴは気をつけて戻る人。


 ラウルは盾でありがとうの人。


 ミリオは眠いけれど繋ぐ人。


 そうやって

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