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名無しの悪魔ちゃん  作者: こめっこ
第1章 街を目指して
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救助隊

 どう切り出すか、最初の一言目が大事だ。

 彼女に敵ではないと分かってもらう必要がある。

 まずは警戒を解いてもらうためにローランドは平静を装い語りかける。


「よう、嬢ちゃん。いい天気だな」

「……」


 女性に話しかける時は他愛もない話、例えばその日の天気など些細な事から始めればいいと仲間のクロイツェルが以前語っていた事を思い出した。

 彼はそれを馬鹿正直にそのまま実行したのだが、少女から返事がない事に焦るローランド。

 ナナシとしては朝から盗賊達と押し問答をしていて、今日はまだ外に出ていないので、何とも答えようがなく言い淀んでいた。

 焦ったローランドはさらに言葉を重ねる。


「この辺じゃ見ない顔だが、その……綺麗だな」


 言葉を放った直後に彼は後悔した。

 これでは口説いているだけではないかと気付いたローランドは更に焦る。

 ナナシは未だ自分の顔をはっきり見た事はなく、せいぜい川面に映った姿を見ただけだが、素直に男性から綺麗だと褒められて悪い気はしなかった。


「……ありがとう、ございます」


 まさか返事があるなどと思ってもいなかったローランドは目を見開いた。


「なぁにが綺麗だな、よ! あんたこんな時に何言ってんのよ!」

「いやまさかローランドが急に女性を口説き出すとは思わなかったぜ、はっはっは」

「いや、これは違うんだ! 聞いてくれフィー」

「ローランドよ、おぬしフィーの嬢ちゃんに悪いと思わんのか」

「だから違うっつってんだろうが、元はと言えばクロイツェルのせいだ! ジイさんまで何言ってんだよ!」


 張り詰めていた空気が一気に緩み、警戒していたナナシの雰囲気がこころなしかほぐれた様に見えた。

 もはや先程までの緊張感などどこにもなかった。

 決死の思いで一人覚悟を決めていた自分が馬鹿馬鹿しくなった。

 そんな冷静さを取り戻してくれた仲間達にローランドは心の中で感謝した。


 そこへ白いローブを着た優しそうな妙齢の女性がナナシに歩みより語りかける。


「ご覧の通り私達は冒険者です。盗賊の仲間ではありません」


 先程ナナシに声をかけた大男、ローランドが盗賊の仲間だといわれれば納得するだろうが、目の前にいる綺麗な女性が盗賊の仲間だとは到底思えなかった。


「先程の、彼はローランドというのですが、彼はアベリアの孤児院出身なのです。久しぶりに立ち寄ったところ女の子が街の外から帰ってきていないとお聞きしました。組合(ギルド)の依頼ではありませんが、私達はその女の子の捜索と保護をする為にここへと参りました。その居なくなった女の子はマリーちゃんというのですが、そちらの子がマリーちゃんではありませんか?」

「マリーちゃんの……分かりました」


 なるほどと、冒険者なるものが実在する事に驚いたが、容姿を見てマリーだと断定出来たのは孤児院で話を聞いて特徴を聞いていたから分かった事だろう。

 彼女の話に矛盾点は見つからなかった。

 この事から盗賊の仲間でないと確信を得たナナシは警戒を解いた。

 とはいえ先程のやりとりで既にナナシはすっかり毒気を抜かれていた。


「分かっていただけたようで何よりです。私はレイラと申します。どうぞよろしくお願い致します」

「私は……ナナシといいます。こちらこそよろしく……お願いします」

「彼女を保護していただき感謝を申し上げます」

「えっ!? いえ、そんな……」


 レイラの丁寧な言葉と態度に戸惑いつつも二人が自己紹介をしていると、何やら騒いでいたローランド達も慌てて駆けつけ挨拶を始めた。


「俺はローランドだ、一応このパーティのリーダーをやっている。よろしく頼む。俺は一応その子と同じ孤児院出身でな、その子を保護してもらって感謝する。あと……さっきのは気にしないでくれると助かる」

「何鼻の下のばしちゃってんよの! あたしはフィーよ。よろしくね」

「だから誤解だっつってんだろ、あれは――」


 ローランドの必死の弁明を遮り、短槍をもった派手な金髪を肩ほどまで伸ばした軽そうな男が声をかける。


「俺はこのパーティの頭脳を担当している――」

「アンタのどこが頭脳よ!」

「お前のどこが頭脳だ!」

「ハハハ、まあこんな感じでね、俺はクロイツェルだ。よろしくねナナシちゃん」

「最後はワシじゃな。ワシはドラガン、見ての通りドワーフじゃ。ワシはそうじゃのう、このパーティの相談役といったところかのう。よろしくのう嬢ちゃん」


 ローランドはリーダーを務めている大男で、最初に見た怖そうな印象とは打って変わって根は優しそうな人物だという事が会話の中から伝わってきた。


 フィーは明るいブラウンの髪を頭の後ろで一つ結びにしている気が強い印象の女性だ。

 事あるごとにローランドに突っかかっていて、彼も満更ではなさそうな事からどうやら二人は恋仲だろうという事が伺える。

 二人が並んだ姿はまるで大人と子供くらいの身長差があった。

 フィーはローランドの胸辺り程しかなく、小柄に見えてしまうが、それは比較対象が大き過ぎるだけで、ナナシと比べればフィーの方が頭一つ分は大きいのだ。


 クロイツェルは一見軽そうな見た目の男で、その口調からもそれが伝わってくる。

 パーティの頭脳を自称するやいなや、ローランドとフィーから同時に突っ込まれたが、それも分かっていてやっている節があった。

 それでも平然と笑っている事からそう返しがくると分かっていて言ったのだろう。

 頭の回転が速く、場を和ませ、気遣いが上手い人物であるとナナシは思った。


 そしてドラガンと名乗る筋骨隆々の老人は、身長こそローランドより低いが、それでも十分に大きく、横幅はローランドを上回っている。

 ドワーフといえば小柄でずんぐりむっくりだというナナシの常識を覆した瞬間だった。

 それ以外はまさに絵に書いた様なドワーフの特徴である髭が彼の顔を覆っている。

 さらに伸ばした顎髭を三つ編みにして可愛らしい小さなリボンで留めている。

 見た目に反してお茶目な人物なのかもしれない。


「改めまして、私はナナシと言います。皆さん、よろしくお願いします。マリーちゃん、冒険者? の皆さんがお迎えに来てくれましたよ。ご挨拶できる?」

「うん。……めいわくをかけてごめんなさい。助けにきてくれてありがとうございます」

「ワシらが来たからにはもう大丈夫じゃぞ! と言っても嬢ちゃんが助けた後じゃがのう? ガハハハ」


 マリーは恥ずかしいのか一言挨拶すると、ナナシの後ろに隠れてしまった。

 そんな様子を見たドラガンは目を細め、マリーをあやそうするが、声も大きく、控えめに言っても凶悪な顔のドラガンに驚いたマリーはナナシの脚にぎゅっとしがみ付く。



「それで嬢ちゃん……ナナシ、これは一体どういう状況か説明してもらえると助かるんだが」


 ローランドはナナシが警戒を解いてくれた事にひとまず安心して、この状況について尋ねる。


「ああ……それは、この人達が街へ行く事を拒否したので少し脅していたところです」

「そりゃ街なんか行ったら、奴隷か縛り首だからね」

「……そうですか。でもこの人達をこのままにしておけませんし、私は街までの道も知らないので、道案内も兼ねてと思いまして」

「なるほどな、いや納得いったぜ」


 そう言ってナナシは、はっと気付く。

 盗賊達も話を聞いているのだ、脅しだとバレてしまったと。

 しかし、当の盗賊達からすれば、『あれが脅しだと? 嘘を吐くな! 本当に殺すつもりだっただろう!』と思ったが誰も口には出さない。

 それ程に恐ろしかったのだ。

 結果として彼女の思惑は成功したといえるだろう。


「道案内はあたし達がやるから大丈夫よ。それにしてもコイツ等どうしようか」


 通常の盗賊討伐であれば戦闘の際にほとんどが死亡してしまう。

 生き残っても一人、二人がいいところだ。

 しかし盗賊団十名まるごと生きていて、ご丁寧に縄で縛ってある。

 それを年若い少女が一人で成したのだ、それがどれほど凄い事なのかナナシは気付かない。



「どれ、ワシに任せろ」


 ドラガンが自分の出番だとばかりにそう言って、盗賊達に歩み寄った。


「おぬしら、今死ぬか、それとも少しでも生き残る可能性に賭けるか好きな方を選べ」


 と言いつつ、自身の武器である斧槍の石突きを地に突き立てる。

 暗に死にたい者はすぐに首を落とすと宣言しているのだろう。


 もはや盗賊達に拒否権は無く、従うのみであった。

 そうでなくとも先程の一件で彼等は逆らう気力などとうに失せていた。








現在迷走ちう/(^o^)\


ここまでお読み頂きありがとうございました(๑˃̵ᴗ˂̵)

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