実地訓練
「おはようございます、ナナシさん」
「おはようフランちゃん。ルーク君もおはよう」
「ああ」
きぃいいいー! 素っ気なさ過ぎるよ!
この年頃の男の子は気難しいって言うし……まぁ、こんなものなのかな……。
「よし、時間も勿体ないからとりあえず行こっか」
三人揃ったので受付に伝えて早速出発する事にした。
今日の狩場は私がいつも通っているゴブリンの森周辺の草原だ。
目的地までは三十分程かかるので、それまで話しをしながらのんびりと向かう。
彼等には門を出たらどこで魔物と遭遇してもおかしくないという事もしっかり伝えている。ちなみに今は私がこっそり魔力探知を広げているので何があってもすぐに対応できるようにしているので問題は無い。
「あのぅ、ナナシさんって最近噂になってるあのナナシさんなんですよね?」
「噂? ……あぁ。あのロクでもないあだ名のアレね……」
「何だよ噂って?」
「ルークも聞いた事あるでしょ? 冒険者登録初日にCランクの人を倒したり、こーんな大きいファングボアを毎日一人で担いで持って帰って来る人がいるって」
「あー、猪娘とか怪力女とか言われてる……アレお前の事だったのか!?」
「ダ、ダメよルークそんな事言っちゃ!」
「人を指さしちゃダメでしょルーク君?」
「いてっ!?」
デリカシーのない少年にはデコピンで教育的指導だ。別に不名誉なあだ名を付けられた腹いせなどでは決してない!
「まあ、嬉しくはないけど本当の事だしね……。冒険者歴はあなた達より短いけど、それぐらいの実力はあるからそれだけは安心していいよ」
「良かったねルーク! ナナシさんがいれば絶対大丈夫だよ!」
「……そうだな」
ひとまず安心はしてもらえたかな?
でも、絶対の安全なんてない事だけは覚えておいてもらわないと駄目だね。……私が言えた義理じゃないけど。
ルーク君がなんか機嫌悪くなっちゃったけど大丈夫かな? でも年頃の男の子をあんまり詮索するのも良くないだろうし……難しいな。
改めて二人をみると、ルーク君の武器は少し大きめのナイフを腰に挿しているだけで、少々心許ない気がする。
逆にフランちゃんは短めの槍、いわゆる短槍を持っている。しかも、見た感じ新品のようだ。
気になって話しを聞くと、二人分の武器を買う余裕が無くて、心配性なルーク君が二人で貯めたお金でフランちゃんの武器を優先して買ったらしい。
へぇ、少しだけ見直したぞルーク少年。
なんて話していると目的の草原に到着した。
「捕まえた獲物は君たちの報酬になるんだから、頑張ってねー!」
「はい!」
「わかってるっつーの、いくぞフラン」
私の事は万が一の時の保険だと思って欲しいとは事前に伝えているので、ここからは二人に任せて私は後方から見守る事にする。
ここに来るまでに作戦は立ててある。
簡単な流れを言うと、獲物を見つけたらルーク君がフランちゃんの方へ追い込む、それをリーチのある槍を持ったフランちゃんが突くという単純なものだ。
一般的にホーンラビットは臆病な性格で自分から人前に姿を表す事は滅多にない。
初めての狩りに推奨されるだけあって人への攻撃性は薄く、基本的には逃げていくけど、それでも時々頭部に生えている角で攻撃をしてくる。これで駆け出しの冒険者が年間に数件ではあるけど、足に大怪我をして帰ってくる者もいるらしいので油断は出来ない。
「フラン! そっち行ったぞ!」
「う、うん!」
狩りを始めて一時間程で獲物を見つけた様だ。
ルーク君が後ろから回り込み、フランちゃんの方へと上手く誘導した。
そして、彼女が狙いをすまして突いた。
「えいっ!」
獲物を追い込むまでは良かったが、しかし槍の扱いに慣れないフランちゃんの突きは惜しくも空を切った。
「……ごめんルーク……」
「大丈夫だ! まだ時間はある。次を探すぞ」
ルーク君の性格からして失敗したフランちゃんを責めるかと思っていたが、それどころか次の獲物を探そうと前向きな姿勢だ。
うん、悪くないね。
ここは一つお姉さんがアドバイスをしようではないか。
パンパンと手を叩き二人を呼ぶ。
「はーい、集合〜!」
「なんだよ」
「はい……」
思ったよりフランちゃんが凹んでた……。別に怒ったりしないよ。
「えーっと、気付いた事を伝えます。まず、フランちゃんは突く時に目を瞑ってた事が気になりました」
「ぅ!? ……はぃ、ごめんなさい」
「ううん、分かってればいいんだよ。これでもかってぐらいドライアイ覚悟で獲物を最後まで見れば、突きの勢いも良かったし、きっと上手く行くから頑張って!」
「ドライ……アイ? は、はい! ありがとうございます!」
「ルーク君は獲物の追い込みも良かったし、失敗しても前向きな姿勢は凄く良かった。ただ惜しいと思ったのは失敗した後、足を止めなきゃもう一度チャンスが作れた、かもね?」
「む……んな事わーってるよ!」
とりあえず気付いた事は伝えたけど、これが吉と出るかどうかだね。
ホーンラビット狩りの本質は索敵にあると思っている。よほど注意して見ないとまず気付かない。
そして、獲物に気付かれずに接近する慎重さも必要だ。
このまま午前中は難しいかと思われた矢先、本日二度目の獲物を見つけた様だ。
「行ったぞ! フラン!」
「やあっ! あっ……」
あちゃー、惜しい。
今度はしっかり獲物を見ながら突いたが、ギリギリで避けられてしまった様だ。
それでも成長した方だろうと思い、一旦休憩にしようと声をかけようとしたその時――
「――まだだフラン! もう一度そっちにやる!」
「……! わ、わかった!」
諦めかけたその時、ルーク君が獲物の前方に立ち塞がり再び獲物を追い込んだ。
「やあっ!」
掛け声と共に突き出した槍がズブッと刺さり、確かな手応えが私にも伝わってきた。
「よっしゃあ! やったぞフラン!」
「……え、あ、出来た……出来たよう!」
まさか言った事をそのまま出来るとは思ってもみなかったな……。
失敗する事を見越して獲物の逃げる方向を判断して瞬時に回り込むのだから勘と経験、それに身体能力も必要だ。口で言うのは簡単だけど実際にやるとなれば難易度は格段に上がる。
フランちゃんもすぐに頭を切り替えて、獲物を挟み込む様に行動した事も良かった。
「二人とも良かったよ!」
「でぎま゛じだ〜。あ゛りがどうございますう゛」
「フランちゃんが頑張ったからだよ。おーよしよし」
「俺もやったんだぜ」
「うん、ちゃんと見てたよ。ルーク君の諦めない気持ちが成功に繋がったんだねえ」
「……ふん、あれぐらい当然だ」
「もー照れちゃって! あはは」
さっきルーク君が獲物に回り込んだ時、そしてフランちゃんが獲物を突く一瞬、僅かだが二人から魔力の放出を感じた。
恐らく無意識に身体強化をしたのだろう。
初めての実戦でこれは少しだけ将来が楽しみかも知れない。
二人が落ち着いたところで休憩を挟み、午後から三時間程狩りを続けた。
一度コツを掴んでしまえば簡単だった様で、午後からはフランちゃんの攻撃は外れる事なく、三羽のホーンラビットを仕留めていた。
この日は合計四羽捕え、初めての狩りは大成功となった。
なんか引率の先生になった/(^o^)\
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