街への道中
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脚が折れている盗賊には簡易的な治療を施し、木の棒を松葉杖代わりにして歩かせる事にした。
逃げ出さないよう数珠繋ぎに縛っているが、その際も抵抗という抵抗も見せず大人しいものだった。
「街まではどれくらいかかりそうですか?」
「そうねぇ、この場所を探すのには苦労したけど街まではそんなに遠くないわ。盗賊達連れてても三時間もあれば着くと思うわ」
通常の感覚でいえば結構遠いが、この世界に来てから歩きっぱなしだった。
今更たった三時間など楽なものだ。
「そんなに街から離れてないんですね」
「そうね。ただ、この辺は魔の森に近いからね、あんまり人は近づかないわ、だからここをアジトにしてたんだろうけどね」
なるほど、確かにそもそも人が立ち寄らなければ見つかる事もないか。
だけど、それ以上に気になる言葉があった。
「魔の森、ですか?」
「そうよ、魔の森は奥に行くほど魔素が濃くなって危ないのよ。濃すぎる魔素は人間にとって毒だからね。だから死にたくなきゃ近付くなって昔から言われてるわ」
「そうですね。魔素の原因を探る為に今までも何度か国の調査団を派遣したそうですが、奥へ行く程に濃くなる魔素と強力な魔物の出現で、これといった成果は得られずに引き返したそうですし」
「そうそう、だからあたしらでも入り口辺りまでしか行ったことないわね」
「そうなんですか」
魔物か。
確かにあんなものに襲われたら普通の人間ならまず助からないだろうし、出会ったら普通逃げるよね。
私の感覚も随分と麻痺したみたいだ。
「それにね、森の奥には大昔に暴れ回ったヤバい悪魔が封印されてる、なんていう言い伝えもあるのよ? まあ、ただのお伽話だとは思うけどね」
へー悪魔ねぇ。
そう言われてみれば私の姿も悪魔っぽいし。
……うん?
それって……私の事……じゃね!?
「ヘーソウナンデスネ」
「それにしてもナナシちゃんはどうしてあんな所にいたの?」
何と答えたものか。
森の奥で寝てた何て言えないし、ましてや私がそのヤバい悪魔だなんて知られる訳にはいかない。
聞かれるとは思っていたが……。
「実は旅をしていたのですが、その……道に迷ってしまいまして……」
嘘にならない程度に事実を語る事にした。
「それで洞窟に辿り着いたんだ?」
「いえ……お腹が空いて数日ぶりに食料を見つけて食べたら……お腹いっぱいになって……その……眠ってしまいまして、目が覚めたら……洞窟の中にいました……」
「ん? それって……ぷっ」
「フィー、笑ってはいけませよ。……ぷっ」
「……」
笑ってはいけないとか言いながら、あなたも笑ってますやんレイラさん……。
「あははは、いやーゴメン。盗賊を圧倒出来るぐらい強いのに盗賊に攫われたなんて考えもしなかったわよ」
「ですが、そのおかげでマリーちゃんも無事だったのですからナナシさんには感謝しております」
「いえ、私だけではこうして街へ行く事も出来なかったので、こちらこそありがとうございます」
「そんな畏まらなくたっていいわよ、困った時はお互い様ってね!」
本当にいい人達だ。それに、こういうのって何かいいね。
「にしても、攫った相手に討伐されてりゃコイツ等も世話ないわね」
「盗賊の討伐は報奨金も出ますからね。殆ど無傷のようなものですから彼等は労働奴隷として扱われるでしょう」
「良かったわねナナシちゃん! これでお腹いっぱい食べれるわよ、ぷぷっ」
「ちょっとフィーさん、もう忘れて下さい」
「ふふふ」
いつの間にか距離感も縮まって代わり映えしない景色も気にならなくなっていた。
女三人寄れば姦しいとはよく言ったものだ。
ちなみにマリーちゃんはドラガンさんに懐いたようで今は楽しそうに肩車をしている。
あんなに怯えていたのに一体何があったのだろうか。
街へ向かってしばらく歩いていると全身緑色のでっぷりとした二メートル半程の巨人が三体、道を阻むように私達の前に現れた。
「くそっ! トロールか」
「今は不味いわね、盗賊ら餌にして逃げるってのは?」
盗賊達からやめてくれ、助けてくれ、と悲鳴が上がる。
「それも悪くないけどね、でももう挟まれちゃってるみたいだね」
「後ろにも二体来ています!」
「なんでこんなとこにトロールがこんなにいるのよ!」
「逃がさないつもりか」
「すまんが嬢ちゃん、いざとなったらマリーのお嬢ちゃんを連れて逃げてくれんかの?」
少し様子を伺っていたが何やら深刻な雰囲気だ。
「結構不味い状況ですか?」
「そうじゃな、ワシらだけなら何とでも出来るんじゃが、此奴らはちと厄介での」
「少し試してみます」
「嬢ちゃん何を……?」
後方から表れた二体に向かって駆け出し、拳で腹部を殴りつける。
ズドン、と拳の衝撃で腹部が破裂し、円形に穴が開いた。
呆気なく倒したと思ったが、その穴が徐々に塞がり再びトロールは立ち上がった。
確かにこれは厄介だ。だけどこの程度なら。
今度は鎌で狩るようなイメージでトロールの首元に手刀を叩きつけた。
すると殴った時と同様、重たい衝撃音と共に頭が吹き飛んで行った。
首だけを落とすつもりだったが、そう上手くは行かなかった。
とは言え流石に頭は生えてこない様なので問題ないだろう。
「嘘……」
頭部が弱点だと分かったので、後方の残り一体も同じ要領で手刀で頭を飛ばし、すぐさま先頭にいるトロールまで文字通りひとっ飛びで行く。
トロールが反応するよりも速く頭部に拳を放って頭を吹き飛ばす。
残り二体も同様に反撃をさせる事なく一撃で沈めた。
「すごーい! お姉ちゃんかっこいいー!」
「ふふ、ありがとう」
ようやくマリーちゃんが私の元に戻って来ました。
もうおじいちゃんには渡しませんよー、ふはは。
それにしても盗賊も含めた皆が呆然と私を見つめている。
あっ!? 角……は出てないか、良かった。
皆さんが落ち着いたところで話を聞いてみた。
どうやら一瞬で、しかも素手でトロールを殴り殺す人間は聞いた事がないそうだ。
まあ人間(仮)ですからね。
そこで皆さんが出した結論は、私が身体強化の達人という事でなんとか落ち着いたようだ。
ちなみに身体強化とは、体内の魔力で肉体を強化する事で、私が魔力で身体能力を強化するのと同じ事のようだ。
これは特に肉体労働や戦闘に従事している人間は無意識に肉体の強化を図っている事が多く、鍛えれば自分の意思で発動する事が可能となり、それを極めた人は文字通り桁違いの力を発揮するのだと言われている。
と言っても、それ程簡単な事でもないらしいので自分の意思で使えるだけでも凄いとかなんとか。
使ってないんだけどね? ……うんまぁ悪魔だとバレなきゃいいか。
その後、皆さんがトロールの胸の所をナイフで抉って、紫色の石を取り出していた。
これがトロールの討伐証明になるそうだ。
この石は魔石というもので、この魔石があるかないかで魔物と動物の区別をつけているらしい。
トロールの魔石は親指と人差し指で作った輪っかぐらいの大きさで、これが結構な値段で売れるのだそうだ。
その後は定番のゴブリンや、ファングボアと呼ばれる大きな猪とも遭遇した。
冒険者の皆さんにはマリーちゃんと一応盗賊の護衛に専念してもらい、開き直って魔物は私がちゃちゃっと片付けた。
そして、血抜きしたファングボアが魔法の鞄という鞄と言う名の袋にすっぽりと入ってしまったのを見て、今度は私が驚かされた。
明らかに袋より大きな体積のファングボアが入ってしまったというのに、袋の見た目も重量も何一つ変わっていないのだ。
この魔法の鞄は王都などの大きな魔道具屋で売っているそうだが、とんでもなく高価なのだそうだ。
そうして歩みを進めていると街道に合流した。
街道とは言っても、きっちり整備されている訳でもなく、単に人や馬車の往来で踏み固められて出来た道といった程度だ。
街道の先に高い壁で囲まれているものが見える。
おそらくあれがアベリアの街だろう。
街に近付くと門があり、そこには槍を持った門番と思われる人達がこちらを睨んでいる。
こんなにゾロゾロと引き連れて歩いてたら警戒するのも当然か。
「止まれ!」
「よせ!」
「ですが」
「彼らは大丈夫だ」
何やら若い門番とおじさん門番が揉めているようだ。
「悪いなローランド、こいつは今日配属されたばかりの新人なんだ。一応冒険者証を見せてやってくれ」
「あーいや、驚かせてすまんな。コイツ等は依頼のついでに捕まえた盗賊だ、そっちで引き取ってくれ。ほれ、俺は冒険者だ」
と言ってローランドさんは首から下げている金属製のカードのような物を若い門番に見せた。
おじさんの門番はローランドさんと顔見知りといった雰囲気だ。
そして、提示しているカードが冒険者証みたいなもので、同時に通行手形にもなっているのだろう。
「Aランク……『竜の牙』……し、失礼しました」
「盗賊はこっちで引き取るが、報奨金は冒険者組合を通して渡す形でいいか?」
「ああ、それで頼む」
何やら聞き捨てならない言葉がありましたね。
Aランク?
え? 竜の牙?
ひょえー!?
それってトップクラスの階級ですよね!? しかも竜の牙とかカッコ良すぎでしょ! ていうか竜がいるって事でいいの!? ヤバくね? ドラゴンだよドラゴン!
会いたいけど会いたくないなー! やっぱり喋ったりするの――
「おい、お前!」
全く、うるさいですね。
今いいところなので静かにして欲しいものだ。
「聞いているのか! お前だ! 身分証か手形を見せろ」
気が付けば目の前に先程の若い門番が目の前にいた。
何と!
もう私の番でしたか……。
仕方ないな。
身分証ですね、はいはい分かりまし……ぁ。
これは持ってないんですって正直に言えばいいのかな?
困ったな……。
「あー、その嬢ちゃんは俺らのツレだ。仮手形を渡してやってくれ」
と思ったらローランドさんが助けてくれた。
さすがリーダーだ、頼りになりますな。
「そうでしたか。これは仮の手形になります、銅貨ニ枚で貸し出します。滞在期間は二週間で、その間に身分を証明するものを持ってくれば銅貨一枚は返却します。二週間を過ぎても更新や返却がされない場合はあなたを捕縛しますがよろしいですね?」
掌を返した様に丁寧になったなこの人……。
「はい、分かりました。丁寧にありがとうございます」
と言いながら盗賊から奪っ……回収した銅貨を二枚渡す。
二週間かぁ、それまでに身分証を発行してもらわなくちゃいけないな。
門を抜けると広い目抜き通りになっていて石畳がひいてある。
ここがメインストリートになっている様だ。
至る所に出店が出て、大勢の人で賑わっていて活気に溢れた街だというのが伺える。
通りにはレンガ造りの様な建物が多く見られ、なんともお洒落な街並みだ。
すると、どこからともなく食欲をそそるいい匂いがしてきた。
見れば串焼きやケバブみたいなお肉系もあれば、焼きもろこし等の出店があちこちにあった。
それに、あれは……石焼き芋ですか……?
まさかこの世界にも石焼き芋があるとは。
これはマズい事になった……私にはこの溢れ出す食欲を抑える事ができそうにない!
今こそ散財の時っ!
「――ちゃん。ナナシちゃんってば!」
はっ!
食べ物に見とれて我を失ってしまうとは……。
フィーさんが呼んでいるようだ、一体どうしたのだろうか。
「はい、どれにしましょうフィーさん」
しまった、食べ物の事が頭から離れていなかったようだ。
「ん……? まあ、いいわ。今から孤児院にマリーちゃんを送って行くわよ。その後、冒険者組合に行くからね」
「あ、はい。でも私も冒険者組合に行くんですか?」
「何言ってるのよ、盗賊の報奨金が出るって言ってたでしょ。それにあなた身分証持ってないんでしょ? どうせなら作っておきなさいよ」
「え、でも私なんかが冒険者になれるのでしょうか?」
「はぁ? 一撃でトロールを殴り殺す人間が何言ってるのよ。あなたでダメなら誰も冒険者なんてなれないわよ」
どうやら強ければ冒険者になれるみたいだ。
それにしても皆さんお腹空かないのでしょうか?
「そういうものですか」
「そういうものよ、分かったわね?」
何れにせよこれで身分証を手に入れられそうだ。
みなさんには本当に感謝しかありませんね。
「分かりました。不束者でしゅが……ですがよろしくお願いします……」
「……なんだか心配になってきたわ」
正直に言うと二話目の時点で大迷走です。
どうしてこうなった\(^o^)/
ここまでお読み頂きありがとうございます(๑˃̵ᴗ˂̵)