第14話:【沈黙する鍵は決意を求める】
メルムが、ぬるりと形を変えた。
膨れ上がった身体が歪にうねり、そのまま地面を削るような勢いで突っ込んでくる。
「来る…!」
ナナシは一歩、前へ出た。
「イリス、リガン!怪我人を頼む!」
「……勝手に決めんな」
吐き捨てるように言いながらも、イリスはすぐに踵を返す。その赤い瞳が一瞬だけこちらを見たあと、倒れている村人へと向かった。
リガンも肩をすくめる。
「はいはい、任されたよ〜。死ぬなよ?」
「死なないよ!」
返しながら、ナナシは左腕へと手をかけた。
白い鍵を、差し込む。
――ガチッ。
回そうとした鍵が途中で止まり冷たい音だけが響く。
籠手は沈黙している。
「……は?」
何度挿して回そうとしても回らない
そもそも何も起きない、光も、装甲も、いつもの声ですら反応がない。
「なんでだよ……!」
もう一度、挿しこみ鍵を回す。
――ガチッ
やはり、変わらない…まるで鍵穴が合ってないみたいに回らない、焦りが、胸の奥を掻きむしる。
「嘘だろ……!」
その瞬間、空気が凍りついた。
「――ッ!」
メルムの身体から、氷の刃が解き放たれる。
避けきれない、ナナシは反射的に左腕を突き出した。
【Reject】
籠手が低く震える。
ぶつかった瞬間、氷が正面で砕け散った。
細かな破片が横へと流れ、背後へと叩きつけられる。
頬に冷たい感触が走る。
「……え……?」
(弾いた、またこれだ…!この力は何がキッカケになってるかが、わからない…!)
理解する暇もなく、次の気配が膨れ上がる。
メルムの身体が、大きく膨張する。
嫌な圧が、空間を満たす。
「おい、あれ……」
遠くでリガンが呟く。
次の瞬間。
放たれたのは――塊だった。
視界を埋め尽くすほどの、巨大な氷塊。
空気を押し潰しながら、一直線に迫る。
逃げ場は、ない。
「……ッ!」
ナナシは歯を食いしばり、再び腕を突き出す。
【Reject】
籠手が唸り氷が、ぶつかり砕けた。
だが――止まらない。砕けながら、押し込まれる。
「ぐっ……!!」
衝撃が腕を貫き骨が軋み、視界が跳ねる。
そのまま身体ごと吹き飛ばされ、地面を転がり、背中から叩きつけられる。
「っ、ガハッ……!」
肺の空気が一気に抜ける。
左腕に残る、重い痺れが襲う。
さっきの軽い反応とは、まるで違う。
「……止めきれない……!」
息が荒い、身体が言うことを聞かない。
それでも、視線だけは前を捉える。
メルムが、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。
そして――
「……タ……ス……ケ……」
かすれた声が、確かに届いた。
「……ッ」
ナナシの呼吸が止まりそして胸の奥が、強く締め付けられる。
「……まさか………!」
拳を握り、震える足で、立ち上がる。
「おい、まだやれるだろ……!」
叫ぶと同時に左腕が、熱を帯びる。
「――まだ、終わってねぇだろ……!!」
叫ぶ、喉が焼けるように痛む。
白い鍵が、震える。
「なんで出ねぇんだよ……!」
歯を食いしばる。
その瞬間、胸の奥で、何かが弾けた。
――熱。
「来いよ………!」
溢れ出す。
白い鍵に、ひびが走る、外側じゃない。
内側から、押し割られるかのように――内側から、赤が滲み出る。
「応えろ………!」
滲むように、侵食していく。
「――ッ!?」
鍵が、変わる。
赤。
脈打つような光。
次の瞬間――炎が、噴き上がった。
籠手の装甲が、スライドする。
ナナシは赤く燃え上がる鍵をスライドして顕となった鍵穴へと挿しこむ。
【key of ignis】
籠手から声が発せられる。
そしてそのままカチリと乾いた音とともに鍵を回す。
【Break the Fate】
一拍――空気が、張り詰める。
内部から赤い光が解き放たれ、粒子となって全身へと走る。
肩へ、胸へ、脚へ。
赤い暗紫色の装甲が、次々と組み上がっていく。
熱が巡り視界の端で、赤い粒子が舞う。
【Ignis Rebellion】
低く、機械的な音声が告げた。
同時に――炎が弾けた。
最後に、腕部の装甲が噛み合い――固定される。
ナナシはゆっくりと拳を握りこむと内部で、炎が脈打つ。
「……これなら…いける……!」




