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第20話 恋人と母親③

ギルドの近くまで来ると、ルーの母親のニナが家の前に立っていた

どうやら、ここがルーの家らしい

本当にギルドのすぐ近くだ


俺は家の前まで行き、ルーを起こさないように、そっとニナへ預けた

彼女たちが家に入るのを確認してから、ギルドへ向かう


ギルドに入ると、ミナとナルが待ちかねたように迎えてくれた


「ソラ君、おかえり~」


「遅かったね、大丈夫だった?」


ミナは心配してくれていたようだ


「うん、ちょっと色々買うものがあってさ」

「すぐに夕食の支度をするね」


そう言って厨房に向かう俺を、ナルが呼び止めた


「ソラ君、なにかついてるよ」


ナルは俺の服についた長い髪の毛をつまんで取った


「髪の毛……?」


ミナもそれを覗き込むように見る


「ずいぶん長いね……誰の?」


ルーのだ……俺はとっさに、どう答えるべきかわからなくなった


「え!? な、なんだろ、市場で付いたのかな」


そう言って、そそくさと俺は厨房へ向かう


やましいことはなにもない

だが、ついルーのことを隠してしまった


ナルとミナは、納得がいかない様子でその髪の毛を見ている


ナルの目がピクリと動いた


「なんか……この髪の毛、青くない?」


ミナも髪の毛を見ながら言った


「長い青髪って……覚えがあるね」


あっという間に確信にたどり着こうとしている


二人の勘は鋭かった……


厨房に入るとイナクが待っていた


「きたか、手伝うぞ」


イナクの顔を見て、俺はすごく安心した


俺はからあげを作る準備を始めた

鍋に買ってきた鶏油を入れる


「こんなに油をつかうのか」


イナクが少し驚いたような声を出した

この世界で油は高級品だから、こんな使い方はしないのだろう


「俺のいた世界では、油は手軽に手に入るんだよ」

「こうやってたくさんの油で揚げて、料理を作るんだ」


イナクは興味深そうに見入っている


俺はまず鶏肉の下準備に取りかかった


余分な筋や皮をさっと落として、一口大に切り分ける

切った鶏肉を木のボウルに入れ、塩と、醤油みたいな調味料を回しかけた


にんにくと生姜は皮をむいて潰し、香りが立ったところでボウルに加える

手でしっかり揉み込んで、肉に味を含ませた


妙に手が覚えている。この料理を、俺は何度も作ったことがある気がした


次に小麦粉を木のトレイに広げる


油を熱して、菜箸の先をそっと入れ、泡がふつふつ出るのを確認してから

鶏肉に小麦粉をまぶして油に入れる


ジュワワワワ


すぐに油で揚げる音が鳴りだした

その音に驚いてミナとナルが厨房を覗き込む


「なになに!何の音!?」


「いい匂~い」


すでに好評といっていい

やはりからあげは最強だ


からあげがキツネ色になったところで油から上げる


「これに置け」


イナクはトレイに細い鉄串を並べておいてくれた

油を切るのにちょうどいい。さすがイナクだ


俺は次々と唐揚げを上げていく


すると、ミナとナルが厨房に入ってきた

置いてあったからあげを、勝手に先に食べてしまう


「ん! なにこれ! おいしい!」


「すごい、なにこれ!? 」


二人は喜びの声を上げた


「こら! つまみ食いするな!」


イナクに怒られ、そそくさと食堂へ退散する


最後の唐揚げも上げ終わって、俺は火を止める


イナクはサラダを作ってくれていた

俺は大皿に山盛りにしたからあげを持って食堂へ向かう


「おまたせ~」


俺が食堂に入ると拍手がわいた


「きゃー、きたー」

「すごい! 沢山ある~」


俺が大皿を机の真ん中に置いた瞬間、揚げ物の匂いがふわっと広がる

二人とも皿の前に身を乗り出して、今にも手を伸ばしそうだ


「熱いから気をつけて」と言うより早く、ミナがひとつ取った


ふうっと息を吹きかけて、そっとかじった瞬間、表情がぱっと変わる


「うーーん。凄く美味しいね!」


ミナが頬を押さえて、目を細めた


「ほんと、こんなの食べたの初めて」


ナルも一口食べて、きらきらした目で何度もうなずく

イナクも短く言った


「うまい」


皆に喜んでもらえて、嬉しさがこみあげてくる


その時、ナルがさらっと言った


「今度、ルーにもお礼を言わなきゃね~」


「うん、ルーがアドバイスしてくれてさ、それで……」


俺がそこまで言ったところで、ナルがにやりと笑った


「へえ~、やっぱりあの髪の毛、ルーのなんだ」


ミナも続ける


「青い髪なんて珍しいからね~」


二人の視線が俺に刺さる


「あ! え、いや」


俺は思わず言葉を切って、視線だけを彷徨わせる


ナルがにこやかに言う


「私たちには 内緒 なんだっけ?」


ミナもにこやかに言った


「わたしたちには、話したくないこともあるよね~」


二人の声が綺麗に重なる


「かわいいこだからね」

「かわいいこだからね」


俺は言葉を失った


その時、イナクがぼそりと言った


「一人に決めろ、引きちぎるぞ」


………だから、なにを?


誤魔化すように小さく笑って、話を終わらせるように皿へ目を落とした

揚げたての湯気がまだ立っている


俺もからあげを一つ食べた


強いうまみが口の中に広がる

その瞬間、霧が掛かったような記憶がよぎる


ずっと昔に、これを食べた


同じ味がする……そう俺は感じた


すると、俺の顔を見て、ナルが驚いた声をあげる


「ソラ君?」

俺を見て、ミナも反応する


「ソラ!? どうしたの?」


「あ……あれ?」

俺の目から、涙がこぼれ落ちていることに俺は気づいた


「あれ? おかしいな……なんで……」


ミナは立ち上がり、俺の背中に手を置いて撫でる


「大丈夫?」


そこで、堰が切れたように、俺の涙は止まらなくなった

なぜ涙が出るのか、俺にも分からない


そんな俺を見て、ミナは俺の頭を胸元へ抱き寄せた


温かくて、柔らかい

遠い昔の記憶にあるような、優しく懐かしい匂いがした


俺の意思とは関係なく、言葉がこぼれた


「勝手に……生まれ変わってごめん……」


ミナの抱き寄せる力が、少しだけ強くなる


俺が泣き止むまで、ミナはずっとそうしてくれていた



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