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第24話 ナルの決断

気付いてしまった

怖くない、唯一の人

さわやかな朝だった

肌寒いが、食堂は暖房機のおかげでぽかぽかしていた

スープの香りが鼻をくすぐり、優しい光が窓から差し込んでいる


俺が食堂に降りた時には、イナクが朝食を作り終えて机に並べていた

机にはすでにミナとナルが座っている

ミナは腕にムギを抱えていて、俺が降りてくるのを見ると声をかけてきた


「おはよー」

「おはよう、ごめん、今日遅かった?」

「ううん、いつも通りなんだけど…」


ミナがイナクとナルに目線を移す

ナルはそっぽを向いていた


するとイナクが言った


「早く目が覚めたから作っただけだ」

「あ、ありがとう」


俺はそう言って、机に並ぶ料理を見た

野菜スープに自家製ソーセージ、それに目玉焼きとサラダ

朝からご馳走だった


俺とミナは椅子に腰かけ、声を合わせた


「いただきまーす」


楽しい朝食の時間のはずだが、食堂の空気は重かった

するとナルが口を開いた


「わたし、これいらない、ミナ食べて」


ナルが自分のソーセージをミナの皿に移す


「え、いいの?ナル、ソーセージ好きでしょ?」

「きらいになった」


ミナは困ったような顔をした


重い空気を変えようと、ミナがナルに話しかける


「ねえ、ナル」

「なに?」

「ナルも、魔法の扉、開けたんだよね」

「開けたよ」

「どんどん流れ込んでくるよね、魔法の使い方とか性質とか」

「うん、最初から知ってたみたいになる」

「でね、私の魔法って光の属性みたい、ほら」


ミナがそう言うと、空中に光の玉が現れた


「ナルのは?私と違う?」

「う…うん、違う」


少しナルの表情が曇る


「えー、ナルはどんな魔法なの?見せて見せて!」


少し嫌そうな顔をして、ナルが右手を上げる

赤い針が次々と現れる


「わぁ!ナルのって赤いんだ!」

「どんな属性なの?」

「……赤さび」

「え?」

「だから、赤さび、鉄とかに出るやつ」

「そういうのもあるんだ…」

「なんか私の能力って、全部こんな感じだよね、やんなっちゃう」


するとムギがぴょんとミナの肩に飛び乗った

そして少し口を開ける

火の玉が現れた


「ええぇ!あなたも魔法使えるの!?」


ムギは頭をミナにこすりつけて喉をならす

ナルはあまり驚いていない様子だった


「この子は、火の属性みたいだね」

「すごい!猫って魔法が使えるんだ!」

「あはは、その子だけだと思うよ」


朝食を食べ終え、俺たちは食器を片付けた

それからイナクは依頼書を何枚か見比べ、1枚を手に取ると出口に向かった


出口のすぐ横に、いつの間にかナルが立っていた

顔を背けたまま、動かずにいる

イナクが近づき、すれ違おうとした時、ナルが声をかけた


「いくの?」


一瞬、イナクの足が止まる


「行く」

「私がやめてって、頼んでも?」


イナクは迷うように、ほんの少しだけ躊躇した

それでも答えた


「そうだ」


ナルが唇を噛んだ

イナクはそのまま出て行ってしまった

ナルはゆっくりと食堂に戻り、椅子に座った

疲れたような、悲しそうな顔をしている

見たことがない彼女の様子に、俺は心配になった


ミナがナルに歩み寄り、背中に手を置いて話しかける


「ねえ、ナル」

「なに?」

「いつまでイナクと喧嘩してる気なの?」

「…喧嘩なんかしてない」

「心配なのは分かるけど、イナクが強いって…ナルも知ってるでしょ?」

「うん」

「だったら…」

「相手が魔法を使えたら…イナクにはどうしようもないじゃない」

「それは…そうだけど」

「そこの猫だって魔法が使える。だったら魔物にだって…いるかもしれない」


ミナは少し戸惑うように言った


「それなら尚更、私たちも一緒に行った方がいいんじゃない?」


ナルは小さく首を振った


「それに……それだけじゃないの」

「え?」


ナルは立ち上がって言った


「ソラ君、ミナ、時間ある?付き合ってよ」


ナルはギルドを出て歩き出した


俺とミナは、その後ろについていく

旧市街を歩き、教会の近くまで来てナルは足を止めた

長屋が並んで立っている

そこでナルが話し始めた


「私とイナクが、教会の孤児院にいたって…知ってたよね」

「うん…ママに引き取られてギルドに来たんだよね」


ミナが答える

ナルは少し言いにくそうにしてから続けた


「私の父親はね、実は…生きてるの」

「え?」

「ほら、あそこにまだいるよ」


ナルが指差した先に、痩せた両足のない老人がいた

建物に寄りかかって地面に座り込んでいる

生気のない表情で、呆然として見えた


その瞬間、俺は背中が冷たくなった

赤い文字が見える

残り7日…


ナルは淡々と続けた


「私さ、大切にしてた手紙があったの」

「お母さんと…あの人が…若かった頃の手紙」

「沢山あってさ、ずっと文通してたみたい」

「お互いを想い合っててね、すごく…素敵だった」

「あの人は、お母さんのために…凄く頑張ってたよ」

「手紙の最後にはさ、必ず書いてあった」

「愛してる…って」

「その手紙が、私の宝物だった」

「この人たちの子供なんだって…嬉しかった」


ナルは一度息を吸ってから言った


「でも、メアリがね、私の十六才の誕生日の時に…教えてくれたの」

「あの人は…生きてるって…」

「優秀な軍人だったけど、足を失ってから…変わって…」

「お酒ばかり飲んで、お母さんに怒鳴るようになった」

「お母さんは…病気になって、死んじゃって」

「私は教会に引き取られて、あの人は…この療養所に入ったの」


ナルは目を伏せた


「一回だけね…私、あの人と面会したの」

「その時に言われた」

「お前のせいでこうなった…って」

「意味が分からないでしょ?」


少し間があった

ナルは遠くを見るようにして続けた


「私ってさ、プロポーズされたじゃん、イナクに」

「自分の部屋に戻って…胸が膨らむみたいにドキドキしてさ」

「私も…好きだったのかな?って思った」

「でもね……」


「わたしさ、イナクが戦うことが好きだって…昔から知ってた」

「知ってて…遠ざけようとしてた」

「凄く強くて、才能もあって、絶対、討伐の仕事で成功するんだろうなって思う」

「でもさ…」

「きっと……あの人も…そうだったんだよね」


ナルは唇を噛み、言葉を探すみたいに少し黙った

それから、絞り出すように言った


「ひょっとして………わたし」

「ママと同じような人を…好きになろうとしてないかな?…って」

「そう思っちゃってからさ…ずっと……すごく怖いの」


「イナクはそんなんじゃないって思うよ」

「でも、あの手紙の中のママも、あの人のことを…同じように言うと思う」

「血まみれになって帰ってきて…楽しそうに体を洗ってるイナクは……やだよ」

「…こわいの」


そう言うナルの手を取って、ミナが泣きそうな声で言った


「それなら…ちゃんとイナクに話せば…きっと」


それにかぶせるようにナルが言った


「きっと、やめてくれる?」

「え……う、うん」


ナルは小さく笑って、でもすぐに首を振った


「昔からイナクってさ、私がわがまま言っても、全然怒らなくてさ」

「嫌がってもくれないの」

「そのイナクがさ…私がお願いしても、聞いてくれなかったんだよ?」


「こんな話をしてさ、イナクがやりたいことを…やめろ…なんて…」

「最低じゃん…言えるわけ…ないよ」

「それに…わたし、もうイナクを異性として、好きになれないよ」

「こわいんだもん」


するとナルはふいに俺の方を見て言った


「ソラ君、胸、貸して」


そう言うとナルは、俺の胸に飛び込んできた

ふわっと甘い匂いがした

堰が切れたみたいに、ナルの目から涙がこぼれ落ちる


俺は支えるように肩に手を置いた

ミナもナルの背中をさする

俺たちは、かける言葉が見つからなかった


話せばきっと、すぐに解決すると思っていた

その考えは浅はかだった

ナルが心の中に隠していたものを思うと、それを彼女に求めるのは酷な気がした


俺は改めて、ナルの父親を見た

寿命が見えている

残りわずかだ…

ナルが父親を見ることができるのは、きっと今日が最後になる

でも、そのことをナルに伝えることは…俺にはできなかった


それから、泣き疲れるようにナルは眠ってしまった

ミナがナルを背負って帰路につく


すると背中で寝ていたはずのナルが、小さな声でミナに言った


「ねぇ、ミナ」

ミナが少し驚いて聞き返す

「え?なに?」

「言っておきたいことがあるの」

「うん、なに?」

「私ね、ソラ君は…怖くない」


ミナの足が止まる


「それって…」


その声に被せるみたいに、ナルはミナの背中から降りて言った


「もう大丈夫、ありがとう、ミナ」


歩いていた俺は、二人が横にいないことに気づいて振り向いた


「どうしたの?二人とも」


するとナルは俺の方に駆け寄ってきた

そして、いつもの笑顔で言う


「心配かけてごめんね~」

「それと……」

「前に、バカって言ってごめんなさい!」


そう言って、ナルは頭を勢いよく下げた

俺は元気になったナルに少し驚いた


「え?あ、いいよ、全然。それよりもう大丈夫?」

「うん、もう平気」


そしてナルが、からかうように俺を見て言った


「ソラ君ってさ、優しいよね」

「え?そうかな」

「そうだよ、全然怖くないもん」

「…弱そう、みたいな?」

「ちがうよ、安心する、みたいな?」

「それって褒めてるの?」

「もちろん。それに、私って強いから、守ってあげるよ~」


ナルが元気に話してくれるのが嬉しかった


ミナは少し離れたところで立ち止まったまま、こっちを見ている


「ミナ?どうしたの?」


呼びかけに反応して、ミナが小走りでこちらへ来る


「ううん、なんでもない」


俺たちはギルドに向けて歩き出した

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