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第21話 魂の色

偽りの光を灯そう

愛を知らない魂へ

愛を伝えるために

朝起きて、俺は少し部屋から出るのを躊躇していた

昨日…ミナの胸の中で、ワンワン泣いてしまったのだ

「なんだったんだ、あれは…」

なんにしても、顔を合わせるのが気恥ずかしい

とりあえず、謝ろう…俺は覚悟を固めて扉を開けた

食堂に降りると、ミナとナルとイナクが出かける支度をしていた

「あ! おはよー、ソラ」

「うん、おはよう」

俺は一度息を吸ってから言った

「昨日はごめんね、ミナ」

「ううん、謝る必要なんかないよ、それに」

イナクが卵を挟んだパンを布で包みながら、短く言う

「もう出るぞ」

「え、今から?」

俺が聞き返すと、ナルが自分の服を整えながら言った

「今日はね、教会に行くの」

「教会?」

ミナは机の上の荷物を指で確認しながら言った

「今日、ナルの誕生日なんだよ」

「え?」

俺がナルを見ると、照れ隠しみたいに肩をすくめた

「家族で祝福を受ける決まりなの」

「…なにかの儀式みたいな?」

「うん、毎年、必ずね」

そう言うと、ナルは少し胸を張って言った

「私も十七才ってわけ」

俺は条件反射のように言った

「お、おめでとう」

イナクが俺の顔を見て、弁当を少し持ち上げた

「行くぞ」

ついて来ようとする猫に、ミナがしゃがんで言った

「あなたはお留守番、ごめんね、だめなの」

猫は言われたことを理解したのか、その場でぺたんと伏せた

それを確認してミナも外に向かう

俺は慌てて上着をつかみ、三人の後ろに続いた


ギルドを出ると、空気がひんやりしていた

冬の匂いが混じっている

旧市街の通りを抜けていく途中、道端に大きな木箱がいくつも積まれているのが目に入った

金具のついた箱、細い管、そして丸い板みたいなものが一緒に括られている

作業をしていた男が、こちらに気づいて声を掛けてきた

「お、ソラさん、こんにちは」

俺は足を止める

何度か声を掛けられたことがある男だった

「こんにちは、これ、なに?」

男は誇らしそうに胸を張った

「魔力暖房機だよ、みんなで金を集めて、一括で安く仕入れたんだ」

「もうすぐ冬だろ? これがありゃ、夜も凍えねえ」

「ギルドの食堂用に、ミナも一台買ってくれてな」

ミナは頷いて、男に言った

「ありがとう、あとで届けに来てくれるって言ってたよね」

「おう、夕方までには運ぶ」

明るいやり取りの横で、俺はひとつ、素朴な疑問が浮かんだ

「魔力暖房機って…魔力管の魔力で動くの?」

「そうだよ」

ミナが当たり前みたいに返す

「魔力を使ったぶん、お金を払うとか?」

ミナとナルが顔を見合わせた

ナルが言う

「魔力管から来る魔力は、お金かからないよ」

「ただってこと?」

「使える量に上限はあるけどね、地域ごとに決まってる」

「へえ…」

俺はさらに聞いた

「でもさ、その魔力ってどこから来るの?」

三人とも、少しだけ考える顔をした

ミナが首をかしげる

「どこから…って」

ナルも同じように首を振る

「わかんない、魔力管から来る、としか…」

イナクは黙っている

作業の男は、笑って手を振った

「俺らも知らねえよ、お偉い奴らが知ってんじゃねえか?」

誰も知らない

当たり前に使っているのに

そのことが、少しだけ妙に思えた

俺たちは立ち話もそこそこに、また歩き出した


教会へ向かう道は、旧市街の端のほうへ伸びている

途中、ナルがふと思い出したみたいに言う

「ミナと会ってから、もう十一年かぁ…なんか、あっという間だね」

ミナが笑う

「うん、私がギルドに来た日が、ナルの誕生日だったもんね」

俺は興味が湧いて聞いた

「二人はギルドで出会ったの?」

「うん」ナルが頷く

「サラさんに私たちが引き取られてから、一年くらい経った頃かな」

「急にミナを連れてきてさ、すごく驚いたのを覚えてる」

サラ…ミナの母親でギルドの創設者だ

俺はミナに聞く

「じゃ、その前はお母さんと暮らしてたの?」

ミナは少し困ったように笑った

「んー、違うみたいだけど…何も覚えてないのよね」

ナルがすぐ横から言う

「親戚に預けてたって、サラさんが言ってたよ」

「サラさんは、私たちとギルドで暮らしてたし」

ミナはナルを見ながら確かめるように聞いた

「私がギルドに来てすぐに、ママは死んじゃったんだよね?」

ナルは思い出すように言った

「うん、知らないおじさんが訪ねてきてさ、サラさん死んじゃったって言われて」

「急に子供三人で、ほっぽり出されちゃって」

「イナクがいなかったら、どうなってたんだろうね」

俺がイナクを見て聞く

「当時のイナクって…九歳くらい?」

イナクは歩きながら言った

「助けてくれた人がいた、俺だけじゃない」

ナルが頷く

「うん、私たち、元々教会の孤児院にいたからさ」

「事情を知った、シスターが助けてくれたの」

「久しぶりに会えるね~、元気してるかな」

「シスター?」

俺が聞くと、ナルは応えた

「シスター・メアリ」

「旧市街の教会のシスターだよ」

「昔から旧市街のために、奉仕活動してる人でね」

「孤児院とか…お医者さんみたいなこともやってる」

「読み書きだって、メアリに教えてもらったんだから」

「とにかく、凄い人なの、私たちの育ての親みたいな感じ」

「同じような子が、この街にはたくさんいるけどね」

メアリの名前が出たあたりから、ミナは少しだけ距離を置くように歩幅をずらしていた

それを横目で見て、ナルが俺に小さく言う

「なんか、昔からミナって、メアリが苦手なんだよね」

「へえ…」

理由を聞こうとしたが、ちょうど目的地が見えてきた

ナルが指を差す

「ほら、あそこ」

木造の建物があった

周りには、畑がいくつも作られていて、作物の列が見える

一見すると、教会とはすぐに分からなかった

敷地に入ると、椅子を並べた子供たちが、文字を教わっていた

女の人が前に立ち、板に字を書いている

ナルが大きく手を振る

「メアリ!」

呼びかけた先には、灰色の長衣に、額を覆う白い頭巾を被った女性が立っていた

その女性は、ゆっくりこちらを振り向き、俺たちを見ると、やさしく微笑んだ

「イナク…ナル?ミナ」

彼女は子供たちに目配せしてから、こちらへ歩み寄ってくる

「久しぶり! メアリ」

ナルが嬉しそうに駆け寄る

ミナは、少し距離を置いたまま、動かない

「やっぱりナルなのね、見違えたわ」

メアリはナルの頭を軽く撫で、それからイナクを見る

「イナクも…ずいぶん背が伸びたね」

次に、メアリの視線が、ミナへ移った

ほんの少し、間が空く

「…ミナ…あなたは、変わってないね」

ミナは少し嫌そうな顔をした

それからすぐに、言い返すように言う

「私に会うたびに、それ言うよね?」

「やめて欲しいんだけど」

メアリは聞こえていないみたいに、同じ調子で続けた

「安心したよ、よかったね」

ミナの顔が歪む

ナルが慌てて割り込む

「メアリ! 今日来たのはさ…」

上から重ねるようにメアリが言う

「ナルの誕生日でしょう? 忘れるはずないよ」

それからメアリが俺を見る

「ところで、そちらの方は?」

ナルが元気よく答える

「この子はソラ! ギルドで暮らしてるの」

俺は頭を下げた

「初めまして、ソラです」

「初めまして、私はメアリ」

メアリは少しいたずらっぽく笑った

「お噂は聞いてるよ、特にルーから」

「なるほど…優しい子のようね、微笑ましい」

俺は反応に困って、笑うしかなかった

イナクが持っていた荷物を差し出す

「みやげだ」

「あら、ありがとう」

メアリが手を差し出し、それを受け取る

「さあ、中へ入って、ナルの誕生を祝福しましょう」


俺たちは教会の中へ入った

質素な椅子が並び、奥が祭壇みたいに作られている

祭壇の後ろと上に窓があり、そこから柔らかな光が差し込んでいた

メアリは祭壇の前まで歩き、振り返る

「ナル、ここへおいで」

ナルは手を合わせ、メアリの前に静かに立った

メアリが手をかざす

すると、星のような小さな光が、いくつも降り注ぎ始めた

「優しい神様、ナルをお守りください」

光はやわらかく、またたきながらナルのまわりを包み込むように輝いていた

俺は思わず息をのむ

その光の中で、メアリがそっと声をかける

「ナル…あなたは…扉を開けたね?」

ナルが驚いてメアリを見る

「うん…そう」

メアリは優しく微笑み、ナルの頭に手を置いた

「あなたは、美しい緑の魂を持っている」

「あなたなら、大丈夫」

「ナル、お誕生日、おめでとう」

「ありがとう!」

ナルは本当に嬉しそうだった

その時だった

ミナがひとり、外へ向かって歩き出した

扉が静かに閉まる音がする

俺は心配になって、すぐ後を追った

外に出ると、ミナは教会の横の木の下に立っていた

「ミナ?」

「…」

「どうしたの?」

「なんでもない」

俺は小さく息を吐いて言った

「ミナ…なんでもないわけないだろ。見たら分かる」

ミナはしばらく黙っていたが、やがてぽつりと言った

「私、メアリが苦手なの」

「いい人なんだよ。よくしてもらったし、可愛がってもくれたし、色々教えてもくれた」

「…でも、私だけなんだよ」

俺は眉をひそめた

「私にだけ、会うたびに『変わってないね、よかったね』って言うの」

「他の子には、小さな変化でもちゃんと気付くのに」

「いつも…私だけ」

ミナは木の幹に視線を落として、言葉をつづけた

「なんなのよ…もの心ついた頃から、小さい頃から、ずっとだよ?」

怒ってるんじゃない、傷ついてる顔だった

「それに…あの人が『神様の祝福』とか言って出してる光、魔法なんだもん」

「あんなの、私にだってできるよ」

俺はようやく、ミナのメアリへの態度に得心がいった

自分だけがそう言われ続ければ、いい気分はしないだろう

すると、ナルが外へ出てきた

「ミナー、なんで外に出てるの~、探しちゃったじゃん」

「ごめんね、ナル、ちょっとさ…儀式は終わった?」

「うん、終わったよ」

ミナが少しだけ安心した顔になる

「じゃ、帰ろうよ」

その時、メアリの声が後ろから響いた

「ミナ…少し、二人で話ができない?」

ミナはメアリを、睨むみたいに言った

「…やだ! 言いたいことがあるなら、ここで言いなよ」

メアリはしばらくミナを見つめていた

それから静かに言う

「あなたも、扉を開けてるね」

ミナの表情が曇る

メアリは続けた

「ミナ、その力を二度と使わないで」

「あなたの魂では、危うい」

ミナが戸惑ったように言う

「な、なにを…」

メアリの声は静かだった

彼女の真剣な想いが伝わってくる

「私のスキルは、魂の色眼」

「人の魂の性質を、色で見ることができる」

「あなたの魂の色は…混ざってる」

「白い魂に…別の色が……」

そう言われてミナの顔が歪む

メアリは声を落として続けた

「お願い…もう魔法を使わないと、約束して」

「使えばきっと、あなたは不安定になる」

「…扉に…飲み込まれるかもしれない」

ミナは両手を握りしめ、震えていた

我慢してきたものが、押さえきれずに噴き出した

「なんなのよ! あんた!」

「昔から、私にばっかり、変なこと言ってきて」

「あんたが祝福とか言って、出してる光だって、魔法じゃない!」

「なんで、私は使っちゃだめなの?」

「好き勝手言わないでよ!」

ミナがそう言うと、周辺に光の粒が現れる

さっきメアリが出していた光に、そっくりだ

でも規模が違う

教会の周り一帯に、見渡す限り、光が降り注ぎ始めた

「こ、これは…」

メアリが驚いて声をあげた

そして、ミナを見る、彼女の目が大きく見開いて揺れた、メアリの表情が影を落とした

ミナは叫ぶように言った

「これのどこが、神の祝福なの!?」

「そうやって、騙してるだけじゃない!」

「あんたの言うことなんか、絶対きいてあげないから!」

メアリが、ミナの足元へすがりついて膝をついた

「ミナ! きっと、恐ろしいことになる!」

「使わないで! お願い!」

ミナの足元にすがるメアリに、ミナは咄嗟に反応する

「やめてよ!」

ミナが振り払うと、メアリはバランスを崩して倒れ込んだ

倒れたメアリを見て、ミナの顔が一瞬だけ揺れる

光の粒は消え、戸惑いが顔に浮かんでいた

でもすぐ、背を向けた

「…混ざってるとか…恐ろしいとか…」

「わたし、そんなんじゃないもん…」

声が小さくなる

「…ひどいよ」

そう言い残して、ミナは歩き出した

それを見て俺は声をかける

「ミナ!」

俺はメアリに頭を下げるようにして、ミナを追った

背後でイナクがメアリを抱き起こし、服の汚れを払うのが見えた

ナルも慌てて手を貸す

「ごめんメアリ…ミナにも謝らせるから…」

メアリは首を横に振る

「私にはかまわないで」

「あなたたちは…ミナのそばにいてあげなさい」

イナクとナルが短く頭を下げる

イナクが言う

「行くぞ」

ナルも頷く

「うん」

二人は走り出した


その騒ぎに気づいて、子供たちがメアリの周りに集まってくる

「メアリ、大丈夫?」

「痛くない?」

メアリはすぐに笑ってみせた

「優しいね、ありがとう」

「大丈夫、転んだだけだから」

子供たちは空を見上げる

「メアリ、さっきね、神様の祝福が、ばーってなったの!」

「キラキラたくさん、神様からの贈り物?」

メアリは優しく頷いた

「そうだね」

「神様は、みんなのことが大好きだから、贈り物をくれたのね」

「あなたたちは、神様に、愛されてるのよ」

子供たちは手を合わせて祈りはじめた

「優しい神様、贈り物をありがとう」

その祈りを聞きながら、メアリは立ち去る三人の背中を見送り、小さく言った

「あなたの言う通りだね…ミナ」

メアリは子供たちに囲まれながら、いつまでも三人を見送っていた


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