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最終話㋜㋓ 緋の大陸の緋の鳥

最終話は全く同じ内容です。

二月十八日に、エカルラトゥ編の本当の最終話を投稿しましたので、エカルラトゥ編にはもう一話あります。


「スカーレット……今すぐスカーレットを探せ!」


「ス、スカーレット様?」


「俺はエカルラトゥだ! あ~もう! エカルラトゥの体を探せ! 大至急だ!」


 スカーレットの口で、側近や従者に声を荒げ命令している。

 エカルラトゥの言葉を聞き、直ぐに執務室から出ていく。

 その部屋から退出した二人の側近が、早歩きをしながら会話する。

 

「鳥が肩に留まっていないと、中身の判断が難しいですね」


「そうだな、でも妙だな……いつも肩に留まっている【ほう】ちゃんも【おう】ちゃんもいない。どこへ行ったんだろう……」

 

 



 ここはヴァーミリオン公国、数年前に出来たばかりの国。

 国土は広くないが、大陸の中では大国である、モデスティア王国とアロガンシア王国の国境に出来た国だ。

 だが、近くにある領や、比較的近くにあった宗教国家ザインを吸収し、他国が無視できないほどの力を、たった数年で手に入れた。


 その国は、まだ国として機能していない時に、アロガンシア王国の王が息子に討たれ、内乱状態に陥ったが、一つの戦も無く抑え込み、内乱を終結させた。

 同じような時期に、モデスティア王国も少しだけ混乱したが、その発端になったヴァーミリオン領の土地は、争いの種になると言う事で、ヴァーミリオン家がそのまま治めている。

 大国が認め、後ろ盾になる国を持っているヴァーミリオン公国は、一気に大陸中の国々に名を馳せた。


 やがて、他の大陸へと続く航路上にある、大渦や嵐が無くなっている事に気が付き、まだ見ぬ国の情報や交易品を目当てに、一度行って見ようと言う事になった。

 まだ国としては駆け出しであるヴァーミリオン公国は、大陸中にある国に呼びかけ、他の大陸にある国との交渉役を買って出た。

 

 慌ただしく始まった今日は、他の大陸にある国へ、親善と貿易の為に使節団を乗せた船が出航する日だった。






「これで良かったのですか?」


 ナタリーがジト目で、エカルラトゥの体をしたスカーレットを見ながら言う。

 そこはヴァーミリオン公国でも他の国でも無く、海の上を走っている帆前船の甲板だった。


「良いに決まってる。他の大陸の街で精神が入れ替わったら、あいつも涙流しながら感動するって、賭けてもいい。ね~、ひーちゃん」


 そう言いながら、船べりに留まっている緋色の鳥を撫でている。

 ひーちゃんと呼ばれ、撫でられている鳥は気持ちが良いのか、目を瞑り手の感触を堪能している。


「だからって王妃が、この大陸から飛び出すのはどうかと思います」


 近くに居たアリアが、船べりに頭を乗せ、海を見ながら抑揚も無い感じで口を開く。

 大げさに動きながらスカーレットが答える。


「私はルージュ、王妃でも何でもないただの使節団の一人」


「はいはい、わかりました。他大陸についたら名前はルージュでいいのですね」 


 ナタリーがおざなりに返事をする。

 そのまま三人は、海を見ながら会話を続ける。


 既に三人が乗っている大きな帆前船は大海原を走っている。

 この船以外にも二隻が、少し遅れて追従している。

 アリアが何か思い出したのか、スカーレットに顔を向ける。


「ところで、お子さんを置いて他大陸に行くのは寂しくないのです?」


「う~ん、ある意味二人いるようなものだし、会いたい時に入れ替われば良いし……」


「ううっ……私は会えないのですが……」


 ナタリーが泣きまねをしながら、攻めるような目をスカーレットに向ける。

 そんなナタリーをスカーレットがジト目で見返しながら呟く。


「そもそも入れ替わりに気づいたからって、ついてくるからそんな事になったんでしょう?」


「最近入れ替わってませんでしたから、入れ替わりに気づいてしまった手前、目を離せませんし……それに、少しだけ興味もありましたから」


 ナタリーが頬を染め、目を伏せながら言う。


「私はきっと船に乗る気だな、って思ったので密かに追ってきました」


「二人とも自分の意志で船に乗ったんだから、帰って怒られるときは自己責任で」


 スカーレットが二人に向けて宣言する。

 その言葉を受けたナタリーの顔に段々と影が差す。


「ああ……ただでさえ夫に、俺とスカーレット様、どっちが大切なんだ! って言われ、喧嘩したばかりなのに……なんで船に乗ってしまったのでしょう」


 ナタリーが頭を抱えて、そんな事を言いだす。

 そんなナタリーを呆れながら見ていたアリアが聞く。


「なんて答えたんです?」


「……ご想像にお任せします」


 答え合わせをせずとも、答えが分かったのか、何も聞き返さずにアリアが別の話題に変える。


「それより、なんでご自身の体で来なかったのですか?」


「当然、この体の方が楽だから。後はフラムに顔を忘れられると悲しいから」


 スカーレットが腰に手をやり、自慢げに答える。


「それは酷い……」


「エカルラトゥ様の顔は忘れられそうですね……」


 アリアとナタリーは呆れながらスカーレットを見つめ、思った事を口にする。


「ナタリーは忘れられて平気?」


「私の子供のヴァンは、既に鍛錬に入ってます。今のうちに私と離れる事に慣れて欲しいですから良いのです」

 

「まあ会話くらいなら、ひーちゃんが何とか出来るから、長くなりそうなら話しなさいな」


「キュゥゥー」


 スカーレットがひーちゃんを撫でながら言うと、任せろと言わんばかりに鳴く。


「ありがとうございます」


 ナタリーもひーちゃんを撫でる。

 ご満悦なのか、目を細め小さく鳴いている。


 船の上では暇な三人は、段々と小さくなっていく陸地を見ている。

 するとアリアが何かに気が付き声を上げる。


「あっ! 船が近づいてきますけど、あれってどこの船ですかね」


「さあ、でも大体の国は、今日出航なのを知っているはずだから見送りかな?」


 アリアとスカーレットが近づいてくる船、いや船団といえるほどの船を見ながら会話している。

 答えが分からないまま、三人で船を眺めていると、ジェレミーが船内から出てきて、船員に指示を出しているのを見つける。

 ジェレミーは使節団のまとめ役としてこの船に乗船している。


「ジェレミー、どうした?」


「あれは、アルカ国が囲っている海賊船だ」


 眉間に皺を寄せながら言う。


「あ~そういえば海賊を飼っているはた迷惑な国があったね」


「どうやらヴァーミリオン公国が気に食わないのだろう。当然といえば当然だが……」


「何? 小さい国のくせにでかい顔しやがって、とか言われた?」


 スカーレットがジェレミーの言い方に何かを感じたのか聞き返す。


「ああ、一字一句間違いなく同じことを言われたが、結局、紅蓮の魔女が怖くて追従の道を選んだはずなんだがな。まあここは大海原の船の上だ、紅蓮の魔女もいない。この船が帰ってこなくても事故が起きた事に出来るし、他大陸との交易を考えて色々な物を積んでいると踏んで襲ってきたのだろう」


「中身は居るけどね」


「そこが奴らの可哀想な所だな。スカーレットにこの船に乗せろと押し切られた時は、どうエカルラトゥにどう言い訳をしようか考えていたが、怪我の功名だな」


 ジェレミーが腕を組みながら、うんうん頷いている。

 

「アルカ国なら魔法に造詣が深いから、近づいてやり合えば船に被害が出そうだし……ひーちゃんに頼んでもいい?」


「キュ~」


 ひーちゃんが羽ばたき、空中に浮くとスカーレットの周りを飛ぶ。

 そんなひーちゃんを見ながらスカーレットが言う。


「変な事考えてたら、あいつらが陸に帰られる程度にやっちゃって」


 ひーちゃんが緋色の軌跡を残しながら、まだまだ遠くに見える船団に向けて飛んでいく。

 その光景を、顔色かえずに見ていたジェレミーがスカーレットに聞く。


「自らの手で燃やさないのか?」


「ちょっと遠すぎるし、ひーちゃんの方が手加減出来るから、それに中途半端な魔法って逆に疲れるし」


 そう言いながら、海賊船団を見つめる。

 緋色の軌跡が船団に到着すると、船から空へ向けて魔法が放たれ戦闘が開始したことが伺える。


「あ~、ひーちゃんに手を出してる。霊獣だって知ってるはずなのに良く攻撃できますよね」


「不可思議な鳥くらいにしか思ってないのかもね」


「だが、ひーちゃんの力くらいは伝わっているはずなんだがな……」


「信じられないだけですよ。きっと今後は信じると思いますから良い経験ですよ」


 声は聞こえないが、確実に阿鼻叫喚、地獄絵図であろう海賊船団を見ながら四人が会話をする。

 やがてボロボロになった船団が陸に向けて帰っていく中、ひーちゃんが戻ってくる。


「ありがとうね。楽しかった?」


「キュ~」


 船べりに留まったひーちゃんにスカーレットがそんな事を言う。

 嬉しかったのか、楽しかったのか羽を広げ、全身を使って喜んでいる。


「楽しかった? と聞けるスカーレット様は少し感性がずれていますよね……」


「それは幼少の頃からですので……」


「幼少の頃とか、考えるだけで怖いな……」


 三人がスカーレットの言動に身震いしながら呟く。

 そんな事を言われているのを気づいているのかいないのか、何も気にせずスカーレットは緋色の鳥と戯れる。







 航海はその後、何事も無く進む。

 他の大陸への航路は、過去の文献にも残っていたが、載っている航路は大渦や嵐が絶えず発生しており、乗り越えられなかった。

 だが、スカーレット達の船の歩みを塞ぐ渦や嵐は存在し無い。

 やがて陸地を発見し、上陸場所を見つる為に大陸を眺めながら船を進めていると港町を見つけ上陸する。


 言葉は微妙に違うだけで、意思の疎通は出来た、ただ固有名詞だけは全く違うものが多かった。

 なんとかその穴を埋め、会話を成立させていく。

 

 その港街を統括している人物に会う。


「あなた方の大陸は、霊獣が顕現されたのですね」


「どうしてそんな事を聞く?」


「霊獣が居なかったり、お隠れになっていると、大陸から出られなくなるらしいですよ。大陸を一つにまとめてから外に目を向けろ、という啓示らしいです」


「霊獣がいれば大陸が一つになりやすい……いや、まとまるから顕現しているのか……」

 

 スカーレットが考え込み、ぶつぶつと呟くが、気にせず続けてくる。


「そう伝えられていますね。この大陸では長く霊獣がいますから、その辺は伝承でしかしりません。この蒼の大陸にいる霊獣は【鸞】蒼い鳥の【らん】ですよ」


 スカーレットが納得をしたような顔で聞き、おもむろに顔や姿勢を正し、その場にいる皆に聞こえるように宣言する。


「私達は緋の大陸にあるヴァーミリオン公国から来た。霊獣は緋の鳥【鳳凰】」

スカーレット編はこれで終了です、ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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