きみと2度目のランデヴー III
と、クロがツッコんだところで。
アルベルトが、メインディッシュを配膳した。
鴨肉のソテーに、マッシュポテトを添えたものだ。
クロの前にグラスが一つ置かれ、赤ワインが注がれる。メインディッシュまで、アルコールは取っておいたということらしい。
去ろうとするアルベルトに、クロが「アレ持ってきて」と一言告げたので、レンは首を傾げてから、ナイフとフォークに手を伸ばす。
柔らかく、香り高い鴨肉。フルーツとバルサミコを合わせたソースとの相性も良い。
レンは頬を押さえながら、「おいしい♡」とうっとり目を瞑った。
そんな彼女を見つめ、クロが問いかける。
「君はさ、なんでルイスのことを好きにならなかったの?」
「へ?」
「あいつ誰にでもあんなかんじだから、女の子に勘違いされて、知らない内に好意を寄せられていることが多いんだよね。
君だって状況としては、アリーシャ・モーエンと同じだったわけじゃん?
なんとも思わなかったのかな、って」
「うーん。
確かに隊長は優しいし男らしいですけど……
なんか、お父さん?ってかんじなんですよね」
「ふーん。
じゃあ、なんで僕のことは好きになったの?」
「えっ」
「なんで?」
「………え…なんでですかね」
「えぇ〜なにそれヒドイ」
「いや、だって……
第一印象は最悪でしたし、優しくされた覚えはあまりないし…
『なんで?』ってあらためて聞かれると、言葉にできないというか」
「はぁ。悲しい」
「そ、そう言うクロさんは、言えるんですか?
あたしを好きになったきっかけ」
「言えるよ。
僕が『あ、この娘いいな』って思ったのはね」
「はい」
「初対面で、ひっぱたかれた時」
「………は」
「いやー衝撃的だったね。
まさに電流が走ったようだったよ。
あの時、決めたんだ。
『この女、一生かけてでも僕に服従させてやる』って」
「……それは、果たして恋心と呼んでいいものなのでしょうか…」
「好きな理由も言えない君に言われたくない」
「ぐ……
あ、でもあれです。
笑顔が可愛いなぁって思って、惹かれた部分はあります」
「えがお?」
「はい。
クロさん、あたしを馬鹿にしたり貶めたりする時、すっごい楽しそうに笑うんですよ。
声を出して。
それを見て……」
「……好きになっちゃったの?」
「………あれ、おかしいですね。
それじゃまるで…」
「変態だね」
「あああ自分でも言ってて思いました……
え、あたしって変態なのか…?」
「大丈夫だよ。
君のあーんな顔やこーんな姿も全部見ちゃったんだから、今さらちょっと変態でも引いたりしないよ」
「と言いながら憐れむような視線を向けないでください」
クロが「ふふ」と笑ったところで。
「お待たせいたしました、坊っちゃま」
アルベルトが瓶を一つ、クロの元へと持ってきた。中身はオレンジ色の…
「……ジャム、ですか?」
アルベルトが一礼して去ってから、レンが尋ねる。クロは瓶の蓋を開けながら、
「そう。マーマレードジャム。
これをちょっとだけワインに混ぜて飲むのが好きなんだ。
寒い時は温めてもおいしい」
「へぇー。なんだかスイーツみたいですね」
「でしょ?
こんな甘ったるい飲み方してるとバカにされそうで、ルイスにも内緒にしているんだ。
けど、君には特別に教えてあげる。
お酒が飲めるようになったら、一緒に飲もうね」
「……はい」
「なにその顔」
「いえ、楽しみだなぁと思って。
そうなる頃までクロさんといられるかと思うと、つい頬が緩んでしまいました」
「……心配しなくてもずっと一緒にいるつもりだから、いちいち喜ばないでよ」
「………はい」
「だから、デレデレしない」
「えへへ。今日のクロさん、優しいですね」
「いつも優しいでしょ?
君がいじめて欲しそうな顔するから意地悪してあげてるだけだもん」
「そんな顔していませんよ!」
「してるよ。
君ってやっぱり変態だから、優しいだけの男じゃ物足りないんでしょ?」
「……………」
「はい図星〜」
「ち、違います!いつでも優しくしてほしいです!」
「ふーん。じゃ、これはいらないかな」
「え?」
チャリ。
と、クロはポケットから何かを取り出し、指でつまんで掲げてみせる。
それは、銀色に光る小さな鍵だった。
「……それは…?」
「僕の部屋の合鍵。君に、あげようと思って」
「え……いいんですか?」
「いいよ。
いじめてほしくなったら、いつでもおいで。
夜這いもウェルカム」
「いや、しないですよそんなこと」
「えぇ…即答されるとさすがに凹むんだけど」
「え?だって……」
レンは。
その大きな赤い瞳で、じっとクロを見つめて。
「これからも毎日、一緒のベッドで寝るんじゃないんですか?
だったら…その、わざわざ夜這いしに行くこともないかな、と思って…」
なんて、真っ直ぐにそう言ってくるので。
「………………君のそういうとこ、ほんとズルい」
「え?!何がですか?」
「じゃあコレはいらないね」
「は?!いります!欲しいです!!」
奪おうとする彼女の手を弄ぶように鍵をひょいひょい躱し。
悔しいから、たまには別々に寝てやろうと、そう思うが。
……とりあえず今夜は、同じベッドで。
と思ってしまうあたり、自分も大概デレデレしているなと。
猫のように鍵にじゃれつく彼女を眺めながら、クロは静かに微笑んだ。
*おしまい*
おそまつさまでした☆




