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黒猫王子はメイドと踊る  作者: 河津田 眞紀
第6章 祭りのあと
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5.ようこそロガンス帝国へ III

 



「と、いうわけで。王」



 ベアトリーチェさんがパチンと指を鳴らすと、クロさんの手枷が外れ。

 彼は自由になった両手をぷらぷらと振りながら、立ち上がる。


「僕、しばらく休暇をもらうから」

「いいよ。医師からも一週間は休んだほうがいいと聞いているし…」

「二週間」


 ずいっ、と。

 立てた指を二本、突き出して。


「二週間、休ませてもらう」

「えぇ、それはさすがに休みすぎじゃない?」

「身体の回復、および今回の働きに対する褒賞。それから」


 顎を上げ、顔に影を落としながらポケットに手を突っ込み。

 およそ王さまに向けているとは思えないくらいの、ガラのわるーい態度で。



「たった今、精神的苦痛を強いられたことに対する賠償。それをほんの二週間の休暇で許してやるって言ってんだから、おとなしく飲んでくんない?さもないと」



 そこで。

 クロさんはあたしの肩をグイッと抱き寄せて、



「僕と、この優秀な秘書が揃って国外逃亡するから。何せこの()、癒すも殺すも自在にコントロールできる神のような力の持ち主だからね。再就職先はイストラーダ軍かなぁ〜。同盟国だし、フォルタニカでもいっか。そしたらロガンスを凌ぐくらいの、最強国家になるんだろうなぁ。ね、レンちゃん♡」



 と、顔を近付けながら言う。

 この人……王さま相手に恐喝するつもりか。お願いだからあたしを巻き込まないでくれ。

 国王陛下は、「うーん」と首を傾げてから、


「それは困るなぁ。しかもクロなら本当にやりかねないし…しょうがない。クロも頑張って問題解決くれちゃったし、何よりも……フェレンティーナさん」

「は、はい」


 あらためて名前を呼ばれ、あたしはクロさんを引き剥がしながら陛下の方へ向き直る。


「今回は君に免じて、彼の要求を飲むことにするよ。私は君に、お礼を言うためにここへ来てもらったんだ」

「お礼……?」

「そう。ルナのこと……本当に、世話になったね」


 あ……

 そう。そうだ。あたしとクロさんのことよりも、まずそちらを解決しなければならないのだった。


「ビーチェから全て聞いたよ。一緒に魔法の特訓をしてくれたんだってね。クロも途中できる匙を投げるくらいに"魔法音痴"だったあの娘を……よく、あそこまで導いてくれました」


 陛下の言葉に「仕事増やしたのはそっちでしょー」とクロさんが文句を垂れるが。

 あたしは、首を横に振って、


「いいえ。あたしは何も。ルナさんが……ルナさん自身が、頑張ったんです。辛い過去と向き合って、何度も何度も練習して。それも全て……」


 顔を上げ。

 横に立つ、ルイス隊長を見上げる。


「ここにいる、ルイス中将にまた会いたいと、その一心で彼女は頑張ってくれたんです。だから…」


 あたしは両手を揃え、深々と頭を下げながら、



「勝手に二人を引き合わせたことは、謝罪します。罰を受ける覚悟もできています。だから、どうか……ルナさんとルイス中将がまた、同じ時間を過ごすことを、認めてはいただけないでしょうか…?」



 誠心誠意、訴えた。

 頭を下げているから、陛下がどんな表情をしているのかわからない。

 緊張しながら、そのお答えを待っていると、



「いいよ」

「えっ?」



 それは、拍子抜けするくらいにあっさりとした声で。

 あたしはパッと、顔を上げる。

 すると陛下は、困ったような顔をして笑い、


「と言うより、元から許可するつもりだったんだ。こないだの戦争で成果を上げて、強くなったことをルイスが証明してくれたら……接触禁止令を解くと、こちらでもそういう約束だったんだよね?ルイス」

「え、えぇ」

「でもこの男、いつまで経っても私にその話を振らないから、もう会いたくないのかと思っていたら……単純にビビっていたんだよね。私に許してもらえるかどうか」

「……うす」


 気まずそうに返事をするルイス隊長。

 な、なんと。

 それじゃあ、隊長は隊長でルナさんと再会するために戦地で奮闘していた、というわけか。


「いずれにせよ、ルナの心の問題はなんとかしなきゃと思っていたんだけれど……それは、君がお友だちになってくれたことで解決した。あの娘を救ってくれて…本当にありがとう。父親として心から、お礼を言わせてもらうよ」


 そう言って微笑む国王陛下のお顔は。

 どこか泣き出しそうにも見えて。


「父親としてはもちろん、可愛い娘には好きな男と幸せになってもらいたいんだ。けど……国の最高責任者としては、二人の接触をみすみす許すわけにはいかなくてね。しかしこれで、そのジレンマからも解放されたよ。と、いうことで」


 にこっ、と。

 陛下は、ルイス隊長に笑顔を向けて。


「ルイス。ルナを泣かせるようなことをしたら、即死刑ね☆」

「う…うっす!」


 ビシッ!と敬礼をして、汗を垂らす隊長。

 ああ…この王さまの前では、誰もがこうなってしまうのか。

 それともやっぱり、好きな女の子の父親というものは、誰でも怖く感じるものなのか…?


 どちらでもいいや。だって、



「……よかったぁ…っ」



 心の底から、溢れ出た声だった。

 よかった。二人が会うことを、許してもらえた。

 大好きなルナさんと、命の恩人であるルイス隊長に、報いることができた。


 安堵に胸を押さえるあたしを見て、ベアトリーチェさんが「うふふ」と笑い、


「クローネル指揮官も、こんないい娘さんを泣かせないでくださいね」


 なんて、クロさんに向かって言う。

 しかしクロさんは、



「は?何言ってんの?泣かせるに決まってんじゃん」



 そんな、耳を疑うような返答をして。

 絶句しているあたしの手を引き、身体を寄せると、


「こんな可愛い()の泣き顔、見ずにはいられないでしょ。ていうか、()()()。そのために、二週間も休みもらうんだから」

「は?!ちょ、クロさん何言って……」

「じゃ、そういうことだから」


 戸惑うあたしを無視して、彼は手を繋いだまま謁見の間を後にしようとする。

 いろいろと言いたいことはあったが。



「あっ、あのっ、これからもよろしくお願いします!」



 彼に手を引かれながら振り返り、あたしはとりあえずそれだけを伝える。

 どんどん遠ざかる玉座の上で、国王陛下は、



「なんか、こんな国でごめんね〜」



 と、緊張感のない声音で、こちらに手を振った。


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