表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒猫王子はメイドと踊る  作者: 河津田 眞紀
第5章 舞踏会の夜に
30/45

1.舞踏会の幕開け

 



「……………」



 目を、開ける。

 朝だ。

 舞踏会の日の、朝。


 ゆっくりと、ベッドから起き上がる。

 昨夜はあまり、眠れなかった。


『アリスちゃん』


 あの声が、耳に残っていて。



「…………はぁ」


 考えていても仕方ない。今日は舞踏会の運営側としてもやることがたくさんあるのだ。


 まず学院へ行って、舞踏会の流れを各担当と最終確認。フォスター副学長が手配した音楽団や、会場を飾り付けるお花屋さんの案内もしなければならない。

 それが落ち着いたら昼頃にルナさんのお部屋へ行って、ドレスに着替えさせてもらって。その後、会場に入る。


 もやもやしている暇はない。きちんと舞踏会をスタートさせて、ルナさんと隊長を会わせなくちゃ。


「………そうだ」


 ふと、あたしはクローゼットに目を向ける。

 今日みたいな日のための、とっておきの秘密兵器を、あたしは持っていたじゃないか。

 今こそ、()()の力を借りる時。

 あたしはベッドから降り、少し胸を高鳴らせながら。

 クローゼットから久しぶりに、例のものを取り出した。



 * * * * * *



 午前中に予定していた準備は、全て滞りなく終えることができた。

 クロさんと顔を合わせるのを勝手に気まずく感じていたが、彼は彼で各担当から最終確認を次々に頼まれていたので、あたしと会話することはほとんどなかった。

 そのまま、昼過ぎに会場で落ち合うことを簡単に告げられ、一度別れた。




 そして、今。


「うわぁ…」


 あたしは目の前の光景に、瞳を輝かせていた。

 訪れたルナさんの部屋。そこには。

 ハンガーラックにかけられた色とりどりのパーティードレスが、所狭しと並べられていた。


「さぁ、フェルさんに一番似合うものを選びましょう!」


 と、ルナさんがいつになく張り切った声を上げる。

 その横でベアトリーチェさんも、


「何着でも試着していただいて結構ですので。と言うか、色々と試させてください」


 なんて、人を着せ替え人形にする気満々なテンションで言う。

 ああ、この二人には本当に救われるな。曇っていた気持ちを、晴れやかで楽しいものに変えてくれる。


 あたしたちは、ああでもないこうでもないと(かしま)しく騒ぎながら、ドレスを代わる代わる当て、試着し、その度に髪を結ったり降ろしたりして。




「………決まりですね」


 やがて、ベアトリーチェさんが言いながら額の汗を拭った。

 三人で大試着会をおこなった結果、選ばれたのは…


 黒地に、ワインレッドのリボンやフリルがあしらわれたマレットドレス…所謂、スカート部分の前が短くて後ろが長いドレスだ。

 運営側なので派手すぎず、脚さばきの良い、且つ大人かわいいデザインのものを、ということで、これに決定した。


 色酒場で働いていた時のピンクのドレスとは、まったく雰囲気が違う。確かに魅力的なドレスではあるが…


「こんな大人っぽいの…変じゃないですか?」

「そんな!よくお似合いですよ!サイズもぴったりですし」

「ええ。髪型でもまだ雰囲気が変わりますから。さ、ここへお掛けください」


 ルナさんとベアトリーチェさんに口々に言われ、あたしは半信半疑のまま椅子に座り。

 そのまま、ベアトリーチェさんによるヘアメイクが施され…

 あたしの赤い長髪は、顔のサイドのおくれ毛を残し、全て綺麗に纏められた。



「はい、完成ですよ」

「おお…!」


 ルナさんが、興奮した様子でこちらを見てくる。

 ベアトリーチェさんが後ろから「はい」と手鏡を渡してくれたので。

 恐る恐る、覗き込んでみると、


「……わ…」


 いつもとは違う自分が、そこには映っていた。

 普段はハーフアップにしていることが多いが、編み込んでまとめただけでだいぶ雰囲気が変わる。長めに引いたアイラインと、ドレスに合わせた赤いアイシャドウが、より大人っぽく見せてくれている。


「すっっごく素敵です、フェルさん!ビーチェも、さすがです!!」


 鼻息を荒くして言うルナさんに、ベアトリーチェさんは「素材が良いので」と返してくれた。


「さぁ。指揮官にその素敵なお姿を見せてきてくださいな。きっと見惚れちゃいますよ」

「私たちも、約束のお時間になったら向かいますね」


 二人に、笑顔で見送られ。


「…本当に、ありがとうございます。頑張ってきます!またあとで!」


 いつもより数センチ高めのヒールを鳴らし、会場である広間へと向かった。





 いけない。盛り上がりすぎて、クロさんに言われた時間を少しオーバーしてしまった。

 会場は、ロガンス城の西棟の最上階だ。階段を駆け上がり、あたしは息を切らしながら駆け込んだ。


 すると。

 そこは、まさにお伽話の中のパーティー会場だった。

 広い広い大理石の床はピカピカに磨かれ、天井の煌びやかなシャンデリアが鏡のように映っている。至る所に綺麗な花が飾られ、右側のバルコニーへの出口付近には食事や飲み物の支度が、左側の壁際では音楽団が演奏の準備を進めていた。


「…すごい……」


 クロさんに出会っていなかったら、一生縁のなかった世界だ。その荘厳さを目の当たりにし、今更ながら足が震えそうになる。

 …なんて、ビビっている場合じゃない。クロさんと合流しなきゃ。


 学院側の担当者たちが(せわ)しなく準備しているのをキョロキョロと見回し、クロさんを探す。

 時間に正確な彼のことだから、もうここへは来ているはずだけど…

 と、左を向いて歩いていたら、右側から来た人とドンッ、とぶつかってしまった。


「あっ、すみませ………」


 その相手に謝ろうと、目を向けた、その瞬間。

 あたしは、瞬きも息も、止めた。

 ぶつかった相手、それは…



 裾の長い真っ白なタキシードと、シルバーのネクタイ。

 艶やかな前髪を斜めに分け、少し後ろに流した、普段とは違う髪型。


 そんな、まるで王子様のような出で立ちをした…


 あたしの、恋人だった。



「………………」


 その、あまりの素敵さに。

 あたしは、ただただ見惚れてしまった。


 彼以上に白タキシードが似合う男性が他にいるだろうか。いるなら連れて来てほしい。

 ていうか、髪型もイイ。普段見えないおでこがちょっと見えているところなんか最高だ。可愛すぎる。可愛いのに、かっこいい。かっこいいのに、可愛い。

 嗚呼、好き。大好き。



 ……と、脳内で気持ち悪い惚気を連発している間。

 クロさんの方も、ぶつかったことや遅刻したことを咎めるどころか、何も言わずにじーっとこちらを見つめて。


「………………」


 固まっていた。


 周囲で、大勢の人が準備に急ぐ中。

 あたしとクロさんの二人だけが、時間が止まったように動かなくて。



「…………ぁ…」


 息をすることすら忘れていたあたしが、呼吸を再開すると共に声を少しだけ漏らした、直後。



「すみません!そこ、通ります!!」



 と、大きな楽器を抱えた楽団の人に言われ。

 あたしたちはハッとなって、慌てて道を開けた。

 暫しぼーっと、ゆらゆら運ばれていく楽器を見送ると。


「…あの、クロさん。すみませんでした。遅れてしまって」


 あたしはあらためて、クロさんに謝罪の言葉を述べた。すると彼は、こちらに目を向けないまま、


「…別にいいよ」


 とだけ、短く言った。




 さぁ、いよいよ始まりだ。

 舞踏会の会場まで、あと二時間──



次回から、いよいよ舞踏会本番が描かれます。

これまでのあらゆる伏線を、一気に回収していきます。


ルナとルイスは、無事再会できるのか…

アリーシャの思惑は…

クロが舞踏会の裏で企んでいることとは…

そしてなにより、フェレンティーナはクロとイチャイチャできるのか…?!


最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ