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わたし達のデリバティブ・ウォーズ  作者: 摩利支天之火
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9.わたしも調べてみました。日経平均先物

「何なの、これは」


それは、「デリバティブ商品の例」と題された簡単な表だった。

なんと会社や金融機関ではなくても、個人でも買えるデリバティブ商品の一例だったのだ。

知らない間に、金融派生商品デリバティブがこんなに身近にまで浸透している。

金融商品と言えば、株取引くらいしか知らないわたしにとっては、結構な驚きの事実だ。

でもって、まずは内容を確かめねば。

そこには「株価連動型預金」や「他社株転換社債」など、何のことか分からないデリバティブ商品が記載されていた。

日本語で書かれていればまだいくらかは想像が付く。

株価連動型預金は、多分、日経の株価次第で利率が変わるんだろうなあ。

わたしはそう想像した。

でも、「キャップ付きローン」とか、「カバード・ワラント」って一体なによ。

「リバースフローター債」って美味しいの?

そこに書かれている言葉だけで、わたしは遠い異国の地で迷子になっているかのような気分になってしまった。


「ま、まあいいわ。まずは日本語の題のデリバティブ商品よ、日本語ならきっと分かるはずよ。だって、日本人だもん」

・・・・・・

・・・・・・

・・・・・・


「なによこれ、日本語で書かれているのにぃ」


わたしが最初にクリックしたのは、「日経平均先物」の説明にリンクした部分だった。

説明書きでは、「デリバティブそのものを取引」と書かれ、以下のような説明になっていた。


「日経平均株価指数を対象にした先物取引で、大阪取引所に上場されています。3ヵ月後とか6ヵ月後といった将来の満期(限月*)ごとの日経平均株価を取引します。」


に、日経平均株価指数とはなによ。

先物取引とはなによ。

限月ってどういう意味?


わたしは意味不明の言葉の意味を調べようと必死でググり始めた。


ミャー。


セバちゃんがお腹が減ったという目でこちらを見ている。


「セバちゃん、ちょっと待ってね。もうちょっとで調べ終るからね」


だが、なかなか調べ終らない。

一つの言葉の意味が分かったと思ったら、その解説の文章の中にまた分からない言葉が出て来る。

こうなったら意地ね。


カチッ、カチッ。


わたしは次々と言葉の意味を検索していった。


ミャーァ。


遂にしびれを切らしたのか、セバスチャンがわたしの膝の上に乗って来る。


「んもう、しかたないわね」


わたしはお弁当のおかずのアジフライを半分セバスチャンに分けてあげた。

セバスチャンは、わたしのあげたアジフライをぺろりと平らげる。

どうやらそれで当面は満足したらしく、喉をゴロゴロ鳴らしながらわたしの膝の上で丸くなった。

このチャンスとばかりに、わたしはクリック、クリックを繰り返す。


・・・そして分かったこと。

それは信じられないことだった。

わたしの理解が間違っているのだろうか。

おせいじにも、あまり優秀とは言えないわたしの灰色の脳細胞が間違った認識をしている可能性は十二分にある。

テストで、絶対的な自信を持って書いた答えが間違っていたことなど、それこそ数えきれないくらいだ。

でも。

でも、もしわたしの理解したことが正しいのならば、わたしの住むこの世界は、いつの間にか不条理の世界に・・・暗い暗黒面に落ち込んでいることになるんじゃあないかしら。


わたしの解き明かした「日経平均先物」とは、ある日の東京証券取引所に上場している日本の代表的な会社225社の株価指数の平均額を100として、例えば3か月後の決められた日の日経平均株価指数がいくらになっているかを予想して売買契約をするものだ。

でも、日経平均という会社は存在しない。

あるのは、1部上場の日本の大会社・・・富士通だとかトヨタだとかいう大会社の株価の平均という実体のない数字だけ。

それをあたかも一つの会社のように仮定して、今の株価平均額で購入する。

そして例えば3か月後の決済の日その買った架空の株を売るのだ。

日経平均株価が上がっていればもうけ、下がっていれば損ということになる。

日経平均株というものは存在しないから、逆に最初に日経平均を売ってもいい。

定められた決済の日・・・限月と言うのだそうだけど、その日経平均を買うことになる。

今度は逆に、売った時より買った時の方が下がっていれば利益となる。

もともと架空の株で、持ってもいない架空の株を先に売るのだ。

売りと買の数は必ず一致することになる。

これは投資じゃない。

こんなもの金融とも言えない。

だって、投資しようにも投資する先が実体のない225社平均株価でしかないからだ。

賭け事。

ギャンブル。

ただ単にお金のかけをしてやり取りしているだけ。

誰かが利益を上げれば、必ずそれと同額の損をする人がいる。

これが金融なの?

これを国はこれを資産運用と言っているの?

こんなの、競馬や競輪と一緒じゃない。

馬券を外す人のお金が、馬券を当てた人の懐に入る。

そういうことよね。

わたしは唖然としてしまった。

でも、「やざしいデリバティブ」のHPには、「これがデリバティブだ」みたいな書き方になっている。

しかも、HPの冒頭には「金融商品には株式、債券、預貯金・ローン、外国為替などがありますが、これら金融商品のリスクを低下させたり、リスクを覚悟して高い収益性を追及する手法として考案されたのがデリバティブです。」と書かれている。

本当だろうか。

少なくとも、日経平均先物を見る限りではそうは思えない。

何だか、頭がくらくらしてきた。


将来有望な会社があれば株を買ったり社債を買ったりして投資するのが金融と思っていた。

お金を投資された会社は、そのお金で工場を立てたり、商品の原料を購入したりする。

そしてその商品がヒットすれば、会社に利益が上がるし、株主には利益に応じた配当がされる。

それが私の知る金融のはずだった。

だけど・・・この金融派生商品デリバティブというのはそんな前向きの未来ではなく、会社の発展などまったくお構いなしの世界のように思えてならなかったのだ。

少なくとも、インターネットでほんの少し検索しただけでそう思ってしまった。

本当にそうなのだろうか。

わたしの理解、間違っていないよね。


「セバスチャン、あんたどう思う?」


わたしは膝の上で丸まって眠っているセバちゃんに声をかけた。


ムニャー。


寝ていてもセバスチャンはわたしの言葉にきちんと返事してくれる。

なんていい子なんでしょ。

わたしはセバスチャンの喉を撫で上げた。


ゴロゴロゴロ。


心休まる声が聞こえる。

それを聞くと、わたしも少しはリラックスした気持ちになってきた。

そうだ。

明日、夢見先輩に意見聞かなきゃ。

意見と言うより、わたしの調べた結果が間違っていないかどうか確かめるんだけど、夢見先輩なんて言うかな。

そんなの常識でしょって言われないだろうか。

わたしは、いつの間にか夢見先輩をすっかり信頼している自分に気づいた。


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