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わたし達のデリバティブ・ウォーズ  作者: 摩利支天之火
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27.不審なワゴン車

 学校は小高い丘の上にある。校則では帰宅時の坂道は自転車から降りることになっている。

 確かにけっこう急な坂なので、このまま自転車に乗っていたのではスピードが出過ぎて、過去にも事故があったと聞いている。

 わたしは高校の敷地を出ると、その前の下り坂を自転車を押していった。

 あっ、はるか先にゆかりたちが歩いているのが見える。

 その隣に居るのは、とてつもないのっぽの謂越(いいこし)君だった。

 よかった、仲よく一緒に帰宅しているじゃあないの。

 わたしは、ほっと胸をなでおろした。

 取っ組み合いの喧嘩でもしていたらどうしようと思っていたけど、どうやら杞憂だったみたい。


 「あれっ?」


 その時わたしは気づいた。

 県道の道沿い、丁度校舎の建っている丘の下辺りに、黒塗りの大きなワゴン車が止っているのを。

 この場所は、越南(おごなん)高校しかない場所である。

 丘の下は、県道の他には畑と田んぼしかない。

 300メートルくらい離れたところにコンビニはあるけれど、ワゴン車が止まっている場所は、道が広くなってはいるものの、普段車がとまるような場所ではない。

 考えられるのは、誰か生徒のお迎えに父兄が来ていることだったけれど、わたしはそのワゴン車から鋭い視線が自分に注がれているのを感じた。

 いや、そんな気がした。

 わたしは、目立つ外観のせいで、小さなころから人々の視線の的になっていた。

 好奇の視線や驚きの視線。

 その視線がたとえ背後からであっても、なんとなく見られているなと感じてしまう。

 自意識過剰と言えばそうなのかもしれないけど、とにかくわたしはその視線を感じた。

 きっと、気のせいよ。

 わたしはそのバカバカしい妄想を振り払おうとした。

 さっき、自転車に違和感を覚えたばかりだ。

 その違和感も、だいぶん前に自転車屋さんが修理した跡を、今更ながら気が付いただけ。

 体調悪いのかなあ。

 何だか被害妄想に囚われているんじゃあないのかなあ。

 そう思いながらも、わたしはワゴン車の方を見降ろしながら自転車を押した。


 すると、ワゴン車が急に動きだした。

 何だか、わたしがそのワゴン車をじっと見ていることに気づいて逃げ出したような感じ。

 運転席以外の窓ガラスがないタイプのワゴン車だ。

 現金輸送なんかによく使われるやつ。

 でも、現金輸送車の場合は白地の車体に警備会社のマークがデカデカと書かれている物が多い。

 車の屋根にもマークが描かれているのが現金輸送車。

 そのマークは、万が一現金輸送車が強奪された場合、ヘリコプターで追跡しやすいように、警備会社のマークとナンバーが書かれていると聞いたことがある。

 だが、このワゴン車は全体が黒一色で、なんとなく禍々しい感じがする。

 そのワゴン車はウィンカーも出さず、ライトを付けると、毛呂山町の方へと走り去っていった。

 まさか、女子高生を盗撮?

 なんとなく、そんなことを思わせるような急発進ぶりだった。



 家に着くと、珍しくママが先に帰ってきていた。

 玄関の明かりが点いているので、それと分かる。


 「ただいまあ」


 わたしは、玄関の扉を勢いよく開けた。


 みゃあー。


 すぐにセバちゃんがわたしを迎えに飛び出してくる。


 「お帰り、今日は遅かったのね。すぐにごはんにするわ」


 セバちゃんを抱っこして居間に入ると、台所からママが声をかけてきた。


 「うん、今日部活で遅くなっちゃった」

 「あらそう。そう言えばさくら、部活何に入ったの? やつぱり吹奏楽部?」


 そう言えば、このところママは仕事でけっこう遅くなっていたので、学校のことや部活のことなどはまだ話していなかった。


 みゃーあ。


 セバスチャンがわたしの足にまとわりついて、ごはんの催促をしてくる。

 わたしの帰宅がいつもより遅かったから、お腹すかしたんだ。


 「あっ、セバちゃん、ちょっと待ってね。着替えて来てからね」


 セバスチャンのごはんの用意はわたしの役目だ。

 わたしは鞄を持って、2階の自分の部屋に行った。


 スウェットの上下に着替えてから居間に戻ると、わたしは戸棚からキャットフードを取り出し、セバスチャンの餌皿に盛りつける。

 セバスチャンはよっぼどお腹がすいていたのか、わたしの横に来て、その餌皿を食い入るように見つめている。


 「はい、いいわよ。召し上がれ」


 ミャヤヤミャミャーム。


 最近のセバちゃんは、ご飯を食べる時に、いつもこんなおかしな鳴き方をする。

 変な子。


 「さくら、こっちも食事の用意が出来たわよ。一緒にたべましょう」

 「はーい」


 わたしは自分のご飯を一生懸命食べているセバちゃん所から立ちあがって、ダイニングテーブルに向かった。


 「わあ、ハンバーグだ」


 食卓には予想もしていなかったハンバーグが美味しそうなデミグラスソースをたっぷりと付けてお皿の上に鎮座していた。


 「わーい。サイボクのハンバーグだね、ママ」

 「そうよ。この間買ってきたの」


 サイボクハムという食肉専門メーカーは、ここ毛呂山町から車で30分くらいの日高市にある。

 売りはゴールデンポークのハムやウィンナーなんか。

 もちろん、普通にスライスした薄切りの肉なども売っている。

 なんでも、ここのメーカーの製品は、ドイツで開催されるDLG(ドイツ農業協会)の国際食品品質競技会で何度も最優秀ゴールド賞を受賞しているつわものだ。

 獲得した金メダルの数だけでも1000個以上って言っていた。

 本場ドイツでだよ。

 凄いことだと思う。

 味はもう、天下一品。

 普通のスーパーで売っている豚肉は臭くてダメというママでも、このサイボクハムの豚肉だけは美味しそうに食べるくらいなの。


 「いただきまーす」


 わたしは箸を取った。


 「うーん、美味しい」


 一口、口に入れただけで、濃くて透き通った美味が口中に広がる。

 肉汁など余分な物はあまりない。

 ゴールデンポークの上質な赤身肉を使っているから、流れ出る豚油で辟易してしまうこともない。

 本当に美味しいハンバーグ。


 「で、部活は何に入ったの?吹奏楽部だったら、お揃いの制服とか必要なんでしょ?」


 ハンバーグを口に入れて陶酔状態のわたしに、にこやかな笑顔のママが聞いてきた。

 そうだ、まだデリ研のこと、言っていなかったっけ。


 「えーとね、デリバリティブ研究会っていう、今の金融の仕組みを研究する同好会」


 そう答えたとたん、ママの顔から笑顔が一瞬で消えたのが分かった。


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