23.ジョン・ロー破たんのきっかけ
「フランスの30億から45億ルーブルもあった巨大な負債である国債は、僅か3年という短期間でほとんどが回収されてしまったの。これというのも、ジョン・ローの3つの政策、貨幣改鋳と紙幣の発行、そしてインド会社の株式発行でなのよ」
さ、3年。
僅か3年で45億ルーブルもの国債が消えた!?
45億ルーブルって、外国の、しかも昔のお金の単位だからピンと来ないけど・・・さっき確か1億5000万ルーブルで700億円相当とか言っていたわよね。
えーと、45億ルーブルは、1億5000万ルーブルの30倍だから、700億円×30倍は・・・・。
きゃっ、2兆1000億円!!
「でも、国債が株式に形を変えただけですよね。お金の総額は変わらず、ルイ王朝は相変わらず30億ルーブル近い借金を抱えたままなんじゃないですか?」
あっ、ゆかり、鋭い。
よく考えたら、その通りのような気がして来た。
流石に2兆円を超えるお金を、チャラに出来る訳がないような気がする。
日本で言うならば、1000兆円もの国債が全てNTTの株式に変わってしまうようなものだからだ。
それと同じように、国策会社であるインド会社は、30億ルーブルもの負債を抱えることになるんじゃあないかしら。
つまりは、負債の付け替え。
結局は、30億ルーブルはいつまでたってもなくならない。
「ちょっと違うわね」
夢見先輩が言った。
えっ?
違うの?
「株式は国債とは違って、負債ではないのよ。国債は満期が来たら元本を返済しなければならない義務を持つけど、株式の元本は返済の義務はないの。株式にあるのは出資金に見合った配当だけ」
あっ、そうか。
30億ルーブル相当の価値を持つ株式だけど、元本は返済する必要がないんだ。
もし、会社の業績が悪化し、配当が0ルーブルになったとしても、更にもっともっと業績が悪化して会社が倒産しても、株式の価値は0ルーブルになってしまうだけ、30億ルーブルもの借金が残る訳でもない。
株主は自分の出資した金額の範囲内でのみ責任を負うという株式会社の原則に従うならば、文句は言えない。
むっ、むむむっ。
あ、頭いい。
っていうか、何だか騙されている気分。
確かに、この方法だと巨大な国債の借金がなくなる。
でも、いいの?
これでいいの?フランス国民。
会社が潰れれば、資産価値0円・・・じゃなかった、0ルーブルになっちゃうんだよ。
「でも、それより大問題だったのは紙幣の発行のほう、王立銀行の自己資本・・・つまり用意している正貨である金貨や銀貨は当初600万リーブルで、新紙幣の発行・・・これは金貨や銀貨と交換できるという兌換紙幣だけれども、1200万リーブルだったの。自己資本比率50%ね。ところがジョン・ローの設立したインド会社にも暗雲が漂い始めた」
ほらね。
わたしは思った。
うまい話は大抵、詐欺しかない。
元本保障、配当率20%とかいう投資話が来たら、それは詐欺か、詐欺か、詐欺だ。
女子高生のわたしだって知っている。
「それは、インド会社の株式があまりにも人気を博したから来るものだった。さっきインド会社の株価が高騰したという話をしたけれど、配当率は確かに額面500リーブルに対しては40%だったわ。でも、その株かがあまりにも高騰した結果、株式時価に対する配当率は1.1%にまで下がってしまっていたの。そのため、今度はインド会社の株の売りがどんどんと多くなっていった。そこでジョン・ローは危機感を覚えたのね」
「危機感って、株が安くなることが何故そんなに危機感を覚えたんですか?」
「それはね、フランスの好景気がインド会社の株式の高値に主な要因があるとジョン・ローは理解していたからと言われているわ。とにかく、ジョン・ローは下落する一方のインド会社の株式の下落を防ごうとした。利益がそれなりに上がっている会社なんだから、それは当たり前だったかもしれないわね。だけどその下落する株式を守るために、突拍子もない手に出たの」
突拍子もない手って・・・株が下落する時にそれを防ぐ方法はあまり多くない。
一番確実なのは、お金をどこからか工面して株式を買い支える方法だ。
でも、そのお金、どっから持ってきたのだろう。
また赤字国債を発行したのだろうか。
いや、天才ジョン・ローのことだから、何かわたし達が思いもつかない方法を取ったのに違いない。
わたしはそう思った。
「それはね、インド会社と王立銀行を統合すること」
「えっ?銀行と貿易会社を一緒にしちゃったんですか?いったい何故?」
素人目にも、まったく業種業態の違う二つの会社を一緒にすることの意味が分からない。
というか、突拍子過ぎて、やっていることの意味が分かんない。
まさかの自暴自棄?
破れかぶれになったの? ジョン・ロー。
「ジョン・ローはインド会社と王立銀行の株を一つにしたわ。そして、発行済みのインド会社と王立銀行の株式を無制限に9000リーブルの王立銀行券で買い取ると発表した」
「えっ?ってことは・・・」
「そう、ジョンローの目的は、インド会社の株式を高値安定させること。そしてその為の手段として、王立銀行とインド会社を一緒にさせ、株式買い取りの為の王立銀行券をどんどん発行させることだったの」
「ええっ、そんなあ、だって、王立銀行の持っている金貨は600万リーブルなんですよね。それ以上に大量に王立銀行券を発行しちゃったんですかあ?」
「そうよ。しかもその発行額たるや尋常な物じゃあなかった。まるでタガが外れたように王立銀行は紙幣を発行し、僅か数か月で発行残高は26億9640万ルーブルにもなったわ」
「に、に、26億・・・」
正にタガが外れたどころの話じゃない。
1200万リーブルの紙幣が約27億リーブルに増えたのだ。
つまり、金貨と引き換えられる兌換紙幣が、留まるところを知らず発行されたのだ。
「そう、その約27億ルーブルに対して、王立銀行の自己資本比率はわずかに0.22%になった」
「それじゃあ、誰かが金貨と交換せよと銀行券を持って来たら、支払えないじゃないですか」
いくらなんでもやりすぎだよ、ジョン・ロー。
「そう、今さくらさんが指摘した通りのことが起こったわ。ロー銀行の設立から4年後、フランス貴族のコンティ公ルイ・アルマン2世が2台の馬車に王立銀行の発行した紙幣を満載して王立銀行に現れたわ」
わたしは唾をごくりと飲み込んだ。
やっぱりだ。
やっぱり新紙幣に危機感を覚えた人が居たんだ。
「コンティ公はその馬車いっぱいに積まれた紙幣と、金貨との交換を要求したの」
「で、どうなったんですか・・・やっばり支払えなかったんですか?」
だが、夢見先輩の答えはわたしの予想と違っていた。
「いいえ、確かに紙幣と交換されたわ。ただし、馬車2台にいっぱいになったというから、金貨ではなく銅貨で支払われたとの話もあるわね」
「なあんだ。じゃあ、ジョン・ローはかろうじて窮地を逃れたわけですね。でも、そのコンティ公って、よっぽど先見の明がある人ですね。王立銀行券の危うさを推理して、誰よりも真っ先に行動したんですから」
「いえ、コンティ公ルイ・アルマン2世は甚だ評判の悪い人物よ。卑劣漢で、金を儲けるためなら、なんだってやったと言われている。何しろジョン・ローの弟子を自認し、彼の取り巻きの一人で、巨万の富を築いた人物だったんですから」
ガーン。
そうだったんだ。
詐欺師仲間の一人だったんだ。




