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怪奇!N村湯けむりの事件簿(3) ~黒文字とぶ厚い羊羹~

UMAが出没するN村に向かったマイミたちは、謎の黒い影の襲撃を受けるも、間一髪のところで生き延びた。あの影の正体は何だったのか、グレイと熱い議論を交わしている最中、ゴロゴロと音を響かせて近づく何者かに気づいたのである。

そして、その後。




「まさかあのゴロゴロという音が、年に一回のメンテナンスを終えて町工場からN村に戻ってくる除雪車の大型の車輪の音だったとはな」

縁側に座ったグレイが説明的な台詞を吐き終わると、お茶を啜った。


「しかも除雪車を運転していたのが、N村の有力者で、未確認生物について通報していた佐倉さんご本人だったとは、偶然ですね」

マイミはグレイを補足する台詞を吐きながら、同じくお茶を啜った。


「そしてその佐倉さん家でお茶までご馳走になっているという……」


会話の途中で、奥から佐倉さんの奥さんが現れた。


「何も無いけど、羊羹でもどうぞ」

「あら、これはこれは申し訳ないですね。こんなに分厚く切っていただいて」

「つぶ餡ですけど、お口に合うかしら」

「大丈夫です、むしろ好物です」


マイミは分厚い羊羹を黒文字で切り分けると、口へと運んだ。


それが上等な羊羹だということはすぐに分かった。

羊羹だけではない、佐倉家は古めかしい日本家屋だったが、部屋は何部屋あるのか数えるのが大変なほどで、庭先にはBMWとアストンマーチンとハマーが並んでいる。

マイミたちを拾ってくれた除雪車も、メルセデス製だった。

それらを見れば、佐倉家が相当な資産家だということが伺える。


下界から閉ざされた寒村だと思ってやってきたが、ちょっと認識が違ったようだ。

この情報が、事件全体に何か与える影響があるのだろうか。マイミはそんなことを考えながら、羊羹を食べ進めた。


ふと見ると、グレイが羊羹の皿を眺めたまま、固まっている。


「食べないんですか?」


その言葉に、グレイは肩をすくめると、自分の皿を指差した。

「竹の楊枝が無いみたいなんだ」


(……竹の楊枝、だと?)

マイミは心の中で思った。黒文字も知らないのかと。

だが、確かにある程度の教養ある人間でなければ、あの竹楊枝を正式には黒文字と呼ぶ事を知らないかも知れない。馬鹿にした言い方にならないよう、気をつけねばと自らを戒める。


マイミはグレイの方に微笑みを向け、口を開いた。


「まったく、黒文字も知らないのか」(そうね、奥さんに持ってきてくれるよう頼みましょう)


マイミの発言に、グレイが眉をひそめた。


「……黒文字?その竹でできた楊枝を黒文字と呼ぶのか」

「しまった、心の声と実際の言葉が逆だった」

「何だって?言ってる意味がわからないな」

「いいんです、気にしないでください。あたし、昔からこうなんです。言わなくていいことが口をついて出て、相手をコールスローサラダみたいにズタズタにしちゃうんです」


グレイは無言で片眉を上げたまま、マイミの方を見た。


「ふん……。そんなもんなのか」


言うと、羊羹を手で掴んで口の中に放り込む。

グレイはまるで気にしている様子が無かった。


思えば、この男にもまた心が無い。


初めて感情らしい感情を見せたのは、自分の銃を満載した車が山から転げ落ちた時くらいだ。死を恐れないこの傭兵は、自分の身を守るための武器以外には興味が無いようだった。


「お待たせしました」


二人の背後から声が聞こえた。


振り返ると、白髪の老人が正座をしている。


佐倉さんだった。


「霧崎さん、グレイさん。お二人のお目当てのものが現れましたよ。中庭の方へお越しください」


マイミはグレイと、顔を見合わせる。


「いよいよですよ、グレイさん。準備は大丈夫ですか」

「困ったことに、銃は無いんだがね」


そう言うと、グレイは両手を挙げてみせた。


マイミもグレイも、持ってきた荷物一式は四輪駆動車に乗ったまま、山の急斜面を転げ落ちてしまっていた。それぞれ、財布も本日の着替えすらも無い状況だ。


「あ、いやグレイさん」

佐倉さんが割って入る。

「あれは、大丈夫だと思いますよ。特に悪さをするわけじゃない。ただ……」


佐倉さんのもったいぶった言い方が、気になった。

「ただ、何なんですか……?」


マイミの質問に、佐倉さんはニヤリと笑った。


「あれは、世界を変えるかも知れませんね」



つづく

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