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閉鎖都市ノリリスクの逆襲(3) ~ロシアの思惑~

「霧崎マイミ。あなたを逮捕します」


「えっ?」


戦闘服を着込んだ兵士が、マイミの前に進み出るとそう言った。


マイミはあんぐりと口を開けて聞き返したが、相手は固いアクセントで同じ言葉を繰り返しただけだった。


「残念だが、そういうことだよ同志キリサキ」


ロゴスキン大佐は悲しそうな顔でかぶりを振る。


「君をこの街に送り込んだボスは解任されたんだ。同時に国家危機調査室は速やかに解体され、君の立場は宙に浮いている」


「なぜ、そんなことが……」


「ニュースは見なかったのか?同志キリサキ。君の国は今、大変なことになっている」


ロゴスキンはウォトカのおかわりをグラスに注いだ。


「龍が暴れ出したんだ。出雲の駐屯地は壊滅し、ヒロシマから向かった部隊も半壊状態だ」


「まさか」


「本当だよ。アメリカも米軍最強の第七艦隊を繰り出したが返り討ちにあった。ワスプ級揚陸艦とミサイル巡洋艦二隻が轟沈だよ。第二次世界大戦以来、米海軍が攻撃によって艦船を喪失するのは初めてらしいな」


マイミは言葉を失った。第七艦隊には、グレイとヴィンセントが帯同していたはずだ。


「龍に対する攻撃を強行に主張したのが、国家危機調査室長であり、官房長官である甘粕氏だ。作戦を実施するにあたり、幾つか不正な手段を用いていたらしいな。その責任を取る形で更迭されたそうだ」


暖かい部屋の中にいるというのに、マイミは震えが止まらなかった。


ロシア側が情報統制を行っているこの閉鎖都市の中にあって、公的な身分を失うと言うことがどれほど危険なことか、仮にも情報機関(インテリジェンスコミュニティ)の一員である霧崎マイミはよく知っていたからだ。


「私は……どうなるんですか」


「さあな。モスクワに送って対外情報庁あたりに処遇を決めてもらうのが筋なんだが……」

ロゴスキンはにやりと笑った。

「あんたと取引することもできる。特に、あんたが外交伝書使(クーリエ)に持たせてこっそり持ち込んだ弾丸に興味があるんだ」


マイミは不意に、この酒好きの老いた将校が本当は見た目よりも随分と狡猾な人物なのではないかと予感した。


霧崎マイミの灰色の脳細胞が高速で回転し始める。


「……ロゴスキン大佐、あなたは何を知ってるのです」


「さて、あんたが呪いの銃弾を携行していることぐらいしか知らんよ」


マイミは今起きていることの背景について考えていた。マイミがヴィンセントの作った銃弾をロシア国内に持ち込んだことは、ロゴスキンが言うように秘密事項だ。外交伝書使(クーリエ)の外交行嚢がロシア側にも検閲することができない特性を利用して、秘密裡に運び込んだのだから。


この男は、カマをかけている。


その裏にある事実は……。


「ロゴスキン大佐、あなたたちはクリーチャーを倒せる銃を見つけたのですね」


ウォトカのグラスを傾ける手が止まった。


ロゴスキンの表情から笑みが消える。


「呪いの銃弾を見つけた我々は、それを扱うための銃が必要だと考えた。あなたがたが銃弾を求めているのだとしたら、我々とは逆に、銃を手に入れたのだと考えるのが自然だ」


「驚いたな、同志キリサキ」


ウォトカのグラスが再び空になった。


「だが、その問いに対して答える気はないよ。この瞬間、主導権を握っているのは我々なのだからな」


その言葉は正しかった。

今の状況で、マイミがロゴスキンたちに何かを要求できる要素はひとかけらも無い。だが、そのことを認め、態度に表してしまえば駆け引きは不可能になり、ゲームは終わる。

ハッタリでいい。相手を揺さぶり、つけ入る余地を作り出す必要があった。


マイミは口を開く。


「ロゴスキン大佐、駆け引きをするつもりはありませんが……」

敢えて堂々とした態度で、自信に満ちた口ぶりで話を続ける。

「我々には弾があり、銃が無い。あなた方には銃があり、弾が無い。だとしたら、協力し合うのが筋ではありませんか」


「勘違いしているようだな。我々はあなたから弾を接収するだけでいいのだ」


「それでは本当の解決にはなりません。あなたたちは呪いの銃弾にこめられた謎を解いていない」


「……謎だと?」


「なぜ呪いの銃弾はクリーチャーを倒せるのか。そしてそもそも、あのクリーチャーたちは何なのか」


ロゴスキンの表情が変わる。

ブラフが効いている手ごたえはあった。呪いの銃弾の秘密、クリーチャーの正体。それは全世界の人々が知りたがっている謎なのだから。


だがしかし、マイミ自身もその答えは知らない。

このブラフで、どこまで相手を欺けるものか。


「あんたは何かを知ってる口ぶりだが、実は何も知らないんじゃないか?同志キリサキ」


「それはどうでしょう」


マイミの背中を冷たい汗が伝った。

プレッシャーに負けて、思いもしない言葉が口をついて出た。


「私の父親は、霧崎アラタなのですから」


「……何だと?」


「ご存知ですか。二十年前、南極で巨大なクリーチャーと戦い、仕留めた人物です」


ロゴスキンが息を呑んだのが分かった。


次に発言したのは、この部屋を、ノリリスク・ニッケル社を、そしてこの街を支配している人物だった。


「だとすると、君が運命の子だと言うわけか、マイミ」


柔らかな声がマイミの耳を打つ。

その言葉は背後から聞こえた。


振り返ったマイミは、目を疑う。


「少し、話を聞く必要がありそうだね、マイミ」


声の主はアレクサンドル・バシュラチョフだった。




つづく

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