表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/77

怪奇!N村湯けむりの事件簿(9) ~土蜘蛛が来る理由~

建物の奥で女性の悲鳴が響き渡る。


全員が、一斉にそちちらを見た。佐倉さんの寝室の方角だった。


「妻が!」

佐倉さんが叫ぶ。


「グレイさん」

マイミが呼ぶと、台所の片隅にいたグレイが振り向き、頷いた。手には買い物に使う籐かごを持っている。


「やれるだけやっみてよう」

裸のまま、籐かごを手に走り出す。


マイミと、佐倉さんと社員たちが後に続いた。




巨大な蜘蛛が寝室の壁を突き破り、毛むくじゃらの脚で獲物を探っている。佐倉さんの奥さんは恐怖のあまり腰が抜けたのか、ベッドの下に転げ落ちたままで身動きが取れない。


「蜘蛛の目は動く物しか捕捉できない。無暗に動くなよ」

グレイは低く呟く。


「グレイさん、あいつは何だと思いますか」

「あれは多分……土蜘蛛だ」

「土蜘蛛?」

「山に籠って旅人を襲う妖怪の類だ。だが時代を辿ると、歴史の初めにおいて、土蜘蛛は蜘蛛では無かった」


喋りながらグレイは籐かごの中からカセットボンベ式のガスバーナーを取り出した。


「語源は土籠り。中央を離れ、地方で土に籠る者という意味だ。それが意味するのは……」

「朝廷に反逆する者?地方豪族ですか」

「その通り。古来より、日本の怪奇・妖怪の類の正体の多くは、中央での権力闘争に敗れ、地方に落ちていった敗北者たちだ」


マイミがその言葉の意味を考え始めた瞬間、グレイが潤滑油のスプレーを取り出した。バーナーとスプレー、その二つの組み合わせの意味するところは明白だった。


「グレイさん、分かってますか?」

「何が言いたい」

「放火は重罪ですよ」


だがグレイは躊躇せずに着火した。バーナーの火が勢いよく飛び出した潤滑油に着火し、炎の霧が土蜘蛛に吹き付ける。

土蜘蛛は大きくのけぞった。


「潤滑油のスプレーは想像しているより凶悪な武器だ。炎で炙るだけじゃなく、燃料も吹き付けるんだからな。敵を確実に火だるまにできる」

炎に炙られ、土蜘蛛が退いた。グレイがその後を追ってベッドの上に飛び上がる。


「グレイさん、効いてますよ!」

興奮したマイミも、グレイとともにベッドの上に飛び乗る。


「凄い!グレイさん。凄いです」


土蜘蛛が身もだえた。なぜ自分が焼かれているのか理解してないようだった。


「あぁ……グレイさん、もっと激しく!」

「……う、うん。あ……くそ…」


グレイがうめき声を漏らす。

「ダメだ……」


勢いよく屹立していた炎の柱が、しゅるしゅると弱まり、やがて火炎放射器が沈黙した。


「えっ?」

マイミが目を剥いた。

「まさか、もう終わりなんですか?」


責めるような口調で、グレイの肩をグラグラと揺さぶる。

「ちょっと、幾らなんでも早くないですか?もう終わっちゃうなんて」


グレイはベッドの上で、裸のままうなだれている。

「もうちょっと頑張ってくださいよ、添え木を当てれば何とかなる」

「これ以上は……ダメだ」

「そんなぁ、こんなに早く終わっちゃうなんて期待外れだわ」

「霧崎さん……ちょっと言い方を考えてくれないか。男は傷つく」


その時、佐倉さんが叫んだ。


「二人とも、危ない!」

火に炙られ、怒り狂った土蜘蛛の一撃がベッドを打ち砕いた。間一髪、グレイがマイミを抱えて飛び退く。


「くそ、みんな下がれ。もう一度、退却するんだ」

グレイが指示を出した。一行がもたもたと廊下へと出ていく。


「くそ、こんなことを繰り返してたら、いずれは隠れる場所さえ失ってしまう」

「グレイさん、後どのくらいであれば持ちこたえられますか?」

「土蜘蛛を怒らせてしまった。夜明けまで持たないかもな」


だがその時、マイミはとある音が近づいてくるのに気付いた。


「……どうした、霧崎さん。なぜ、バリ土産のお面みたいに気持ち悪い顔で笑っている」


マイミは言い返さなかった。まっすぐに玄関へと向かう。


事態を打開するための突破口が、すぐそこまで来ていたからだ。






つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ