↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄されたデバフ令嬢は、無敵の厄災をじわじわ裁く ~一撃の火力はゼロですが、私の状態異常は罪深い方ほどよく効くようです~  作者: ランダムアクセス
第2章 辺境の調律者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/50

第12話 聖女見習いは納得しない

「こんなの……あんまりです! 人権侵害です! 聖光の教えに対する冒涜です!」


 グレンヴェルド城の調律室に、見習い聖女ミリア・フェンの震える抗議の声が響き渡っていた。


 金髪のツインテールを揺らし、ミリアは机の上の戦闘記録報告書と、目の前で全身に痛々しい包帯を巻いたガルドを交互に見つめていた。その大きな青い瞳には、激しい怒りとともに、味方の苦しみを看過できない純粋な涙が滲んでいる。


「味方をわざと回復せず、倒れたまま放置した上に、紙切れ一枚で無理やり蘇生させて即死を繰り返させるなんて……! まるで処刑人のやり方です! 人の命を何だと思っているのですか!」


 怒りと悲痛さで頬を紅潮させるミリアに、私は優雅に紅茶のカップを傾けながら答えた。


「あら、ミリア様。紅茶のおかわりはいかがかしら?」


「誤魔化さないでください! 私は大聖堂から正式に派遣された治癒術師です! 苦しんでいる人を目の前にして、このような非人道的な戦術を見過ごすわけにはまいりません!」


「おいおい、聖女様、落ち着けって」


 包帯を巻いたガルドが、苦笑いを浮かべながら口を挟む。


「確かにあの時は俺も死ぬほど絶叫したがよ……結果的に、俺は今こうして五体満足で生きてる。あの四十八時間で、辺境兵は誰一人死んじゃいねえんだぞ」


「それは結果論です! 治癒の基本は『傷ついた者をその場で癒やすこと』です! 苦しんでいる味方を放置するなんて、信仰の徒として絶対に許されません!」


「では、ミリア様」


 私は静かにカップをソーサーに置き、棚から一冊の古い分厚い帳簿を取り出して机に広げた。


「こちらは、王都から派遣された歴代の治癒部隊と討伐隊の公式損耗記録ですわ。どうぞご覧になって」


「……え?」


 ミリアは怪訝そうに帳簿を覗き込んだ。


 『三年前、モルゴス級討伐戦――聖光魔導士五名帯同。戦闘中に前衛を治癒した瞬間、生じた魔力圧に魔獣が反応。治癒術師二名が即死、前線崩壊により死者三十四名』。

 『一年前、死灰の森――治癒部隊が負傷者を救護中に敵意を集中され全滅。生存者ゼロ』。


「……っ!?」


 ミリアの顔から、さっと血の気が引いた。


「魔物は『殺意』と『魔力の圧』に反応いたします。戦闘の最中にまばゆい治癒魔法を放てば、魔獣の敵意は一瞬で治癒術師へ跳ね上がり、前衛の防衛ラインは一瞬で崩壊いたしますの」


 私は静かにミリアを見つめた。


「私の戦術において、ガルド様の負傷をその場で治さなかったのは、彼を見捨てたからではありません。敵意の計算を狂わせず、結果として彼と周囲の全員を確実に生かすための、唯一の最適解だったからですわ」


「で、ですが……! だからといって、味方の苦痛と死を前提にしたやり方を『最適解』だなんて呼びたくありません! 陣形を工夫して、治癒の魔力圧を抑える方法だって……!」


「ではミリア様。その工夫が現場で破綻した際、失われる兵たちの命は、どなたが背負うのですの?」


「……っ!」


 ミリアは言葉を詰まらせ、悔しそうに唇を噛んだ。

 彼女が学んできた大聖堂の「美しい教義」では、目の前の過酷な数字の現実を論破することができなかったのだ。


「……理屈は、分かりました」


 ミリアは俯き、悔しそうに聖杖を握り直した。


「でも……感情としては、どうしても納得できません! 私は私のやり方で、誰も死なせず、誰も苦しませない治癒を証明してみせます!」


「頼もしいことですわ。大聖堂の聖光が、現場の泥にどれだけ耐えられるか――楽しみにしておりますわね」


 私が微笑むと、ミリアはなおも言い返そうと息を吸い込んだ。

 真面目で愚直な、しかし芯のある少女。王都の貴族たちが纏っていた浅ましい偽善とはまるで違う、愚直で純粋な光の志がそこにはあった。


 ――その張り詰めた沈黙を破るように。


 バタンッ!


 執務室の扉が激しく開かれ、辺境伯の側近騎士が息を切らせて駆け込んできた。

 緊迫した気配に、室内の空気が一瞬にして凍りつく。


「エルセリア様、ガルド殿! ヴァルテン閣下より緊急の出撃要請です!」


「何事かしら?」


「領内西部の廃鉱山に、大規模な不法武装集団が潜伏していることが判明しました。……近隣の村から孤児や平民を攫っている、凶悪な人身売買組織『黒蜘蛛会』です!」


 ガルドの顔つきが一変し、大剣の柄に手をかけた。


「人身売買だと……? 王都のネズミどもが、辺境の子供にまで手を出しやがったのか!」


「ええ。しかも情報によれば……この組織の背後には、王都の有力貴族が買い手として関与しているとのことです」


 騎士の言葉に、私の瞳の奥が冷たく冴え渡った。


 ――《罪量刻印(ペイン・スケール)》。


 胸の奥で、天秤の針がカチリと音を立てて傾く。


「参りましょう」


 私は扇を手に取り、静かに立ち上がった。


「人間の罪を調律するのも――ノクティスの役目ですもの」


読んでくださりありがとうございます!


少しでも「面白かった」「続きが気になる!」と思っていただけたら、

ページ下部の


・【★★★★★】での評価

・ブックマーク登録


で応援していただけると、執筆の大きな励みになります!


次回更新も楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RANKING
✨ ランキング挑戦中! ✨
ここまでお読みいただきありがとうございます!
「面白かった!」
「続きが気になる!」
と思ったら、
ページ下部の
ブックマーク追加 と ☆☆☆☆☆ ⇒ ★★★★★
で応援していただけると、
作品のランキングが上がって執筆速度が爆上がりします!
※★1個や2個からでも大歓喜します!
皆様の1票が何よりの励みになります!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。