第五十九話 さて、この後はどうする?
この世界に来て初めて見た魔法。
それは実に見事だったと思う。
『「リターン」、か。名前から察するに、おそらくは転移魔法の類いなんだろうな』
「えぇ、そうだと思います」
『オレも負けてはいられないな。ひとまずは時計の魔法陣を解析しなければならん』
「慌てて身体を壊さないようにしてくださいね」
『あぁ、心配かけるな』
「いえ」
『それにしても、珍しい存在だな?』
「何がですか?」
『触れられても困ることのない女性のことだ。これまで、家族以外にいたかな?』
女性に触れられて蕁麻疹が出なかったのは、姉さんや家族以外では初めてだった。
「あぁ、確かに驚きました。魔族の女性に出会ったのも初めてしたが、いるんですね」
『匂いで『隠形の術』を破ったのも見事だった。どちらにしてもだ』
「はい」
『イヴ殿が使った魔法を転移魔法と仮定するなら、召喚術式もまた転移魔法の類いなんだろうな』
「そうですね。近い、遠いは関係がない。呼び出してみないと、どこから呼び出したかもわかりませんよ、きっと」
『あぁ。だからイヴ殿も、黙秘を貫いたんだろう』
あまり詳しい話はできなかった。だが、再び遭うことを約束してくれたのだから、そのときでいいと僕は思った。
『ところで気づいているのかな?』
「何をです?」
『何かの魔法だと思うのだが、一八くんの首元にな、彼女の血がマテリアルのように埋め込まれているんだが?』
「そ、そうだったんですね」
『再生によってかき消されることがない以上、オレたちがつかうマーカーに似ているのかもしれないな』
確かに痒くなったり、異物感を感じたりはしない。
おそらくイヴさんが僕の近くへ戻ってくるためにつけたものなんだろう。
だから別に、嫌という感じはしなかった。
「阿形さん。このあと、どうしますか?」
『そうだな。魔道具がなくなったこと。同時にイヴ殿がいなくなったことで、あの場はいずれ騒ぎになるだろう』
「そうですね」
『ただな、この世には「隷属の魔道具」とやらでは縛れない者がいることを、思い知らせてやらなければならない』
「はい」
『だからこれから戻って、あの建物を崩してしまおうと思っているが、どうだろうか?』
「阿形さんにしては大胆ですね?」
『オレだってそれなりにだな、腹に据えかねている。やられっぱなしでいられるほど、できた性格ではないからな』
「わかりました。そうしましょう。派手にやったほうが、イヴさんを逃がした痕跡を消せますからね」
僕たちは一度男爵の屋敷へ戻ることになった。
空から見た感じ、まだ大騒ぎにはなっていないようだ。
『隠形の術』をかけ領内ににある、二つ並んだ屋敷の裏側へ降り立つ。
先ほどように奥の屋敷へ。
警備の兵士の横をすり抜けて入る。
『人の気配は入り口の一人だけだなな』
(それならまずは、三階から確認しましょう。二階は牢屋だけのようでしたが、三階はまだ確認していません。もし、魔道具関連の資料があればですね、いただいておきたいところです)
『あぁ、そうしよう』
階段を使い、二階を通り過ぎて三階へ。
予想に反して三階は、二階と同じ形式の牢屋だけだった。
全ての部屋を確認したが、誰もいなかった。
『さて、地下も確認するかい?』
(そうですね。一応、行きましょう)
僕たちは階段を使って地階へ。
薄暗い状態だったが、ただの牢屋だった。
変な臭さもなかったから、ほっと胸をなで下ろす。
おそらくは、地階、二階、三階と、分けて隔離していたものと思われる。
『さて、壊すか。それとも全てマテリアル化してしまうか。どうする?』
(阿形さんに任せます)
『そうか。鉄部は貴重だから、いただいておこう』
阿形さんは蛸腕を伸ばすと、『他食の術』を使ってあっという間に鉄格子を消し去ってしまう。
階段を上がって二階、三階の鉄格子もささっといただいたあと、僕たちは一階へ戻ってくる。
入り口に仁王立ちしている兵士は何も気づいていないようだ。
僕は気づかれることなく横をすり抜けて外へ出る。
気づいていない兵士を見ながら『このあとどうなるんだろう?』と思っていた。




