第72話 残る理由
「もし“元の世界に戻れる”ってなったら……セイは、どうする? 戻っちゃう……のかな」
セイは歩みを緩め、少し考えるように目を細めた。
「戻りたくない……と言えば嘘になるのう」
しばしの間を置き、穏やかな声で続ける。
「あっちには孫のメイもおるし、まだ見れておらん撮りためたアニメも山ほどある。
先は長くないが、幸せな生活じゃった」
「そっか……」
リアナは小さく息を吐き、どこか切なげにうなずいた。
「じゃが、それと同じくらい――いや、今はもっと大切なものを、こっちで見つけてしもうた。
だから、もう少し悩んでもええかの?」
「うんっ、もちろん」
リアナが笑顔を向けると、セイも柔らかく目を細めた。
そうして一行は、湿った地面を踏みしめながら地上へ戻っていく。
駐屯地を抜け、やがて見慣れた街並みが視界に広がった。
「帰りはレンさん、いなかったね」
ミミが小首をかしげる。
「きっと、お忙しいのでしょう」
エリシアが静かに微笑んだ。
ギルドの扉を押し開けると、受付のセレナが顔を上げた。
その瞳がぱっと輝く。
「お帰りなさいませ! 《キラキラ☆おひさま団》の皆さま。依頼は無事に完了ですか?」
「うむ。その報告に来たんじゃ」
セイは笑みを浮かべながら地図を差し出した。
「えっ、もうですか!? すごいです!」
セレナは感嘆の声を上げ、地図を覗き込む。
「……これ、五階層まで描かれてますけど?」
「ああ。二階層の未踏破エリアで見つけた宝箱の中にあった。
実際に確認できた二階層までの範囲は、構造と照らし合わせても驚くほど精度が高い」
「本当にすごい……! これで探索が一気に進みますね!」
「じゃが、わしの見立てでは三階層から魔物の脅威度が一気に上がる。
生半可な冒険者では、命がいくらあっても足りんぞ」
その時、背後から声がかかった。
「みなさん、ここにいらっしゃいましたか。ダンジョンからもう戻られたと聞いて」
振り返ると、鎧に土埃をつけたレンが立っていた。
どうやら急いで来たらしい。
「レンさん!」
セレナが笑顔で迎える。
「ちょうどいいところに! セイさんたちが、ダンジョンの地図を手に入れてくださったんです!」
「地図を……?」
レンは受け取ると、無言のまま目を通した。
やがて小さく息を吐く。
「これは……すごい。五階層まであるとは」
「ああ。二階層までの正確さは確認済みじゃ。
地図はギルドに預けておく。軍でも潜ることがあれば使うがよい」
「助かります。こちらでも写しを取って、すぐに報告します」
レンは真剣な表情でうなずいた。
「想定よりも深い構造……となると、潜む魔物も相当でしょう。
無断で潜る者が出ないよう、厳重に注意喚起しておきます」
「頼む。見たわけではないが、三階層から漂う気配は尋常ではなかった」
「了解しました。……皆さんも、本当にお疲れさまでした」
レンは軽く頭を下げる。
その丁寧な仕草に、セレナも安堵したように笑みを浮かべた。
「報告は以上ですね。あとはギルドで処理しておきます!」
「うむ。では、わしらはひとまず休ませてもらうとしよう」
◇ ◇ ◇
真っ白な空間。
上下も奥行きも曖昧なその場所で、白いうさ耳の少女と、薄く笑みを浮かべた黒耳の少女が丸い卓を挟んで座っていた。
二人の間には湯気の立つポットと、揃いのティーカップ。
音も風もない世界に、紅茶の香りだけがふわりと溶けていく。
「もも神ちゃん。本当に大丈夫なの?
めっちゃ強そうなのが清太郎さんの味方になっちゃったけど」
うさ神は両手でカップを包み、湯気に頬を染めながら問いかける。
「うさ神ちゃん。大丈夫。結局は魔王が復活するかどうか」
もも神はおっとりとした声で答えた。
指先でカップの縁をなぞりながら、琥珀色の液体をのぞき込む。
「でもさ、このままだと賢者のカケラもすぐ集まっちゃうよ? 本当に大丈夫?」
うさ神が身を乗り出すと、長い耳がぴょこりと揺れる。
けれど、もも神は微動だにせず、湯気を見つめたまま淡く笑った。
「もう。うるさいな。カケラは集められても、石にはできないよ。今回は」
柔らかな声音なのに、そこには妙な確信があった。
「たしかにね~。『世界の崩壊の未来を変える鍵となる少女たちの選択』。清太郎さんにはむりだろうな~」
うさ神が肩をすくめてため息をつく。
もも神は口元を押さえ、小さく笑みをこぼした。
「ふふっ」
「あっ、もも神ちゃん、いま勝ったって思った? 残念でした。こっちにはまだ秘密兵器があるもんね~」
「なにそれ? 教えて?」
もも神が首をかしげる。
その柔らかな声色に、うさ神はにやりと笑った。
「ダメ~。まだ教えられないよ」
「けち」
「けちじゃないもん!」
ぷくっと頬をふくらませたうさ神が、カップを置き、もも神の背にそっと回り込む。
「ちょっ……うさ神ちゃん?」
うさ神の指先が、もも神の頬をむにむにと押した。
その柔らかさを堪能するように、うさ神が嬉しそうに目を細める。
「うへへ……やっぱり、もも神ちゃんのほっぺ、気持ちいい~」
「お茶、こぼれる」
「謝るまでやめてあげないよ~」
頬をつままれながら、もも神は小さくため息をついた。
「……うさ神ちゃんは、膨らんでるところないもんね」
「えっ――」
一瞬でうさ神の手が止まる。
みるみる顔が赤くなり、耳の先まで染まっていった。
「またそうやって言うんだから……けっこう傷つくんだからね!」
声を裏返らせるうさ神に、もも神が小さく吹き出す。
そして、もも神は静かに立ち上がった。
裾を揺らすように軽く一礼すると――白い空間の奥へ、ふわりと溶けるように姿を消す。
あとには、まだ温もりの残るティーカップだけが取り残されていた。
「……もも神ちゃん、結局なにしに来たんだろ?」
うさ神は空になったカップを見つめながら、小さくつぶやいた。
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▼ステータス情報
【名前】セイ
【年齢】25(肉体年齢)
【職業】テンプレ詰め込み勇者
【レベル】41
【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/世界法則書き換え/時間停止/魅了体質/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定/精霊感応/状態異常回復/索敵/ホーリーブースト
【同行者】
・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)
- 好感度:好き
- 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり
- 状態:アストラクロスのローブを装備。元気いっぱい
- 補足:セイの「戻りたくないと言えば嘘になる」という言葉に、無意識に不安を感じている
・リアナ(元騎士団の見習い/19歳)
- 好感度:好き(セイの悩むという回答に少し期待をもつ)
- 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ
- 状態:シルクノートの胸当てを装備。少しだけ疲労
- 補足:セイの「もう少し悩んでもいいか」という言葉に、切なさと希望を抱いている
・エリシア(元聖女様/24歳)
- 好感度:かなり高
- 能力傾向:支援・結界・祈祷(神聖属性)
- 状態:アストラクロスのドレスを装備。少しだけ疲労
- 補足:セイの「戻りたくないと言えば嘘になる」という言葉に、無意識に不安を感じている
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