第63話 ネクロス
――夜。
カルナス村の外れは、星明かりに照らされて淡く浮かび上がっていた。
冷たい空気が肌を刺し、吐く息は白く夜に溶けていく。
「では皆さん、よろしくお願いします」
カイルが声を潜め、改めてセイたち《キラキラ☆おひさま団》にアンデッド調査への協力を求める。
「うむ。まずは発生の原因を突き止めねばならんの」
セイは腰の装備を確かめ、ゆっくり頷いた。
「目撃証言では、出現は決まって夜。方角は村の西側に集中しています」
「なら、まずは西から当たるか……」
メリサがすぐに続ける。
「灯りは最小限。声も控えめでいきましょ」
「うん! 気をつけていこうね、メリサちゃん!」
元気に返すミミに、リアナがすかさず小声で制した。
「だから声を小さく、です」
「あ、あわわ……そうだった……ごめん……」
ミミは慌てて口を押さえ、抜き足差し足で一行の後を追う。
そんな調子で村の門を抜け、夜の草原へ踏み出した。
視界を遮るものはなく、風に揺れる草と、まばらに立つ木々が広がるだけ。
「さすがに……すぐ近くにはおらんようじゃな」
セイが畦道の先を見やり、風の匂いを確かめる。
「そうですね。もう少し先――あの丘の向こうも確認してみましょう」
カイルが稜線を指差した。
◇
一行が丘を登りきった、その瞬間。
ふっと風が止む。
耳に残るのは自分たちの呼吸と、草が擦れるかすかな音。
カイルが身を低くし、指先で前方を示す。
「……向こう。徘徊している人影が見えます」
「アンデッドか?」
「ここからでは断言できませんが……おそらく」
月明かりの縁に、ぎこちなく揺れる影。
足を引きずり、虚ろな動きでさまよっている。
一体が通り過ぎると、少し間を置いて、また一体。
同じ軌跡をなぞるように現れては消えていく。
「……あそこは“見晴らしの丘”。村の墓地がある場所だ。俺のご先祖様も、そこで眠ってる」
ジンが目を細めた。
「嫌な予感がしますね」
カイルが低く言い、緊張感を漂わせる。
「うむ。黒魔術で亡骸を操っておるのかもしれん」
「黒魔術……魔法みたいなものですか?」
「ワシも詳しくは説明できんのじゃがな。呪いや死者使い――その類じゃろう」
「お、お化けってわけじゃないよね? だよね?」
ミミが不安げにリアナの袖を掴む。
「操られてるならお化けじゃないですけど……怖いことに変わりはありませんね」
リアナは苦笑しつつ、鞘に手を添えた。
「いずれにせよ、うちには聖女がおる。こういう依頼は相性抜群じゃ」
セイがエリシアに視線を送る。
「はい。死霊系ならお任せください」
エリシアが穏やかに答えた。
「いやいや、エリシアちゃんはそう言うけど、“お化け依頼”なんて嫌に決まってるじゃん!」
ミミが強く抗議する。
「激しく同意です」
リアナが真顔で頷いた。
「ともかく、真相はあの丘の向こう――墓地にありそうですね」
カイルが息を整え、前を見据える。
「そうじゃな。まずは行ってみんと」
「俺が先導する。ついてきてくれ」
ジンが短く告げ、歩き出した。
◇
墓地へ近づくにつれ、空気は濁り、アンデッドの数も目に見えて増えていく。
「遠くからだと分からんかったが……この数、ちと異常じゃの」
セイの言葉に、カイルが険しい表情で頷く。
「はい。間違いなく人為的なものかと。それにしても――エリシアさんの力は本当にすさまじいですね」
墓地の周囲には、数えきれないほどのアンデッドが徘徊していた。
だがエリシアが一歩進むたび、道を開けるようにそれらが退いていく。
彼女の周囲に淡い光が広がり、触れた個体は煙のように消えていった。
「おい、エリシアよ。ずっと“聖女パワー”全開じゃが、大丈夫か?」
「はい。いつも村を守っていましたので、これくらいなら大丈夫です」
セイの心配をよそに、エリシアは平然と答える。
「でもさ! モフルもエリシアちゃんを怖がってたけど、よく消えちゃわなかったよね! モフルって意外と強いんじゃない?」
ミミの素朴な疑問に、リアナが考えるように言う。
「確かに。そもそも“魔獣”って言ってましたし……人の言葉をしゃべってる時点で、けっこうすごいやつなのかも」
そんな会話を交わしながら、一行は墓地の入口へたどり着いた。
◇
「……なんだ、あれは?」
カイルが息を呑む。
墓地の中央――崩れた墓標の間に、墨を流したような“黒い空間”が口を開けていた。
地面の輪郭が歪み、夜の闇よりもなお深い黒を湛えている。
「あの雰囲気……別の空間へ繋がっておるのかもしれんの」
セイが目を細めたその時。
黒い空間がぐにゃりと揺れた。
骨が軋むような笑いが響き、影がにじみ出る。
やがてそれは形を取り、黒衣の長身の男がゆっくりと姿を現した。
その背後には、糸で操られた人形のように、アンデッドの群れが整然と並ぶ。
「さすがに気づかれていたようですね」
「そのようじゃな。そして――アンデッド発生の原因は、あの“でかい骸骨のやつ”で間違いなかろう」
黒衣の男がゆっくりと顔を上げる。
空洞の眼窩から、冷たい光が放たれた。
「お前たちは……何をしにここへ来た?」
地を這う声が夜気を震わせる。
セイが一歩前へ出て、肩の力を抜いて答えた。
「いやー、ワシらはこの周辺の村に住んでおるんじゃがな。最近アンデッドの目撃例が増えておっての。その調査でやってきたんじゃ」
「その原因が私だと言いたいのか?」
「どう考えてもおぬしじゃろう。違うのか?」
黒衣の男がわずかに笑う。
「……まあ、違わないことはない。だが、それが何だというのだ?」
セイは目を細め、わずかに顎を上げる。
「人々が怯えておる。それにな、この墓地は村のご先祖が眠る場所じゃ。勝手に叩き起こされては困る」
黒衣の男はわずかに口角を上げた。
「こちらにも目的がある。やめるわけにはいかない」
「そうか……交渉させてもらうわけにはいかんかのう?」
セイが静かに息を吐く。
「ワシはセイじゃ。おぬしの名はなんという?」
「……我は、魔王四天王・バロル様の配下――ネクロス。交渉の余地はない」
「また別の“四天王”か……一体、何人おるんじゃ?」
「四天王なんだから四人でしょ」
ボヤくセイに、リアナがすかさずツッコむ。
カイルが一歩前へ出た。
「交渉はできそうにないですね。いずれにせよ、魔王の手の者と聞いて、見過ごすわけにはいきません」
仲間たちへ視線を送ると、全員が無言で頷いた。
「いくぞ!」
セイの号令が響く。
「脆弱な人間どもが!」
ネクロスの袖が振るわれ、黒い瘴気が地を這う。
その濁流から、無数のアンデッドが這い出した。
悲鳴のような咆哮が、夜を引き裂く。
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▼ステータス情報
【名前】セイ
【年齢】25(肉体年齢)
【職業】テンプレ詰め込み勇者
【レベル】36
【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/世界法則書き換え/時間停止/魅了体質/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定/精霊感応/状態異常回復/索敵
【同行者】
・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)
- 好感度:好き
- 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり
- 状態:アストラクロスのローブを装備。夜の墓地にビビり気味
- 補足:お化けとアンデッドは別物だと、自分に言い聞かせている。でも結局どっちも怖い
・リアナ(元騎士団の見習い/19歳)
- 好感度:好き
- 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ
- 状態:シルクノートの胸当てを装備。夜の墓地に少しビビり気味
- 補足:「四天王って……ほんとに四人だよね?」と不安になる真面目系天然
・エリシア(元聖女様/24歳)
- 好感度:かなり高
- 能力傾向:支援・結界・祈祷(神聖属性)
- 状態:アストラクロスのドレスを装備。少しだけ魔力消費
- 補足:村を悪霊から守っていた過去をさらりと語る。実はけっこうすごいやつ
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