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第54話 甘い瘴気

 戦場の空気は熱に蕩け、雨の匂いと甘い香りが混ざり合う。


(……まずい。このままでは……!)


 長姉ヴェリカが大きく翅を広げた。

 両腕を広げ、豊かな胸元を誇示するように身を反らす。

 黒い翅がしなり、甘い瘴気が波となって押し寄せた。


 その圧に抗うように、リアナが剣を閃かせる。


「……っ、行く!」


 雷光を帯びた刃が走り、前方の幻惑を切り裂いた。

 だが、その背後にリゼラがすぐさま忍び寄る。しなやかな腕が絡みつき、耳元へ熱い吐息を吹きかけた。


「熱いね……でも、その剣より、わたしの声の方が気持ちいいでしょ?」


「ひっ……や、やめ……!」


 リアナの腕がわずかに揺らぐ。

 その隙を逃さず、三女ティアナの翅が尾のように絡みつき、剣を押さえ込んだ。


「くそっ……!」


 その呻きは、甘い囁きにかき消された。


 セイが即座に飛び込み、拳を叩き込もうとする。

 だがヴェリカが妹を庇うように腕を絡め取り、ぐっと引き寄せた。

 次の瞬間、顔が近づき、鼻先をかすめる艶やかな吐息――それだけで筋肉が痺れ、体が硬直する。


「強い男……でも、少しは楽しまないと損よ?」


 赤い舌が唇をなぞり、誘うような気配を漂わせる。


「っ……ぬ、ぬかせ!」


 セイは歯を食いしばり、気合いで押し返す。だが、心臓の鼓動は否応なく速まっていた。


「ふふ……じゃあ、こっちはお姉ちゃんたちに任せるね」


 ティアナはリアナを絡めていた翅をほどき、艶やかに身を翻す。

 翅がはためき、吐息とともに甘い瘴気を送り込んだ先は――ミミ。


 ミミはすぐに瘴気にあてられ、肩を震わせながら小さく身をよじった。


「……あ、あつ……くるしい……」


「ミミ! しっかりせい!」


 セイが声を張り、駆け寄って肩を強く叩く。

 びくりと身体が揺れ、潤んだ瞳が彼を見上げた。


「……セイ……?」


「意識を戻せ! 一旦、結界でこの瘴気を防げぬか?」


「う、うん……やってみる!」


 ミミは震える指先を組み、必死に集中を取り戻す。

 淡い光が揺らぎ、セイ、リアナ、エリシア、ミミの周囲に透明な膜が展開された。


 結界が張られた瞬間、鼻を刺していた甘い瘴気がわずかに薄らぎ、呼吸が楽になる。


「……ふぅ、助かった……」


 リアナは汗をぬぐい、剣を握り直した。


「よくやったぞ、ミミ!」


 セイの声に、ミミは小さく頷く。


 だが、ヴェリカは艶やかに笑った。


「面白い……けれど、そんな薄皮一枚で私たちを防げると思ってるのかしら?」


 指先が膜をなぞり、ぞくりとした音を立てる。


「ほら……もう震えてる」


 翅の粉が降り注ぎ、結界はじわじわと甘さに侵されていく。


「いやっ……だめ、入ってきてる……!」


 ミミの声が震える。


 セイは結界の内で短く息を吐き、仲間へ視線を走らせた。


「……勝機は三女じゃ。あやつだけ、他の二人より明らかに力が劣っておる」


 その言葉に、リアナとエリシアが同時に頷く。


「勝負は一瞬。ワシが長女と次女の気を引く。その間に――エリシアの祈りで守りを削れ。リアナ、おぬしは一閃で三女を仕留めるのじゃ」


 リアナは剣を握り直し、力強く頷いた。


「分かった……任せて!」


 エリシアも胸の前で手を組み、静かに祈る。


「必ず……支えます」


 そのとき、ミミが悲鳴に近い声を上げた。


「もうダメ、耐えきれない!」


「今じゃ!」


 セイが叫び、同時に飛び出す。


「おぬしらの相手などワシひとりで十分じゃ!」


 挑発の声に、長女ヴェリカと次女リゼラの視線が鋭く突き刺さる。

 ヴェリカは艶やかに笑い、リゼラは苛立たしげに翅を鳴らした。


「ふふ……強がって。いいわ、遊んであげましょう」

「このっ……生意気な!」


 二人が同時にセイへ襲いかかる。

 爪と翅がぶつかり、火花が散る。セイは必死に踏みとどまった。


 その隙を逃さず、エリシアの祈りが光となって三女ティアナを包む。

 淡い光が絡みつき、その動きと防御を鈍らせた。


「今です……!」


 その声に背を押され、リアナが一気に踏み込む。


「はぁああっ!」


 雷光を帯びた刃が鋭く振り下ろされた。


 だがティアナは翅を弾くように震わせ、寸前で身をひるがえす。

 刃は空を裂き、甘い瘴気だけを散らした。


「ふう……あぶない、あぶない」


 余裕を見せ、反撃に転じようと翅を広げるティアナ。

 刹那――リアナが足を返し、刃が横薙ぎに奔った。雷光が一閃する。


 逃れようとしたティアナの胴を、鋭くとらえた。


「あ……っ!?」


 衝撃が走り、彼女の身体が大きくのけぞる。翅が乱れ、甘い悲鳴が広場に響き渡った。


 膝から崩れ落ちる三女。艶やかな笑みは消え、吐息が荒く乱れていく。


「ティアナぁああッ!」


 リゼラの怒号が空気を震わせた。

 翅が唸り、烈風のごとき猛攻となってリアナに襲いかかる。


「くっ……!」


 リアナは剣を構え直すが、圧倒的な速さで繰り出される打撃の嵐に、防ぐのがやっとだった。

 風の刃が肌を裂き、火花が四方に散る。


「このっ……よくも妹に!」


 リゼラの瞳は怒りに染まり、攻撃は止むことなく叩き込まれる。


 だが――


「リゼラ……ちょっと待ちなさい」


 ヴェリカの一声が、張り詰めた戦場の空気を断ち切った。


「なに? もう少しでこいつらを叩き潰せるのに!」


 リゼラが悔しげに睨み返す。


 ヴェリカはティアナを抱きかかえながら、短く告げた。


「まだ生きてる……急げば間に合うわ。連れて帰るわよ」


「……ちっ!」


 リゼラは不服そうに翅を震わせたが、ティアナの身体を抱き起こし、ヴェリカとともに後退していく。


「待ちなさい!」


 リアナが剣を握りしめ、よろめきながらも踏み出した。


 だが、その肩をセイが強く押さえる。


「やめておけ」


「でも――!」


 セイは首を振り、険しい表情のまま言い切った。


「あやつらを追っても勝ち目はない。今は仲間を守るのが先決じゃ」


 その言葉に、リアナの肩から一気に力が抜ける。


「……っ」


 緊張の糸が切れ、膝が崩れ落ちた。

 剣を取り落とし、荒い呼吸のまま地面に手をつく。


「ふぅ……一応、終わった……でいいのかな」


 エリシアが急いでミミに駆け寄り、両手を重ねて祈りを捧げる。


「ミミさん、お気を確かに!」


 光がミミを包み込み、魅惑の痕跡がゆるやかに剥がれていく。


「はっ……なんか、すごく心地いい夢見てたよ……」


 まだぼんやりとした声に、セイが苦笑混じりに叱る。


「しっかりせい。おぬし、泉でもそうじゃったが……惑わされる耐性がなさすぎじゃ」


 そう言いつつも、その顔には安堵の笑みが浮かんでいた。


 広場を覆っていた甘い香りも、ゆるやかに薄らぎ、ようやく静けさが戻る。


────────────────────────

▼ステータス情報


【名前】セイ

【年齢】25(肉体年齢)

【職業】テンプレ詰め込み勇者

【レベル】36(+2)

【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/世界法則書き換え/時間停止/魅了体質/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定/精霊感応/状態異常回復/索敵


【同行者】

・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)

 - 好感度:好き

 - 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり

 - 状態:旅人風の白いワンピースを装備。さらに魅惑に囚われ夢見心地

 - 補足:瘴気にあてられ、エリシアに解除してもらった後も身体は熱いまま


・リアナ(元騎士団の見習い/19歳)

 - 好感度:好き

 - 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ

 - 状態:黒を基調とした剣士風ドレスを装備。魅惑に耐え切ったが、精神的な消耗が激しい

 - 補足:瘴気への耐性はあったが、リゼラに耳元で吐息を送り込まれた感覚が頭から離れない


・エリシア(元聖女様/24歳)

 - 好感度:かなり高

 - 能力傾向:支援・結界・祈祷(神聖属性)

 - 状態:青と白のシスターっぽい洋服を装備。瘴気の浄化で、体力、精神ともに疲弊

 - 補足:聖なる力を使いすぎて、普段より少しだけ情緒が不安定に

ここまで読んでいただきありがとうございます!

「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、下の【☆☆☆☆☆】やブックマーク、ご感想にて応援いただけると、泣いて喜びます。

次の話もぜひぜひ、よろしくお願いします^^

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