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第9話 マイホーム計画

「……手持ちの金じゃと、宿はあと三日が限界じゃな」


 セイは財布を覗き込み、困ったように眉を下げた。

 それを見て、リアナは額に手を当て、深いため息をつく。


「だから言ったでしょ。パン屋で“おまけじゃ”なんて言って、余計なのを買うからよ」


「いやいや、あのときのミミの目を見たか? あんなキラキラされたら、無視できるわけがなかろう」


「うぅ……だって、美味しそうだったんだもん……」


 ミミは小さな焼き菓子を両手で抱え、しょんぼりと肩を落とす。


 結局、節約のため宿は三人で一部屋を取ることになった。

 古びた机を囲み、自然と肩が触れる距離で腰を下ろす。

 部屋の隅に置かれた貸し出し用の湯沸かし魔道具が、チチチ……と不機嫌そうな音を立てていた。


「このままだと、依頼を受けて、宿に戻って、食べて寝て……それの繰り返しね。完全に日銭暮らしよ」


「実際、今のワシらは宿代を稼ぐために働いとるようなもんじゃな」


「ほんとに怖いくらいその通りだから困るのよ……。

 私、もっとこう……スローライフっていうか、のんびりした生活に憧れてたんだけど」


「のんびり……」


 ミミが菓子を見つめたまま、夢見るように呟く。


「お庭にお花が咲いてて、朝はパンを焼いて……たまに冒険に出て、帰ってきたら縁側でおやつ食べるの……」


「そんなの、宿屋暮らしで実現できるわけないじゃないですか、ミミさん」


 リアナの鋭いツッコミが飛ぶ。


「じゃが、庭付きの家……悪くはないのう。家さえあれば、今より出費は抑えられるかもしれん」


「は? 家? 今から?」


「うむ。思い切って、街の郊外に建ててしまうのはどうじゃ」


 リアナは一瞬、言葉を失った。


「ちょ、ちょっと待って。街の外れって……本当に大丈夫なの? 魔物が出るって話も聞くし――」


「ふふん、それなら問題ない。ミミがこの前、“結界を張る魔法”を覚えたではないか!」


「えへへっ。ほんの少しだけど……変なのが入ってこないように、ぽんって張れるよっ!」


「説明が雑すぎる……。“ぽん”って言う時点で信用度が下がるんですけど……」


 リアナはこめかみを押さえて深く息をついた。


「仮に建てるとしてもよ。街の郊外だからって、勝手に建てていいものなの?」


「えっと……それは、のう……」


 セイは言葉に詰まり、視線を逸らす。


「……ほら。やっぱり、そこが問題でしょ」


「……明日、みんなに聞いてみる?」


「そうじゃそうじゃ! みんなに聞いてみれば問題無かろう。ミミは分かっとるのう」


 リアナはむっと唇を尖らせる。


「……まあ、いいわ。明日、確認しましょう」


 ◇


 ――翌朝。


 三人は宿を出るなり、「家って建てていいの?」と当たり次第に声をかけて回った。

 市場のおじさん、ギルドの受付嬢カレン、近所の八百屋のおばちゃん、ギルドの受付嬢カレン、通りすがりのおばちゃん……とにかく目についた人に質問して回る。


「んー、たしかあの辺は空き地多いから、大丈夫なんじゃないかなぁ?」

「家を建てていいかどうかは、ギルドではお答えできません。というか……分かりません」

「国の登記制度? あー、そんな面倒なの、この街じゃ誰も気にしてないわよ」

「いや、何度来られても答えは変わりません。ギルドではお答えできません」

「許可? 許可取る人、見たことないねぇ」


 集めた情報を頭の中で整理し、セイは腕を組んで真剣な顔でうなずいた。


「つまり――明確な禁止はない……! これはいけるっ!」


「……絶対やめた方がいい気がするんだけど」

 リアナが頭を抱える。


「でも、やってみたい……!」


 ミミは両手を胸の前でぎゅっと握り、目を輝かせる。


 リアナは二度、三度と深いため息を落とした。


「……わかったわ。じゃあ本当に建てるとして――」


 そう前置きしてから、指を折りながら淡々と挙げていく。


「建材代、土地整備、魔道具の設置、水路の引き込み、トイレに風呂……ざっと見積もっても、安く見ても金貨百五十枚。三人で一年間、まともな宿に泊まってもお釣りが来る額よ? 本気で言ってるの、セイ?」


 セイとミミは、同時に固まった。


「……そ、そっかぁ……そんなに、かかるんだね……」


「じゃが、じゃがっ! あきらめるのはまだ早い!」


 セイはぽんと手を打つ。


「建てるのが無理なら――すでにあるものを活かせばいいのじゃ!」


「……既存物件。つまり、中古住宅ってこと?」


「廃墟とも言うのう。街の外れに空き家がごろごろしておったじゃろ? 少し手を入れれば、十分使えるはずじゃ」


「うっわ……嫌な予感しかしない」


「でも、それなら安いかも……?」


「そうじゃそうじゃ! ミミはやっぱり分かっとるのう!」


 リアナはむっと唇を尖らせつつ、念を押すように言った。


「ほんとにやる気なの!? 見に行くのは付き合うけど、住むのは別だからね!?」


 そうして、その日からセイたちは街外れを歩き回ることになった。


 草に埋もれた屋敷、傾きかけた小屋、今にも崩れそうな建物――

 目につく空き家を片っ端から覗いて回る。


 そして数日後。

 ようやく辿り着いたのは、一軒のレンガ造りの家だった。


 屋根は半分めくれ、壁は苔とツタに覆われている。

 玄関は見るからに歪み、長い間誰も出入りしていない様子が一目で分かった。


 極めつけに、扉には赤いペンキで大きく書かれた文字。


『入ルベカラズ』

『呪』

『死ス』


「…………」


「……ちょっと待って。今、何か音しなかった? これ、“いわくつき”ってレベルじゃないでしょ」


「ふむ、気のせいじゃろう。なんとも趣のある佇まいじゃ」


「趣っていうか怨念というか……なんか、“見られてる”気がするんだけど……」


 ミミはセイの背中にぴったりと張り付き、袖をぎゅっと掴む。


「で、でも……これなら、きっと安いよね……?」


「お、お化けなんて、絶対にいやだからね!」


 こうして、中古物件――いや廃墟の持ち主探しが始まった。

 通行人や近所の人に聞き込みを重ね、ようやく行き着いた先は街の隅。鍋を磨いていた小柄なおばあさんだった。


「ああ、それね。うちの父の代からの家さよ。もう誰も住んでないから、よかったら……金貨十五枚でどうだい?」


「いやいや、待たれい! 玄関に“呪”って書かれておったぞ? 完全に事故物件じゃろうが!」


「そうだよそうだよ! 屋根も崩れてたし、壁も草だらけだったんだよ!」


 セイの背後から、ミミが勢いよく援護に入る。


「むしろ、こちらが祓ってさしあげる側じゃぞ?」


「ふぅむ……じゃあ、金貨十枚でどうじゃ?」


「もう一声!」


「うーん……そもそも、あんたたち、本当にお金は持ってるのかい?」


「……ない」


「……ない、かな……」


 セイとミミが困ったように視線を交わす。

 その横で、リアナはわずかに安堵した表情を浮かべていた――が。


「しょうがないねぇ……これ以上はまけられないけど、頭金なしで月々銀貨八枚、三年ローンってのはどうだい?」


「のったーーーッ!!」


 こうして――

 セイたちは、「曰く付きの廃墟」を手に入れた。



────────────────

▼ステータス情報


【名前】セイ

【年齢】25(肉体年齢)

【職業】テンプレ詰め込み勇者

【レベル】10

【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/発想展開/世界法則書き換え/時間停止/運命介入/魅了体質/加齢無効/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定


【同行者】

 ・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)

 - 好感度:ちょい高(セイのおまけが大好き)

 - 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり

 - 状態:旅人っぽいワンピースを装備。人探し家探しでお疲れ気味

 - 補足:いわくつき物件であろうが、マイホームにテンション爆上がり中


 ・リアナ(元騎士団の見習い/18歳)

 - 好感度:中

 - 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ

 - 状態:剣士っぽいドレスを装備。人探し家探しでお疲れ気味

 - 補足:とにもかくにもお化けが本当に苦手であることは秘密である


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


もし少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、

ブックマークや感想で応援していただけると嬉しいです。泣いて喜びます。


もちろん「面白くなかった」などのご意見も大歓迎です!

しっかり次につなげるべく、泣きながら執筆します。


それと、本作とは少し雰囲気の違う シリアス寄りのファンタジー作品

『暁のアストラニア』( https://ncode.syosetu.com/n2326kx/ )もぜひぜひ!


気分転換に「じっくり読める作品が欲しいな」と思ったときにでも、

ふらっと覗いていただけたら、すごく嬉しいです。


皆さまの感想が、何よりのモチベーションです。

それでは、次回もぜひよろしくお願いします!

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