第8話 精霊の祠
「……ここ、すごくぞわってする。なにか……いる」
ミミが立ち止まり、祠の扉を見つめたまま動かない。
(……ホラーゲームでいうと、いわゆる「入ったらアカンやつ」じゃな。経験者には分かる空気というものがある)
だが、依頼は「調査」だ。
苔むした石段を一歩一歩踏みしめながら、三人は扉へと近づいていく。
「ふむ……扉は閉ざされておるが、鍵は掛かっておらんとのことじゃ。確認してみるか」
軋む音を立てて、扉の隙間から中を覗く。
わずかに差し込む光が床を照らすものの、その奥は闇に遮られている。
「……入ってみるかの」
リアナも剣の柄に手をかけ、表情を引き締める。
「確かに……普通じゃない気配。何か潜んでいるわ」
セイが頷き、先頭に立って扉を押し開けた。
ぎい、と木の軋んだ音が祠の中に響き、薄暗い空間がゆっくりと姿を現す。
中央には、不自然に綺麗なままの石碑が鎮座していた。
その周囲には砕けた破片や焦げ跡が散乱し、小さな光の粒がふわふわと舞っている。
「見て、あれ……石碑の下、光ってる」
「魔力反応じゃな……やはり何かおる」
次の瞬間、石碑の奥――深い闇がぐにゃりと歪んだ。
「下がれ!」
セイの声と同時に、影が床からにじみ出るように這い出してくる。
黒煙のように揺らめき、形を持たぬ不定形の怪物。
その存在はただそこに“ある”だけで冷気と圧迫感を放っていた。
「影の魔物か……なんとも不気味なやつじゃ」
「来るわよ!」
三人は即座に戦闘態勢を取る。
セイが前に踏み込み、スキル《加速支援》で一気に距離を詰める。
リアナは横から斬撃を放ち、ミミは後方で祈るように支援魔法を重ねた。
「うわっ……冷たい……! これ、本当に触れて大丈夫なの……?」
「心配せんでええ。魔力での干渉なら問題ない。ただ――油断はするな!」
狭い祠の中での立ち回りは難しかったが、三人の動きが少しずつ噛み合い始める。
しかし次の瞬間、影の魔物が腕のように伸ばした闇を横薙ぎに振り払った。
「っ……しまった!」
リアナが身をひねってかわしたものの、袖が裂け、白い腕に赤い線が走る。
鮮烈な痛みが走り、思わず一歩後ろへ下がった。
「リアナちゃん!」
ミミが駆け寄る。リアナは「大丈夫」と言いかけたが、その前にミミが手を取った。
「リアナちゃん、じっとして……すぐきれいにするね」
「う……ん、お願い」
リアナはわずかに視線をそらしながらも、大人しく腕を差し出す。
ミミはそっと顔を近づけ、柔らかな舌先で傷口をなぞった。
「っ……」
くすぐったさと、ほんのり熱を帯びた感覚が肌をかすめる。
やがてじんわりと光が広がり、裂けた皮膚は瞬く間に癒えていった。
「……ほんと、すごいわね。やっぱり……ミミさんにしかできない」
「えへへ。ありがとう、リアナちゃん」
リアナは顔を背けながら、小さく微笑んだ。
「……あんまり人前でやられると、ちょっと恥ずかしいですけどね」
「じゃあ今度は、もっとこっそりやろっか♪」
「……変なこと言わないで」
そう言いながらもリアナは剣を握り直し、息を整える。
「でも……ありがと。動きやすくなったわ」
「うん! 無理しないでね!」
「ワシもおるから安心せい。……中身はおじいちゃんでも、今は勇者じゃからの!」
「いや、それ意味分からないから!」
そんな軽口を交えつつも、戦況は着実にこちらへ傾いていった。
影の魔物は追い詰められ、輪郭が不安定に揺らぎ始める。
「もうひと押し……!」
三人の息が合い、セイの魔力を込めた短剣が影の魔物をとらえた瞬間――
石碑から迸る魔力が急激に膨れ上がり、強烈な光が弾けた。
「ミミ、下がれ!」
光に包まれた影の魔物は音もなく霧散する。
やがて光が鎮まったとき、石碑の奥にぽつんと一冊の本が現れていた。
その存在こそが、影の魔物が固く守っていたものだったのだろう。
「……あれ、本?」
ミミが驚きに目を丸くし、そっと歩み寄ろうとする。
「待て、それ以上近づくな。あれは危険な気配がする。封印型かもしれん。まず調査して――」
「あっ……開いちゃったかも……」
次の瞬間、本が激しい閃光を放ち、祠の中全体が眩い光に包まれた。
「ミミッ!」「ミミさん!」
セイとリアナの叫びも届かぬまま、ミミは光に飲み込まれ、その場に崩れ落ちる。
しかし閉じた瞼はすぐにゆっくりと開き、彼女の周囲には淡い癒しの光がふわりと舞っていた。
「……あれ、なんだろう。頭の中に……優しい声が響いてる……」
ミミの体から迸る魔力が形となり、床に淡い魔法陣が自動的に展開されていく。
「ミミさん、それ……回復魔法じゃないですか!? まさか、スキルの覚醒!?」
「ミミ、大丈夫か?」
「……なんか、魔法が使えるようになった気がする……」
ミミはそっと両手を見つめ、指先にきらめく光の粒を感じ取っていた。
その様子を見て、セイが一歩前に出る。
「ふむ……少しじっとしておれ。鑑定してやろう」
セイは手をかざし、《魔法適性鑑定》を発動した。
【対象:ミミ】
・属性傾向:光/水
・適性魔法:回復・浄化・支援・結界
・覚醒状態:第一段階解放(潜在魔力解放済)
「むぅ……なんじゃこの適性値は。回復・支援に完全特化しとる……!
しかも浄化と結界まで持っとるとは、癒しの極みじゃな」
「えへへ……セイ、これからは舐めなくても、ちゃんと魔法で直せるね!」
嬉しそうに飛び跳ねながら、ミミは次々と光の魔法陣を展開してみせる。
「しかも補助系もいっぱい……へへっ、これでもう一人前だよね♪」
その都合のよすぎる覚醒に、セイとリアナはただ呆然と見入るしかなかった。
「……テンプレ勇者のご都合展開、まさか仲間にまで及ぶとは……」
セイは肩を落としながら、心底あきれたようにつぶやいた。
◇ ◇ ◇
三人は祠の調査を終え、ギルドへ戻って受付嬢カレンへ報告を行った。
「……つまり、祠の周辺には魔獣の兆候はなく、内部で正体不明の魔物と遭遇。これを討伐後、異常な魔力を帯びた遺物(本)を発見した――そういう報告ですね?」
「うむ。おそらく以前から寄せられていた光の目撃情報や魔力の異常反応は、あの本が原因じゃろう」
カレンは真剣な表情で頷き、報告書にさらさらと筆を走らせた。
「……確かに、そう考えるのが自然です」
記録をまとめ終えると、彼女は資料棚から一枚の依頼票を取り出した。
「分かりました。あとは調査隊を派遣して詳細を確認します。――さて、今回の依頼の結果は上々。正式ランクとしてEに昇格を推奨いたします。それと……もしよろしければ、次の推薦依頼をお受けになりませんか?」
「推薦?」
「はい。遺跡の探索任務です。少し距離はありますが、これまでの実績を踏まえれば適任かと」
「喜んで受けるよ!」
ミミが勢いよく返事をし、セイとリアナも思わず見合わせて頷き合う。
「ねぇリアナちゃん、これからも一緒に冒険してくれる?」
リアナは照れたように視線をそらしながらも、やわらかく微笑んだ。
「……うん。ミミさんたちとなら、きっと楽しくやっていけると思う」
「じゃあ、これで正式にパーティ結成だね!」
明るい声がギルドに広がり、三人の新しい冒険が始まろうとしていた。
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▼ステータス情報
【名前】セイ
【年齢】25(肉体年齢)
【職業】テンプレ詰め込み勇者
【レベル】10(+3)
【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/世界法則書き換え/時間停止/魅了体質/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)/威圧/加速支援/魔法適性鑑定
【同行者】
・ミミ(記憶喪失の少女/推定15歳)
- 好感度:ちょい高(リアナに負けまいと奮闘中)
- 能力傾向:回復系(第一段階覚醒済)/ヒーラー適性あり
- 状態:衣服・装備も整い、体調良好! でも今回の戦闘でちょっとお疲れ気味
- 補足:回復魔法と補助魔法を覚えてテンションは最高潮へ
・リアナ(元騎士団の見習い/18歳)
- 好感度:中(不思議と息が合う)
- 能力傾向:攻撃系(雷・風属性)/貫通・麻痺・加速タイプ
- 状態:結構高そうな銀の胸当てを装備。今回の戦闘でちょっとお疲れ気味かも
- 補足:ミミが回復魔法を覚えて、これで回復のたびに舐めてもらわなくていいんだと少し安心
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