表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/4

第1話 転生!ぎっくり腰からの異世界スタート

「じいじー! だっこー!」


 日曜の午後。

 窓から差し込む陽だまりが、リビングのカーペットをやわらかく照らしている。

 テレビ前でくつろいでいた榊 清太郎(さかき・せいたろう/七十五歳)は、その声に顔を上げて頬をゆるめた。


(――この声を聞くと、心まで若返るわい)


 定年後の暮らしは想像以上に穏やかで、そして幸せだった。

 孫娘の芽衣と遊び、昼寝をし、ときどき一緒におやつを食べる。

 最近ではPrimeビデオやNetflix、dアニメを駆使して“今どきのアニメ”を追いかけるのが日課だ。


「今季は異世界転生モノばっかりじゃのう……追放、ハーレム、スローライフ……流行りは巡るもんじゃ」


 ひとりぼやく声に、芽衣が首をかしげて笑う。

 その何気ない仕草ひとつで、胸の奥がじんわり温かくなる。


 録画リストも“あとで見る”も未視聴作品でぎっしり。

 自他ともに認めるアニメ好きの“おじいちゃん”――それが、今の清太郎だった。


「おうおう、今日も元気じゃのう、芽衣は……よいしょっと」


 立ち上がり、両腕を広げる。

 小さな身体を抱き上げようとした――その瞬間。


「……っぐぅ!?」


 背筋を、鋭い痛みが突き抜けた。

 稲妻のような衝撃が腰から脚へと駆け抜け、息が詰まる。

 脚の力が抜け、視界の輪郭が揺らぐ。


「あっ……う、動けん……!」


「じいじ!? どうしたの!?」


 芽衣の大きな瞳が、不安で震えた。

 駆け寄ろうとする小さな足音が、やけに遠くに聞こえる。

 伸ばした右手は震え、指先は空気を掴むばかりだった。


「おかあさーん! じいじがー!」


 幼い叫びが廊下の奥へ消えていく。

 清太郎の身体はふらりと傾き、そのまま背中から倒れ込んだ。

 クッションの柔らかさが背を包み、わずかな温もりが残る。


(……すまんの、芽衣。せっかくの日曜じゃというのに……)


 意識が遠のく中、耳の奥で、かすかなサイレンの音が鳴っていた。


 ◇ ◇ ◇


 目を開けると、上下も奥行きもわからない真っ白な空間が広がっていた。

 無機質な光があたりを包み、その中心にうさ耳の少女が立っている。

 シルクの布一枚をまとい、身体の線が透けそうな装いで、うさ耳をぴくぴく震わせている。


「……うさ耳?」


「はい! うさ神と申しますっ!

 本日は異世界転生をご利用いただきありがとうございます!」


「えっ、転生ってことは……ワシ、死んだんか? いや待て、転生ってサービス業なんか?」


 うさ神はペコリと頭を下げる。


「本来はですねー……お孫さんの芽衣ちゃんに、“召喚信号”を送ったんですけど……」


「……ん?」


 少女は上目づかいで、清太郎の様子を伺いながら続ける。


「それが……なぜかタイミング悪く、その光が――あなたの腰に"ズドンッ"て直撃してしまいまして!」


「……は? いやいや、ワシ、ぎっくり腰で倒れたんじゃろ?」


「はいっ! その“ぎっくり腰”こそ、召喚エネルギーによる物理的干渉だったんです! つまり……不慮の事故です!」


「不慮ってレベルか!

 孫と遊び、アニメを見て、満ち足りとった老後を――あんたのミスで終わらされたんかい!」


「……申し訳ありませんっ!!」


 うさ神は床へ額を押しつける勢いで土下座する。

 長いうさ耳までぺたんと垂れ、床にこすりつけるように震えていた。


「ですが、そのまま進んでいたら――お孫さんが異世界召喚されていました!

 まだ精神的に未成熟な芽衣ちゃんが、戦いの渦へ放り込まれるところだったんですよ!」


「……それは……」


 清太郎は、「無茶苦茶じゃないか」と思いながらも、しばらく黙っていた。

 もし芽衣が、何の説明もなく異世界に連れていかれていたら――


「……まあ、孫の代わりなんじゃったら、しょうがないな」


 ため息をひとつ吐き、肩をすくめる。


「孫の代わりに転生。ふむ、それもまた、じいちゃん冥利に尽きるというもんじゃ。

 でも、なんで芽衣なんじゃ? あんなちっこい子が、なんで異世界に飛ばされにゃならんのじゃ」


 問いかけに、うさ神はぱちんと指を鳴らし、つんと胸を張った。

 宙にモニターがふわりと浮かび上がり、そこには芽衣の写真と《素質判定:Sランク》の文字。


「芽衣さんには、この世界で“勇者の資質”が非常に強く備わってまして!」


「資質……? あの子、まだ九九も言えんのじゃが」


「むしろそういう純粋無垢な魂こそ、適性が高いんです!

 神聖スキルへの親和性、精神同調率、適応能力――どれをとっても過去最高クラス!

 未来の超絶チート勇者候補ですっ!」


「……なんか知らんがすごい褒められとるな、芽衣……」


「でもご安心くださいっ!」


 うさ神はぐっと身を乗り出し、びしっと清太郎を指差す。


「芽衣さんと同じ血を引くあなたにも、もちろん! 勇者の力が存在します。するはずです――たぶん!」


「……最後の“たぶん”が一番不安になるんじゃが」


「でもでもっ! 遺伝的にも、ご家族には適性が強い傾向があります!

 ちょっと年齢の分だけ変換効率が悪いかもしれませんが、そこは補正しておきますので♪」


「補正って……それができるなら、誰でもよかったんじゃ――」


「いえいえっ! そんなことありません!」

 食い気味の否定と同時に、長いうさ耳がぴょんっと跳ね上がる。


「テンプレ詰め込みパックを適用できるのは、“あなた”だけなんです! 安心してください!

 ……ちょっとレベル1からのスタートになりますが、それもまた物語の醍醐味ですっ!」


「……で、その世界でワシは何をせにゃならんのじゃ?」


「はい! 芽衣さんを異世界召喚から守ったことで、あなたには“代役”としての資格と責任が発生しました!」


「責任……のう?」


「そうです。その世界の“崩壊の未来”を変える鍵となる少女たちに出会い、正しい選択を導くこと――それが勇者あなたに課せられた使命なのです!」


「……そりゃまた、やけに壮大な話じゃのう」


 少女――いや、うさ神のテンションは相変わらず高い。

 清太郎の戸惑いなどお構いなしに、再びぱちんと指を鳴らす。


 目の前に、青白いステータスウィンドウが浮かび上がった。


【名前】榊 清太郎 → セイ

【年齢】25(肉体年齢)

【職業】テンプレ詰め込み勇者

【レベル】1

【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/発想展開/世界法則書き換え/時間停止/運命介入/魅了体質/加齢無効/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)


「……なんじゃこのスキルのバーゲンセールは!?」


「異世界テンプレ、フルセットです♪

 さらに、最初の村にいるヒロインは“記憶喪失の奴隷少女”。その次は“ツンデレ騎士”、さらに“おっとり聖女”、温泉回も完備! ご都合主義展開も、もちろんおまけでつけちゃいます!」


「……テンプレというより、もはやパワーワードの詰め合わせじゃろ!」


「ですです! それがこの作品の仕様ですからっ♪」


 どこまでも明るく言い切る少女の背後で、空間がぱきぱきと音を立ててひび割れ始める。

 次の瞬間、足元が崩れ――


「ぐああああああっ!?」


 まばゆい光の中、清太郎は絶叫しながら宙へと放り出された。


 ◇ ◇ ◇


「――ッ!?」


 背中を地面に叩きつけられる衝撃で、意識が一気に冴えわたる。

 いや、そもそも眠っていたわけではない。ただ――体が、妙に軽い。


「どこじゃここは……? 草原……か? 空が……やけに広い……」


 吐き出した自分の声に、思わず違和感を覚える。

 かすれた低音のはずが、若く張りのある響きになっていた。


「……って、ワシ……若返っとる!?」


 両手を握り開き、腹筋に力を入れる。

 引き締まった感触に息を呑み、足元の浅い水たまりを覗き込んだ。


 そこに映ったのは、見知らぬ――いや、妙に整った若い男の顔。


「……しかも、このイケメン顔はワシじゃなかろう!」


 転生という言葉が脳裏をよぎる。

 草原を抜ける風は爽快で、陽光は肌を温め、草の香りが鮮烈に鼻をくすぐった。


「……ふむ、やってやるかのう……とりあえず、追放モノではなさそうで安心したわい」


 苦笑まじりに呟いたその時――


「――きゃあああっ!」


 木立の向こう、草原の先から少女の悲鳴が響く。

 反射より早く、清太郎――セイは身体を前へ投げ出した。


 草を蹴り、風を裂き、ただ声の主へ向かう。

 胸の奥が熱くなる。まるで、アニメで見た「勇者の初仕事」そのものだ。


(おお……これが、始まりというやつじゃな)


 走るほどに、自分の体の変化を思い知らされる。

 足は速く、息は乱れず、視界は驚くほど鮮明で、耳は鳥の羽ばたきさえ拾っていた。


(これが……転生後のワシの力!)


 茂みを抜けた先――


 そこにいたのは、泥にまみれた淡い銀髪の少女。

 ほつれた布切れのような服をまとい、裸足の足首には錆びた枷が光っていた。

 泥と汗に濡れた布が肌に貼りつき、白い輪郭を透かしている。

 その小さな身体を、粗末な鎧と曲がった剣を手にした三人の「モブ盗賊」が取り囲んでいた。



────────────────

 ▼ステータス情報


【名前】セイ

【年齢】25(肉体年齢)

【職業】テンプレ詰め込み勇者

【レベル】1

【スキル】生活知識大全/魔法知識大全/発想展開/世界法則書き換え/時間停止/運命介入/魅了体質/加齢無効/無限成長/強制ハーレム誘導/おじいちゃんの優しさ(ヒロイン全員好感度+100)

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


もし少しでも「面白い」「続きが気になる」と感じていただけましたら、

ブックマークや感想で応援していただけると、とても励みになります。泣いて喜びます。


もちろん「面白くなかった」「ここが気になる」などのご意見も大歓迎です!

次につなげるために、しっかり受け止めながら泣きつつ執筆します。


それと、本作とは少し雰囲気の違う“シリアス寄りのファンタジー”

『暁のアストラニア』( https://ncode.syosetu.com/n2326kx/

)も、もしよければぜひ!


気分転換に「じっくり読める物語が欲しいな」と思ったときに、

ふらっと覗いていただけたらすごく嬉しいです。


皆さまの感想が、何よりのモチベーションです。

更新は基本的に《火・木・土》を予定しています。


それでは、次回もどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ